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YOASOBIの魔法 | YOASOBI ARENA TOUR 2023 “電光石火” 神奈川 追加公演Day2公式レポート

淡い、白い光に照らされている会場。まだか、まだかと待つ人々。早く始まって欲しいと思えば思うほど、秒針が進むのが遅く感じる。
正直に言うと、私は興奮していてライブが始まるまでに何があって、何を考えていたのかあまり覚えていない。
ただ、会場が暗くなった瞬間は覚えている。
鳴り響くサウンド。これでもかと暴れまくる光。
そして、幕が上がった。
ステージに上がってくる二人を見たとき、まぶしいと思った。ステージが光っているのだから当たり前だが、なぜだかそれ以上に輝いて見えた。
観客の持つペンライトが光の草原なら、あのステージに立つ人達は太陽、いや、月と表現するべきか。直視しても目を痛めることはないから。そして、月が太陽の光を反射して光っているように、YOASOBIもたくさんのスタッフとファンが居てからこそ、光る。そう思う。
「YOASOBI始めます!!!」


ikuraの声が響いた。待ち望んでいた瞬間が、やっと来た。

YOASOBI ARENA TOUR 電光石火 ライブレポート

1.YOASOBIとの出会い

私がYOASOBIを知ったのは、今から3年ほど前のことだ。
YouTubeで偶然「夜に駆ける」を聞き、普通にいい曲だと思った。でもそれだけだった。
そのまま初めてのアルバム、『THE BOOK』が発売され、「夜に駆ける」が収録されているならと思い、レンタルして車に内蔵されているミュージックプレイヤーの中に入れた。
しばらくは「夜に駆ける」しか聞いていなかった。
それから半年ほどたった頃、アルバムに収録されている他の楽曲を聞いてみた。そして一度入ったらもう抜け出せないYOASOBIの沼にはまり、今に至る。
なぜ急に「夜に駆ける」以外の楽曲を聞いたのか。
本当に些細なことだった。叔父の車で「ハルジオン」を聞き、興味を持ったからだ。
一度聞いただけなのに、そのメロディはなかなか私の頭から離れてくれなかった。
「『THE BOOK』に収録されているのでは」と思い、全部聞いた。
初めて全部聞いたときのあの気持ちは今も覚えている。
「アンコール」から始まり、その余韻に浸る間も開けず「ハルジオン」「あの夢をなぞって」とアップテンポな曲が続き、「たぶん」とゆったりとした曲が。その後もまたアップテンポな「群青」、優しいメロディの「ハルカ」と続き、ラストに「夜に駆ける」。
私はこの順番も好きだ。最後の「prologue」を聞き終わったとたん、またもう一周してしまう。
一体何がこんなに響いたのだろう。
考えてみると、コロナウィルスの影響が大きかったと思う。
コロナで世界が変わってしまったのは、私が小学校6年生のとき。
4月から6月までの休校を強いられた。
小学校5年生のとき、来年で最後だと思っていたが、「普通の学校生活」はその年で全て最後だった。
音楽会も運動会もプールの授業もなし。修学旅行は県内だった。
卒業式をやれただけ良かったと思うが、もちろん制限ありで、卒業式に来れたのは母だけだった。
何もかも思い通りにいかず、マスクで息苦しい生活が続いた。
そんな時にYOASOBIと出会い、YOASOBIの楽曲を聞くことは私の生きがいのひとつでもあった。
YOASOBIと出会えたのは、本当に奇跡だったと思う。
あの時、「夜に駆ける」を聞いていなければ。あの時、CDをレンタルしていなかったら。あの時、叔父の車に乗っていなかったら。私はYOASOBIに出会えていなかった。
辛いこと、嫌なことがあっても、YOASOBIの楽曲を聞けば全部忘れて楽しめる。
本当に素晴らしいことだと思った。

2.とうとう始まったライブ

ついに始まったライブの最初を飾ったのは「祝福」だ。ペンライトを持っていなかった私は手拍子をおもいっきり打った。ライブ後に手が真っ赤になっていたが、全く気付かなかったし、痛くもなかった。
生で聞いた「目一杯の祝福を君に」は録音のものとは違う何かがあった。

「祝福」が終わりすぐに代表曲、「夜に駆ける」が始まった。YOASOBIを知るきっかけとなったこの曲は、一言一句をちゃんと聞きたくて、手拍子ではなくスマホのライトを振った。

そしてまた間髪開けずに「三原色」。
「タオル回せ!」と煽りが入る。
色とりどりのペンライトとレーザー光、タオルが会場を埋め尽くした。その光景は、会場の照明が落とされて真っ暗だったこともあって、夜空に浮かぶ星と流星を想像させた。

