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世界にカケル「好き」の魔法〜UT×YOASOBI ライブオフィシャルレポート~

はじめに

「YOASOBIの魅力って、どこ?」
 この記事をご覧いただいている、きっとYOASOBIリスナーであろう貴方は、この質問になんと答えるでしょう?

 Ayaseさんの音楽、ikuraさんのボーカル、MVやアートワークの広がり、物語に引き込む力、格好よくも可愛らしいチーム感、斬新なライブパフォーマンス……などなど、人によって答えは様々でしょうし、それは全部正解でしょう。

 ただ僕は、彼らが提示する「出会い」の面白さ、常に新しく眩しい化学反応こそが絶大な魅力である、そう感じてやみません。YOASOBIという2人のユニット、そして世界を巻き込み続けるムーブメントの到達点と可能性を、強烈に浴びたのが今回のライブでした。

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 改めまして、お読みいただいている皆様、こんにちは。
 このたびUT×YOASOBIライブ「SING YOUR WORLD」のオフィシャルレポートを担当いたします、いち亀と申します。
 小説やレビュー記事の執筆を趣味とする駆け出し会社員です。皆様と同じYOASOBIファンの一人です。
 前回の配信ライブ「KEEP OUT THEATER」での企画に投稿した記事が、特に反響に恵まれたことで、このように特別な機会をいただくことができました。

 興奮と感動の詰まったライブ、その裏側をファン目線でご紹介するのが本稿です。ライブの様子を思い返しながら、YOASOBIの魅力を再発見できる時間となれば幸いです。

 なお本稿では、原作となった小説にも触れています。新鮮な気持ちで小説に触れたいという方には、先に小説を一読されるのをお勧めします(レポ関係なく、YOASOBI楽曲の面白さは原作小説とセットだと思っていますので、是非に!)

 それでは早速、ライブ当日の様子をお伝えしましょう!

公演会場

 今回の会場はユニクロ有明本部のオフィス、UNIQLO CITY TOKYOです。オフィスらしからぬスタイリッシュな雰囲気でありつつも、パフォーマンスをする場としては設計されていない場所。そこをこれだけ飾り付け、大規模なステージにしてしまうという発想自体、配信ライブならではですし、非常にYOASOBIらしいです。「KEEP OUT THEATER」での場所選びや美術も素晴らしかったですし。

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 ユニクロ様へのリスペクトを込めた、盛大な「夜遊び場」への改造。
 朝になったらまた社員の皆様が働きにくると思うと、つくづく不思議なロケーションです(実際に、翌日には全て元通りになっていたとのことです。スタッフの皆様、本当にお疲れ様でした!)

 ちなみに、おふたりに「次はどんな場所で演奏したいですか?」と聞いてみたところ、
「どんな場所でも自分たちらしく、遊び心満載でやりたい」とのことでした。
合わせて、「そうさせてくれるチームの皆に感謝しかない」とも。自由なアイデアと強固なチーム力の両輪がYOASOBIの強みですね。

 ……その上で、「遊園地でやりたいし、そのときはikuraちゃんメリーゴーラウンド乗って歌おうね」「私もそれ思った!」とノリノリで語っていたことも報告しておきます。

開演までの準備

 僕が会場にお邪魔したのは当日の昼頃からです。設営は金曜夜から行われており、「YOASOBIワールド凄え」「そもそもユニクロのオフィス凄えな?」と震えながら取材に入りました。

 お昼に始まったサウンドチェック兼リハーサル。ただでさえ詰める事項が多いであろう配信ライブですが、今回はステージ移動もあり、吹奏楽部まで出演……ということで、随所で緊密な連携が求められていました。

 ご覧になった方はご存知の通り、今回はカメラワークは凄まじい充実ぶりでした。撮影を安全に行い、かつ余計なモノを映さず視聴者に集中してもらう……その裏側の人の動き、それ自体もドラマのようでした。

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 真剣に、かつ礼儀正しく温かく、準備に臨んでいたAyaseさん& ikuraさん。ザクロさん(Key.)は
「関わっている人々みんながYOASOBIの音楽と二人の人柄を愛している、愛されるのには理由がある」と語っていましたが、まさにお二人の誠実さを感じる時間でした。

