令和5年予備試験論文再現 民法

第1 設問1
1 BのAに対する請求は認められるか。
2 本件請負契約の締結は令和5年7月1日であるが、Aは、個人宅における掛け軸の標準的な保管方法に反し、甲を紙箱に入れたのみで湿度の高い屋外の物置に放置したため、本件請負契約の締結に先立つ令和5年6月15日ごろまでに、甲は原形をとどめないまでに腐敗し、修復することができなくなってしまっている。そうすると、本件損傷の修復債務の履行は、「その契約の成立の時に不能であった」(民法413条の2第2項)といえる。
3(1) よって、Bは415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することができるが、この場合、Bは250万円全額の損害賠償請求ができるのかが問題となる。
(2) 「債権者の責めに帰すべき事由」(536条2項前段)とは、債権者に履行不能につき故意過失がある場合をいう。
(3) Bは、個人宅での保管であることから甲の現在の状態に疑念を抱き、Aに対して念を押したうえで本件契約を締結している。またAは、個人宅における掛け軸の標準的な保管方法に反し、甲を紙箱に入れたのみで湿度の高い屋外の物置に放置しており、Aからの問い合わせにも保管方法に問題はない、と答えるのみで放置していた。そうすると、本件掛け軸の保管につきAは尽くすべき注意義務を尽くしていないといえ、Aには甲の保管につき注意義務違反の過失があったといえる。
(4) よって、「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったとき」(536条2項前段)にあたり債権者であるAは、反対給付の履行を拒むことができず、250万円全額の履行をしなければならないとも思える。
4 しかし、本件においてBは、請負契約に基づく甲の補修債務を免れているので「自己の債務を免れたことによって利益を得たとき」(536条2項後段)にあたる。よってこれを債権者に償還しなければならない。よってBは、請負報酬債権額の250万円全額の請求は認められず、甲の修復に要する材料費等の費用一切として支出した40万円のみを損害賠償請求できると解する(415条1項)。
第2 設問2小問(1)
1 本件においては、即時取得(192条)の成否が問題となる。
2 DC間の契約は壺乙の売買契約であり「取引行為によって」といえる。また「平穏に、かつ公然と」の要件を否定する事情も見当たらない。またBはDからの質問に対して乙の所有者がCであることを説明しなかったので、Dは乙の所有者がBであると信じていたといえる。よって、Dは「善意であり」、かつ「過失」もなかったといえる。
3(1) では「占有を始めた」といえるか。BはDとの売買契約が成立した直後に、Dに対して「乙は以後DのためにBが保管する」と告げている。そうすると、「代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したとき」(183条)といえ、占有改定にあたる。このような占有改定でも「占有を始めた」といえるか。
(2) 占有改定が行われても、外形的な占有移転の事実が認められないため、占有改定でも即時取得が成立すると、真の所有者の静的安全が害されることになる。
(3)よって、占有改定では「占有を始めた」とは言えないと解する。
4 以上から、Dの即時取得は成立しないので、DのCに対する本件請求は認められない。
第3 設問2小問(2)
1 本件においては、代理権消滅後の表見代理(112条)の成否が問題となる。
2 BはCに対して本件壺乙を販売する権限を与えており、「他人に代理権を与えた者」といえる。
 しかしその後Bは、令和5年6月1日、本件委託契約の契約条項(3)に基づき乙の返還を請求する旨の通知をし、同日Cに到達している。そうするとBD間の本件売買契約(令和5年6月2日)よりも先にBC間の委託契約は終了しているので、本件売買契約は「代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為」といえる。
 そして本件売買契約時、Dは乙について、Bは本件委託契約に基づく処分権限を現在も有していると信じていた。そうするとDはBの代理権の消滅につき善意だったといえ、「代理権の消滅の事実を知らなかった第三者」といえる。またDの過失を基礎付ける事実も見当たらない。
3 以上から、Cは第三者であるDに対して責任を負うので、DのCに対する請求は認められる。
                               以上

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