あっという間に三曲終わり、MCに入る。
ところどころからYOASOBIメンバーの名を呼ぶ声が聞こえた。
ikuraが「今日がはじめましての人!」「二度めましての人!」「全ツアー回った人!」と聞くたびにたくさんの手が上がった。

そして「セブンティーン」。音が心臓にまで響いたが、全く不快に思わなかった。


「ミスター」「海のまにまに」になると、これまで赤色だったペンライトを青にする人がほとんどだった。


私も白いスマホのライトをまわりにあわせてゆっくりと振った。

「好きだ」のイントロが始まるとikuraが「今好きな人がいる人!」と叫んだ。一斉に手を上げる人達を見て、ikuraが笑い、歌い出した。
直木賞作家の書いた小説をもとに楽曲を作るこのプロジェクトの中で、一番好きな小説は?と聞かれたら、私は「好きだ」の原作小説、「ヒカリノタネ」と答えるだろう。他の作品と比べるとかなり長いが、どんどん読み進めてしまった。そして、えもいわれぬ満足感が心を満たした。
甘酸っぱくて少し苦い恋。私の初恋はまだだが、いつかこんな恋をするのだろうか。

そしてまたMCに入る。今度はバンドメンバーの紹介だ。
バンドメンバーのコメントを聞くたび、YOASOBIのことを本当に愛しているんだなと思えた。

続いては「優しい彗星」。この曲は柔らかな光と共に始まった。


私がYOASOBIの曲の中で最も好きな曲のひとつだ。この楽曲は、原作ととてもよく合っていて、聞いていると泣いてしまうというような声をよく聞く。私は「優しい彗星」の原作にあたる「BEASTARS」の「獅子座流星群のままに」を読んだことはないが、歌詞とMVからなんとなくの結末をつかんでいた。
これは読んだら泣いてしまうのでは、と思った。
今まで星の数ほど小説を読んできたが、どうも私は涙腺が固いらしく、「泣ける」と評判の作品でも、「確かに泣ける話だ」と感動するだけで涙はあまり出てこないのだ。
読んでいる途中で泣いてしまった作品は覚えている限りでは2作品だけだ。
「深い深い暗闇の中で出会い共に過ごしてきた類のない日々」
ikuraの歌声に耳を澄ましていると、不意に目頭が熱くなった。
私は、今、泣いている?
目を擦ると、手の甲に水のような感触。
私は人生で初めて、曲を聞いて泣いた。
なぜあの時、急に涙が溢れたのか、今でも分からずにいる。

青い柔らかな光に包まれていた会場が、急に真っ赤になった。
「もしも命が描けたら」が始まった。
この楽曲について、Ayaseは「僕自身の命を削る思いで何度も何度も作り直した」とツイートしている。
本当にこの楽曲は壮大で、最後の一音まで聞き入ってしまう。

「もしも命が描けたら」の次は「たぶん」だ。
白く光ったステージは、朝に柔らかく光る太陽のようだった。

そしてまたMCに。今度はAyaseによるスタッフの紹介だった。身長から着ているTシャツのサイズまで紹介され、恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに笑うスタッフ達。
YOASOBIはたくさんの人に支えられ、活動しているのだと気付いた。

軽快なサウンドで始まったのは「ハルジオン」。
YOASOBIを好きになるきっかけとなった曲だ。
私はこの曲の原作を読んだとき、他の曲と少し違うように感じた。
「アンコール」や「あの夢をなぞって」は歌詞に小説のセリフや言葉がそのまま入っているところがあるが、「ハルジオン」は小説と同じセリフや言葉が出てこないのだ。
でも、この曲を聞くと失恋した主人公の姿が思い浮かぶ。
「戻れない日々の続きを歩いていくんだ これからもあなたがいなくても」
私が「ハルジオン」で一番好きな場所だ。小説通りの歌詞がなくても、小説ととてもあっている。
この曲はAyaseの才能とikuraの才能が合わさって、最高の一曲になっているのだ。
私は腕がしびれるくらいにスマホのライトを振った。

「ハルカ」が始まると、会場は黄色い光で溢れた。
この曲を聞くと、なぜか卒業式の光景を思い出す。ハルカと月の王子様のお互いの愛と別れが綺麗に表現されている。
原作小説を読んだあとにラストの「いつまでも 愛してるよ」を聞くと切ないけれど、温かい気持ちになる。

次は「ツバメ」だ。
「ツバメダンス」は小学校の運動会でよく踊られている。
青と緑が中心の光が、太陽のように会場中を照らした。
ここで私は、もうすぐこの夢のような時間が、ライブが終わってしまうと気付いた。