 そして、真剣な空気だけでなく。
 写真撮影や休憩の際は、仲良し度MAXの和気藹々とした空気が流れていました。

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 撮影用ドローンと交流を試みるikuraさん。オープニングや「怪物」「群青」などで大活躍の子でした。

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 ヘアメイク中のikuraさん。「手術みたいだよね~」という彼女のコメントから、一瞬だけ「メス!!」が流行語になったメイク室でした。

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突然の連弾。曲目は「たぶん」でした、レアなコンビ……

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「群青」でのコーラスの振りを確認……していたはずが、ikuraさんへと引き寄せられていくザクロさん。大好きすぎたのでしょう。

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 バンドメンバーも込みでの記念撮影。 仄雲さん(Dr.)は「僕もオフィシャルメンバーって錯覚するくらい鬼仲いい」と語っていましたが、実際にめちゃくちゃ仲良しでした。インストがBGMに掛かると誰からともなく踊り出すし、突っ込み所にはみんなが群がっていく人たちでした。

メンバー&衣装紹介

せっかくのユニクロ様とのコラボということで、今回のライブファッションについても詳しく伺ってみました。皆さん、事前アンケートに撮影に、ご協力ありがとうございました!

 まずはAyaseさん。

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・吹奏楽部との共演もあってバンドのコンダクターを意識
・今までにない「正装」感を目指した

 白銀の眩しさと、燕尾服のような長い裾が目を引きます。演奏での身体の動きが引き立ちますし、若きカリスマといった貫禄は充分!

 続いてikuraさん。

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・高校生との統一感を出しつつYOASOBIらしい遊び心を出すために、グレーのスーツにした
・ヘアスタイルでは、ポップなイメージを打ち破るべく尖った自分を表現

 斜めのベルトがアクセント。そして髪型に詰まった情熱……ふわふわ可愛いikuraさんもバチバチ格好いいikuraさんも最高です。
 ちなみに。現役の大学生でもあるikuraさんに「学業と音楽活動はどう両立していますか?」と質問してみたところ、「疲れていても、自分が決めた課題をやり抜くまで諦めないことです!」と答えていました……こういうところも格好いいikuraさんです。

 ギター、AssHさん。

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・綺麗め、他のメンバーとバランスを取った
・普段着ないタイプだから楽しみ

 執事を思わせるスマートな出で立ち。エレキギターの激しさは勿論、ガットギターのクラシカルさにもお似合いでした。

 ベース、やまもとひかるさん。

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・このバンドの衣装だと元気担当(?)のイメージ
・私服で普段着ないからソワソワする
・前回と180度変わっての正装、格好いい!

 フォーマルさはありつつも、ファンシーな主張が強い! 服装は勿論、髪色も前回とは打って変わっていました。どちらも超素敵。

 キーボード、ミソハギザクロさん。

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・全員かっちり寄りの中でもハズシ担当
・肩出しに厚底靴……と、普段の自分を汲んでもらった
・レザーのロングスカート、オトナ格好いい
・普段つけているアクセサリーをお守り代わりに
・メイクも気合いを入れ、自分の思う最高の「可愛い」で臨んだ

 丁寧にありがとうございました、個人的にも惹かれるポイントが目白押し……ライブ前に「ダンスも頑張ります!」と語っていましたが、演奏にも振りにもとても映えていました。

 そしてドラムス、仄雲さん。

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皆が勝利に確信している時、突然後ろから現れ圧倒的な力で戦況をひっくり返し、敵幹部との間に大きな差がある事を見せつけるラスボスの右腕敬語系伯爵。

 原文ママです、盛っていません。この文を読んだ他メンバーは困惑していましたし、僕も笑ってしまいました。ANNXで「仄雲くんは厨二」と語られていた通り。
 しかし解釈ド真ん中の喩えなんですよね~。こういうキャラは反撃されると卑怯な戦法に出るし、その卑怯さを見限られてラスボスに処刑されるんですよね、分かります。

開演!

 ゲネプロ(本番前の通し)や最終準備を経て、いよいよ開演です!


