令和5年予備試験論文再現 憲法

1 本件においてXは、Xの証言拒絶は、表現の自由(憲法21条1項)により保障される、報道の自由および取材の自由により正当化されると主張することが考えられる。これは認められるか。
2 事実の報道の自由は、国民の知る権利に奉仕し、国民が国政に関与する上での重要な判断資料を提供するものであり、「一切の表現の自由」として21条1項により保証される。そして事実を報道するための取材の自由も、21条1項の精神に照らし、十分尊重に値すると解する。そしてフリージャーナリストであるXにもこの報道の自由は保障される。
3 では、Xに対する証言の強制は、Xの取材の自由を制約することになるか。
 本件においてXは、証人尋問においてインタビューに応じた者の名前を問われている。そして、このインタビューの内容は、SDGsに積極的にコミットしている家具メーカー甲が、乱開発による森林破壊が国際的に強い批判を受けているC国から原材料を輸入している、というものである。「職業の秘密に関する事項」(民事訴訟法197条1項3号)とは、当該秘密が公表されると、職業の遂行が不可能または困難となる事項を言うと解するが、本件取材内容は企業の内部事情であり、守秘義務契約に違反する内容である。そうするともし、インタビューに応じた者の名前を証言すると、今後乙と同じような立場の者から、企業の内部事情を取材することができなくなる可能性がある。そうすると、今後の取材活動が不可能又は困難になる恐れがあるので、本件証言内容は「職業の秘密に関する事項」にあたる。
 よって本件において証言を強制することは、Xの取材の自由を制約することになると解する。
3 では、本件における証言の強制は公共の福祉(13条)により正当化されないか。
 事実の報道の自由は先述のとおり、国民の知る権利に奉仕し、国民が国政に関与する上での重要な判断材料を提供するものであり、個人の自己実現と自己統治にかかわる重要な権利である。しかし一方で、国民には裁判を受ける権利が保障されており(32条)、公正な民事裁判の実現のために証言の強制がやむを得ない場合も想定される。そこで、証言の強制が許されるかどうかは、事件の重大性、証言の重要性、証言を強制されることによって取材の自由が制約を受ける程度、およびそれが報道の自由に及ぼす影響等諸般の事情を考慮して決すべきである。
 本件はSDGsに積極的にコミットしていることで知られる会社が、乱開発による森林破壊が国際的に強い批判を受けているC国から原材料となる木材を輸入していたという事件であり、SDGsという国民的関心の高い事件であり、事件の重大性は認められる。また、本件訴訟は守秘義務契約違反に基づく損害賠償請求訴訟であるので、守秘義務違反の有無を確認するためにインタビューを受けた者の氏名の証言は重要である。よって証拠としての重要性も認められる。しかし、Xとしては、もし氏名の証言をすると、今後乙と同じような企業の関係者から企業の内部情報を取材することが不可能または著しく困難になる恐れがあり、今後の取材の自由が制約される恐れは大きく、取材した事実に基づく報道の自由に及ぼす影響も大きいといえる。
4 以上から、インタビューを受けた者の氏名は「職業の秘密」(民事訴訟法197条1項3号)にあたり、Xに対する証言の強制は正当化されない。
5 よって、Xの証言拒絶は憲法21条1項により認められる。
                               以上

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