真っ赤な光が真っ暗な会場を埋め尽くす。眼科にはまた真っ赤なペンライトの波。
「怪物」だ。
MVも赤と黒を基調としているため、「怪物」を思い浮かべると墨汁のような黒と血のような鮮やかな赤がパッと思い付く。
「本当の僕は何者なんだ教えてくれよ」
この曲を初めて聞いたとき、この歌詞が頭をずっとぐるぐる回っていた。ダークな曲調と絶妙にマッチしており、この曲を聞いたものは思わず自分が何者か考えてしまうのではないだろうか。
まだ明確な答えは出ていないが、死ぬそのときまでずっと考え続けるだろう。

残り2曲。
「全部思い入れがあるんですけど、やっぱり・・・」
ライブ前にインタビューさせてもらったときのikuraとAyaseの答えがフラッシュバックした。

3.楽曲への思い

私は、ライブが始まる前に10分ほどikuraとAyaseにインタビューさせてもらった。
2人ともちゃんと私の目を見て、真剣に答えてくれた。2人の人格のよさがにじみ出ている。
私は早速一つ目の質問を口にした。

Q.今回のライブで披露する楽曲の中で、一番思い入れがある曲は何ですか?
ikura:やっぱり私は「群青」かな?声出しができるようになって初のワンマンだったので、このツアーが。そこでファンのみなさんと一緒に大合唱してっていう空間を味わえて、本当に大感動で感無量っていう感じなので、一番このツアーで思い入れが強いかもしれないです。でも全部ですね!結局・・・(笑)
Ayase:「アドベンチャー」ですね。今日、見てくださるんですよね?見ていただいたらきっと分かると思うんですけど、すごいいい景色なので、だから「アドベンチャー」です。ただ、一番泣きそうになるなって・・・
ikura:我ながら泣いちゃう感じの曲だね。(笑)
Ayase:ねぇ(笑)歌詞も「待ちに待った特別な日」っていうようなことも、ライブでのそういったところと重なるところがあるし、そう思ってここに来てくれたお客さんたちだったな、っていうのをすごくよく景色として感じることが多いので、「アドベンチャー」という感じです。

Q.デビューから早4年。成長したなと感じることは何ですか?
ikura:あの頃と比べたら・・・もう人が変わったんじゃないかって・・・(笑)もう全部成長したと思いますけど・・・でもやっぱり、私はライブでこうステージに立つ者としての心構えだったり、精神的なこともそうだし、テクニカル的な部分もすごいパワーアップしてこれたなっていうのがやっぱりありますね。それと、自分の練習だったり、積み重ねでの努力って部分ももちろんあるんですけど、YOASOBIというものがどんどん大きくなっていくことで、みなさんの・・・そう、携わってくれているみなさんからもらうパワーから押し上げられて、自分が強くなっているっていうのをすごく日々のライブでもいろんな現場でも実感するので、環境から強さをもらっているのが成長の源だったかなと思います。
Ayase:そうですね、もう本当に僕が成長・・・まあもちろん、楽曲を作る上での考え方とか、仕事の向き合い方の成長はもちろん日々感じてるというか、まあ成長できてるといいなと思うんですけど、特にやっぱり、このツアーがYOASOBIとして初めてだったし、ツアーといっても一個一個ライブするだけでしょっていうくらいのテンションで思っていたんですけど、やっぱり2日ずつ各地を回っていって、一回目にやったライブで、二回目のライブ三回目四回目・・・とスパンが短く、どんどんこうすごい規模でトライをずっとさせてもらえるという環境になったことで、ようやく自分の考えが甘かった部分とか、YOASOBIをやる人間としてはこういう風に考えた方がいいんじゃないか、みたいなっていうのを向き合えるようになったっていう・・・これはツアーとしてずっと重ねていったから気付いたことだし、明らかにツアー初日と今の自分はもう全く考え方も違うし、モチベーションも違うし、自信もすごくついてきているので、マインド的な部分の成長はやっぱり感じていますね。

Q.本日の意気込みを教えてください!
Ayase:ようやく今日が14本目かな?まあ追加公演だけど、ツアーファイナルということで、今日で電光石火ツアー完結するので・・・でも、やっぱり昨日寝るときにすごく思っていたんですけど、なにか変に特別なことをやろうというより、今までずっと積み重ねてきたことをいつも通り、いつも以上のものを出すっていうのをいつも通りやってきたので、今日もいつも通り、楽しく、最後の1日にしようと思います。
ikura:本当に長旅ではあったんですけど、それが終わってしまうということで、本当に私としては悔いのないように全身全霊全力で、お客さんと一緒に楽しむっていうことを目標にしようと思っていて。本当に最後だから、何よりも音楽を楽しむことっていう原点を忘れないで今日は歌おうかなと思っています。それで、みんなと幸せな空間を作れたらなって思っています。