15.廊下

 オープニング、UT仕様に生まれ変わったオフィスの廊下を駆け抜けていくショット。最初のステージであるライブラリに空中から飛び込んでいく視点に、いきなり度肝を抜かれた人も多いのでは。ドローン撮影の裏では、各セクション間で秒単位での連携が取られていました。

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M-1 三原色

 そして流れだしたのは解禁ホヤホヤの「三原色」!
 NTTドコモ様の「ahamo」CM曲として、テレビでもWebでも聞き馴染みのあるキャッチーなナンバー……であるのと同時に。フルで聴くと想像以上のドラマチックさにグッと引っ張られる曲でもある、というのは皆さんも体験したばかりでしょうか。

 原作小説の「RGB」では、幼馴染み三人の久しぶりの再会が描かれています。それぞれの名前が光の三原色(Red/Green/Blue)で語られる、独特な構成。人が集まることで生まれる喜びの多様さを、太陽のようにまばゆく温かい絆を、祝福するような物語だと感じています。

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 異国情緒も覗く、祝祭感に溢れた音楽。そして「三原色」を体現する演出に、最初からクライマックス! なテンションでした。
 ちなみにこの曲は、Ayaseさんが「全身の細胞が悲鳴を上げるほど悩んだ」と語るほどの難産だったそうですが。本場のスパニッシュギターを徹底的に研究したというAssHさん、原曲と生演奏の良さを両立すべく試行錯誤を重ねたひかるさん、お二人とも「難しすぎる」と語っていました。この高揚感は技術の結晶。

 季節が移ろい、立場や関係性が変わってからの「再会」の喜びを歌うこの曲は、人との距離が必要になってしまった時勢には余計に眩しく響きます。
 同時に、好きな人に自由に会いに行ける季節、その訪れを先取りして祝うようにも聞こえました。現地で声が出せるライブが叶った日には思いっきり歌いましょうね……!

17.原色


M-2 ハルジオン

 疎遠からの再会を歌った1曲目に続き、離別の先を描いたのがこの曲。こうして並ぶと特に顕著ですが、YOASOBIの曲では出会いや別れ、あるいは両方が色濃く語られていると感じます。

 原作小説は「それでも、ハッピーエンド」。別れた恋人との思い出に改めて向き合い、前を向く……そうまとめてしまうのも憚られるほど、圧倒的な没入感を味わえる短編です。言葉のリズムも素晴らしくて、小説書きの端くれとして憧れる境地です。
 待っているはずだった、けど叶わなかった可能性を描くことで、現在の自分に向き合う……という営みは、僕を含め少なくない創作者に通じるものだと考えています。その意味でも「刺さる」、大好きな曲です。

18.ハルジオン全体1

 この曲が持つ疾走感は、過去を振り切ろうとする心の速度と、過去が追いかけてくる速度の両方だ……と僕は感じているのですが。セピア風な色合いとビビッドカラーが共存する照明が、そんな二面性を表わしているようでした。そして落ちサビ、ikuraさんを残して暗転する画の孤独感がたまりません。

19.ハルジオン落ちサビ

 パフォーマンスのたびに奥行きを増していくYOASOBIの世界観、その一端を味わえるステージでした。

M-3 もう少しだけ

 企画の趣旨を説明するMCに続き、こちらもライブでは初披露。「めざましテレビ」の新テーマソングとして、YOASOBIが朝の顔となった記念すべき曲でもあります。朝に掛かって夜に駆けるユニット。

 原作小説は「夜遊びコンテスト vol. 3」の大賞作品である「めぐる。」です。コロナ禍で募ってゆくフラストレーションと、それを越えて連鎖していく優しさを描いた、群像劇スタイルの短編。そして、熱すぎず軽やかに背中を押してくれるようなこの曲。まさに「今」に寄り添う物語でしょう。

 コロナの生命への脅威は言うまでもありませんし、経済へのショックも甚大ですが。たとえ感染していなくても、生計の見込みが立っていても、精神的に追い詰められてしまう人はとても多かったと思います。コロナ禍は心の戦いだ、そう感じる人も少なくないことでしょう。
 変容しつつも続く、平穏な日常。マスク越しとはいえ、笑顔が絶えない社会。それらを支えているのは、医療従事者をはじめとする各職域のプロだけではなく、この物語で描かれたような優しさの連鎖でもある……そう感じさせてくれた、非常に思い入れの深い一編です。