残った2曲は、2人が思い入れがあると語ってくれたあの2曲だ。
「ああ、いつものように 過ぎる日々に あくびが出る」
同時に青だけでなく、水色や群青色のレーザーが会場中を駆け巡った。それらはグラデーションのようになっていて、思わず息を飲んだ。


群青は青春の色。
コロナによって奪われてしまったと思った青春だったが、振り返ってみる決して嫌なことばかりではなかった。むしろクラスの団結力が高まっていたような気がする。
コロナがあったからこそ、今、ここで聞くこの歌がこの世の何よりもきれいなもののように思える。
「知らず知らず隠してた本当の声を響かせてよさあ」
会場のあちらこちらから合唱の声。私も思わず大声で歌った。
確かに大感動で感無量です。
心の中でikuraに語りかけた。

青い光が徐々に消え失せ、今度はカラフルな光で溢れかえった。


「アドベンチャー」だ。このツアーの最後の曲。
ステージが、ペンライトが、最後の大暴れ、というように光輝く。まぶしい。でも見たい。目に焼き付けたい。

会場中の人が手拍子を打ち、歌う。
Ayaseが「すごいいい景色」と言った理由が分かった。


光も音も空気も一つとなり「アドベンチャー」を作る。
「次はいつ会いに行けるかな」

4.アンコールの声

「アドベンチャー」が終わった。
この夢のような時間は終わりだ。


遠さがっていくikuraとAyase、バンドメンバーたち。幕がゆっくりと降りていく。

ライブの余韻に浸るようにエンドロールで「祝福」と「怪物」が流れる。
途切れることなく流れ続けていくスタッフたちの名前を見て、本当にこのライブには数えきれないくらいの人たちが関わっているのだと改めて実感出来た。
エンドロールが終わると、どこからともなく「アンコール!!」と聞こえてきた。
気づけば私も「アンコール!!」と叫んでいた。会場にいる全員が、再び幕が上がるのを待ち望んだ。

どれくらいの間、そうしていただろう。

真っ暗だった会場に光がよみがえった。


ピンクと紫が混ざったような色の光。
今、日本、いや世界中で聞かれているあの曲を連想させる色だ。

「無敵の笑顔で荒らすメディア 知りたいその秘密ミステリアス 」
戻って来てくれたときのこの喜び。
誰もが一回は聞いたことのあるであろうこの曲を目の前で歌ってくれるこの感動。
白い衣装に着替えたikuraとともに歌う。
「天才的なアイドル様!」

「アイドル」は挑戦の一曲だったと私は思う。今までYOASOBIの曲と全く違う、Kpop寄りのメロディ。明らかに難易度が高いと分かる歌。
初めてこの曲を聞いたとき、「今までの曲の雰囲気と全然違う」と思った。
当時は『【推しの子】』を知らなかったため、歌詞の意味があまり分からなかった。

だが、アニメの第一話を見て、「これは神曲だ」と確信した。
理由を説明しようとするとネタバレになってしまうため、詳しくは書かないが、私はラスサビに深く、深く感心し、感動した。
「ああ、やっと言えた これは絶対嘘じゃない 愛してる」
この歌詞の意味を理解したとき、私の固い涙腺が崩壊寸前までいった。
顔中に力を入れなければ声をあげて泣いてしまうほどに。
この曲を聞くたび、あのアイドルが頭のなかで歌い踊る。
Ayase自身が『【推しの子】』のファンだから、この素晴らしい曲が作れたのだ。
『【推しの子】』を愛していなければ、こんな曲は作れない。
また、「アイドル」を愛していなければ、こんなに綺麗に歌えない。
そして、「YOASOBI」を愛していなければ、こんなに満ち足りた気持ちで聞けない。
「アイ」のイメージカラーの光が会場を照らし、目はステージに釘付けになる。
そして最後。
ikuraと一緒に「愛してる!」と叫ぶ。
私はYOASOBIを愛している。これは絶対嘘じゃない。
ステージから「ルビー」色と「アクアマリン」色の光が飛び出した。


この演出は、元々はピンクだったが、『【推しの子】』を見たスタッフが「これはこの二色じゃなきゃダメだ!」となり、途中から変更されたものだそうだ。

「アイドル」の最後の一音が鳴り終わった。
これで本当に終わってしまった。
楽しい夢から覚めるのは嫌だが、また見れると思えば、明日から頑張れる気がする。
YOASOBIはまた会いに来てくれるはずだ。
そのときは、私も会いに行く。

これからも活躍し、世界に名を轟かせ続けるであろうYOASOBI。
いつまでも色あせず、語り継がれていくであろう彼らの背中がまた見えなくなっていくのを、私はまばたきも忘れて見送った。

Text 葉月成瀬(『はじめての』文芸部第一期生)
Photo by MASANORI FUJIKAWA

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