 ちなみにこのコンテストでは僕も投稿していたのですが、他のフィールドで執筆をしていた作家さんが次々と参戦していたのも思い出深いです。Web小説の新たなムーブメント、着々と膨らんでいるのでは。

20.もう少しだけ_全体

 照明の変化を抑えた穏やかなステージに、原作の温度そのままの優しいアンサンブル。ひかるさんのフニャリとしたシンセベースが可愛かったです。
 そして後半ではikuraさんが歩き出し、キッチンや本の間を練り歩きながら、視聴者のすぐ前で語りかけるように歌っていました。視聴者の「日常」に寄り添うようにも見えたシーン。

 ライブ前に、ikuraさんに「レコーディングとライブで歌い方は変えていますか?」と訊ねてみたのですが(じかにお話した実感ですがikuraさんは超超超いい人です)

レコーディングでは、原作のストーリーや登場人物に寄り添った歌い方に。ライブでは、聴いてくれている人の心に向けた歌い方に。

という風に、意識を変えているそうです。

 まさしく「今を生きるあなたがた」に向けた、この物語に。ひとりの心へと向けた歌い方は、ひときわ尊く共鳴していたように思えます。PA卓のモニターで観ていた僕はラスサビで涙腺決壊しておりました(というか、ずっと泣いていました)

21.もう少しだけukura


M-4 たぶん

 ひとり廊下に佇むikuraさんが歌い出したのは「たぶん」。
 このシーン、バンドと向き合っていたikuraさんがいきなり取り残されてビックリ、みたいに感じた人もいたでしょう。ロケーションとカメラの転換による演出が効いていました。そしてこの「取り残され」感が曲にもピッタリでした。

22.たぶん引きikura

 同題の原作小説で描かれているのは、部屋を出て行く同居人の後片付けです。
 別れの話ではありつつ、涙や叫びといったエモーショナルな言動は出てきません。淡々とした生活感が貫かれていて、しかしどうしようもない溝も滲んでいて……というテイストが魅力的で、その日常っぽさが共感を呼ぶようにも思います。ふたりの性別や関係性が明示されていないことで生まれる奥行きもいいですね(トライしたこともあるのですが、性別を明示しない話は難しい!)

 そんな淡々さと不可逆さが存分に投影された楽曲。自分たちの関係性が「特別」から「平凡」へと移ろっていく、輝いた過去が色あせていく、そんな心理の切り取りが大好きです。

23.たぶんTシャツ

ほのかに明るい廊下で、吊されたUTに触れながら歌うikuraさんの姿。
UTは今回のコラボのメインであるのと同時に、「YOASOBIの物語が込められた、日常的なアイテム」という意味合いを持つように感じます。誰かの日常を、そこに根付く物語を、優しく掬い取っているようでした。

24.たぶんデュエット

 後半では、Ayaseさんのピアノも合流です。
 YOASOBIの最小単位でのセッション。一緒に弾いているけれど、お互いを意識せず一人の世界に閉じこもるような距離感。そこから浮かぶ内省的なムードは、YOASOBIの原点にも通じるように思えました。

 そしてikuraさんのフィンガースナップを合図に、音も画面も妖しく変容していきます。ダークに染まっていく世界を駆け抜け、闇を裂く悲鳴が響き。

M-5 怪物

 前回に続き、刺激たっぷりの幕開けを見せてくれた「怪物」。

25.怪物ドローン

 TVアニメ「BEASTARS」の主題歌として作られたこの曲。僕は以前から気になりつつも通っておらず、このレポのお話をいただいてから「BEASTARS」コミックを読んだのですが、とてつもなく面白いし胸に訴えかける物語でした……設定をこれでもかと活かした心理描写やバトルが素晴らしすぎるし、このタイトルを目にするだけで目頭が熱い……

 その「BEASTARS」の主人公、優しいハイイロオオカミであるレゴシの心情にフォーカスしたのが「怪物」。大切な存在が肉食本能の対象でもあるという葛藤や、脅かされる存在をこの体で守りたいという決意が歌われているのですが。

 コロナ禍の現在に、妙に響く歌だとも感じています。

 自分を満足させるためには他者の肉が必要である、自分の生存のためには他者の本能を抑圧しなければいけない……「BEASTARS」の世界で描かれている、深刻な利害の対立や価値観の分断。

 生活のために必要な仕事が、人生において不可欠な営みが、感染拡大のリスクとなってしまう……コロナ禍ゆえの分断や対立は、「BEASTARS」で描かれる苦悩とも通じているようにも感じます。自分がどこかで加害側になってしまうかもしれない、そんな迷いを代弁するようにも「怪物」は響きます。

 ……という話を抜きにしても、超絶格好いいんですよね「怪物」。

26.ひかるシンベ

 ゴリっとした打ち込みサウンド、ジェットコースターのようなメロディ。ただでさえ闇カッコ良さ全開のこの曲が、ド派手な照明とカメラワークでさらに妖しく燃え上がります。ひかるさんが「もっと凶悪にしました!!」とこだわったシンセベースに、AssHさんの歪んだギターサウンドにと、随所で音源よりも攻撃性が増しているのも見所です。吹き散らされた紙屑による荒廃感、「BEASTARS」に登場する裏社会っぽいな~とも思ったりしました。


M-6 アンコール

 アルバム「THE BOOK」冒頭を再現するような流れで始まったこの曲。原作「世界の終わりと、さよならのうた」で描かれるのは、世界最後の日に奏でられる音楽です。

 世界の終わりが阻止される英雄譚も楽しいのですが、本当に終わってしまう世界で描かれる出会いも好きな身としては、シチュエーションや情景描写から引き込まれました。そしてセッションの温もりが沁みる……意味や損得や無力感を越えて、創作や表現の本質が、「好き」の強さが浮かび上がる物語です。

27アンコールikura

 そんな物語を丁寧に織り込みながら、あえて「アンコール」という題をつけたこの曲。寂寥とした景色を覗かせながらも、優しく幸せを分け合うようなメロディは、どんな時代にあっても音楽を続ける決意や、続ける仲間へのエールを歌っているようにも感じます。

 ikuraさんの繊細な感情が沁みるボーカルを、さらに美しく際立たせるザクロさんのコーラス。原作でもピアノがキーになっていたこともあり、この二人のアンサンブルは絶品でした。
 このパートはザクロさんも特に思い出深いとのことで、

「素敵すぎるメロディと歌詞、ikuraの切ない歌声、感情移入しすぎて泣いてしまいそう」「けど観ている人が感動してくれるのが一番! 丁寧に、真剣に、いいバランスを保ちながら歌っています」

と語っていました。演者すら呑み込もうとするYOASOBIの世界観、ファンが引き込まれる訳です。

28.アンコールザクロハモ


M-7 夜に駆ける

 もはや説明不要の、デビュー曲にして最強チューン。練りに練った第1弾がこれだけ注目されるの、クリエイターとしては呪いのようなプレッシャーなのではと心配にもなりますが、その後も次々と名曲を送り出しているのが凄さの証。

 そんな伝説の始まりとなったのも小説です、「タナトスの誘惑」。
 タイトル通り「死」に惹かれる人間の物語で、結末もショッキングです。小説から読んだ人もMVで知った人も、「こういう曲だったのかあ~……!」という衝撃を一度は味わったのではないでしょうか。

 音楽的なインパクトや中毒性が強い、というのは勿論ですが。原作小説に仕掛けられた展開、いわば「どんでん返し」をどう曲で再現したのかにも、僕は感銘を受けました。流し聞くとストレートに進んでいるようで、よく聞くと逆側に連れ込まれている絶妙さ。同じメロディに乗せて、似たような歌詞で真逆の構図を描く巧妙さ。「格好いい曲だな~」の先で、「恐ろしい曲作りする人たちやん……」と気づいた日から、僕はYOASOBIに惹かれてきました。

 つい先日公開された英語版「Into The Night」も、強烈な音楽体験でしたね……日本語版での音楽的な魅力が100%、気分的には1000%再現されて世界に羽ばたいていきました。

29.夜に駆けるAyase

 その魅力はライブでさらに豊かに広がります。僕が特に好きなのは、縦のリズムの気持ち良さなのですが。
 音源からライブへのアレンジについてAyaseさんに訊いてみると、

「原曲でちゃんと聴いてほしい部分は再現できるよう作り込む」
「打ち込みを生音に合わせて譜面に起こしたり、バンドメンバー各々が作ったアレンジを活かしたりもして、バンドで演奏して映えることにもこだわった」

とのことでした。
 この原曲と生音のバランス感、原曲が鬼のように聴かれている「夜に駆ける」では特に爽快に仕上がっていました。仄雲さんもこの曲について、「電子と生の融合にとてもこだわった」と語っていましたが、まさにクリティカルヒットだったはず!

30.夜に駆ける仄雲

 そして煌々と輝くYOASOBIロゴも印象的でしたね。終盤ではこの文字をバックに歌っていたikuraさん、広がり続けるYOASOBI現象を(文字通りに)背負う姿が超格好よかったです。一生ついていきます。

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 続くMC。「映画みたいな作り込みだけど生配信だよ~」という証明に続き、束の間のコメント反応タイム。生の反応が見えない配信ライブ、応援のコメントは(僕らが思う以上に)アーティストの力になっているようですよ。

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 そして二人は次のステージへと歩きだし、カメラはロケーションを振り返りながら後に続き。

M-8 ハルカ

 生楽器の温かなアンサンブルと共に「ハルカ」が始まった……と思ったら!

33.ハルカ吹奏楽

 部屋いっぱいに! たっくさんの! 吹奏楽部員!

 本公演最大のサプライズ、超大型ゲストは大阪桐蔭高校吹奏楽部の皆さん。以前よりYOASOBIのカバーに取り組まれていたことから、YOASOBIチームが今回の共演をオファーしたそうです。僕も打ち合わせで聞いたときはテンション爆上がりで、「みんな絶対に見逃すなよ」という念を全国に送っていました。演奏の美しさは勿論、整然とした結束力も印象的でした。

 総勢172名の素敵な仲間と共に演奏された「ハルカ」、YOASOBI屈指の癒やしソングだと思っています、大学で研究と格闘していたときにはお世話になりました……

34.ハルカ演奏

 原作「月王子」では、マグカップの視点から一人の女性の人生を描いています。いつもそばにいる、大切にしあっている、けどモノにはモノの宿命がある……切ないながらも、それ以上に強く優しい友情の物語。
 そうした絆や友情を、ステージでも強く感じさせてくれました。

 PC1台から始まった音楽をこれだけ豪華な編成で演奏できて嬉しかった(Ayaseさん談)、仲間と演奏する楽しさを改めて実感した(ザクロさん談)、共演で心が満たされた(AssHさん談)……

 皆さんが語っていたように、人と心を通わせる喜びが詰まった瞬間でした。リハーサルでのことですが、「皆さんの笑顔が最高のメロディです」というikuraさんの言葉も素敵でした。

 そして、演奏の機会が潰えてしまいがちな時代に、思いもよらぬ晴れの舞台が巡ってきた……という吹奏楽部のストーリーとも、「ハルカ」は共鳴しています。
「だれにも見えないところで流した涙も、今の君につながっている」――その言葉がステージに重なった瞬間、感動に震えたのは僕だけではないはず。

M-9 群青

 吹奏楽部と一緒に「群青」を演奏してフィナーレです、そう打ち合わせで伺ったときに。口にこそ出しませんでしたが、内心で

(泣くに決まってるやんこんなの、冷静にレポートできんのか僕)

 と思っておりました。それくらい思い入れが強い曲です。

 インスパイア元のマンガ「ブルーピリオド」では、美術に目覚めた高校生・矢口八虎が美大受験に挑む姿と共に、それぞれの「好き」を追い求める人間たちが描かれています。彼らの情熱や葛藤、業のような「楽しさ」を詰め込んだこの曲。

「好き」を追いかける多くの心を惹きつけたでしょうし、僕自身にとてつもない刺さり方をした曲です。趣味とはいえ、数年間ずっと小説を書いてきたいち亀に。
 制作過程に自分が微塵も関わっていないことを知った上で「これは俺のための曲!!」と思い込んでしまう瞬間は皆さんにもあると思うのですが(あるよね!?)僕にとっては「群青」がまさにそれでした。

35.群青ドローン

 YOASOBIサウンドと吹奏楽の融合は勿論、縦横無尽のカメラワークや照明・美術まで。
一人一人が磨いてきた技や感性が、一瞬一瞬に凝縮されたステージ。
それぞれが追いかけてきた「好き」が、ときには苦しく怖い中で重ねてきた努力が、28万人の視聴者と交錯する時間。
「僕にしかできないことはなんだ?」への、それぞれの答えの結晶。

 その熱量、その感動、「群青」そのものでした。
 終演後にAyaseさん・ikuraさんと「めちゃくちゃ群青だったよね!」と盛り上がったのですが、最高に「群青」に相応しいステージでした。世界一眩しい青春色。

 そして、共演相手が高校生だった、というのも象徴的でした。
 曲で描いていた青春のエネルギーを全身に浴びた(ikuraさん談)、コロナ禍で失われた青春を取り戻したようだった(仄雲さん談)、つられて自分も若返った(Ayaseさん談)……などなど。

 ひたむきな青春の熱さに魅了されたのは、YOASOBIメンバーも同じでした。

 そして高校生たちにとっても、誇りと喜びに溢れたステージだったことと思います。
 中心で全員の音楽を率いていたAyaseさんと、全方位と目線を交わしながら歌っていたikuraさんの姿には。この閉塞した時代に、世界中の人々の「好き」を照らすYOASOBIの在り方が象徴されていました。
 聴いて元気づけられる、だけでなく。フィールドやプロ/アマの違いを越えて、あらゆる創作者の情熱を引き出し、共演の場を重ねていく。僕が思うYOASOBIの魅力が詰まったステージでした。

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 そしてエンディング、粋なクレジット演出は今回も健在でした。通路に並んだマネキンが着たUT、それ自体がスタッフロールになっています。関わったスタッフへの、そしてユニクロ様への、最高のリスペクト表現だったのでは。

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総括・YOASOBIが掲げる掛け算の魔法

 ユニクロ様のオフィスと、UTというアイテムと、大阪桐蔭高校吹奏楽部と――今回の楽しさの核は「共演」「掛け算」にあったと感じます。

 そもそものコンセプトとして、(他の人が手がけた)小説を音楽にすることを掲げているように。他の創作者との化学反応はYOASOBIの原点でした。Ayaseさんの音楽的才能が絶大であることは勿論、「原作」がこれだけ多様であることも、YOASOBIの魅力としては欠かせません。

 そして物語から始まった音楽は、さらに多くの出会いへと進んでいきます。オフィシャルで手がけるMVやアートワーク、今回のようなファッションとの共演。さらには、受け手から発信されるカバーやダンスなども広がり続けています。そして今回の僕のように、テキストによる発信も歓迎してくれています。

 その発信者には、プロだけではなくアマチュアもなれます。ついこの間までファンだった人間が共演する、そんな機会もぐっと増えています。YOASOBIの核である掛け算の相手、その出発は誰かの「好き」です。
 それが貴方の「好き」である可能性は、貴方が思う以上に大きいです。その「好き」がYOASOBIと共に世界へ駆ける未来は、思う以上に近くにあります。

 僕が考えるだけでなく。YOASOBIのお二人も、ファンからの発信や表現を応援していました。小さな世界から発信した「好き」が広がっていく、それを誰より実感しているのがYOASOBIの二人です。

 誰もが知るスターとの共演の可能性が、誰しもに宿っている。YOASOBIが創ろうとしているのは、そんなエンタメの世界です。

 だから、貴方の「好き」を信じてほしいです。楽しいだけじゃない、ときには怖い、それでも貴方だけの色はきっと輝く。「群青」に込められたエールは、YOASOBIの姿勢そのものです。


 その実現を、僕は先にいただきました。小説や音楽への解釈、ストーリーとの結びつけ、小説という創作そのもの。決して多くの人に届いてはいなかったニッチな感性は、YOASOBIと出会って、こうして世界へ駆け出しています。ファンからのオフィシャルレポーターの抜擢は今後も続けたいと、YOASOBIチームも考えているそうです。

 貴方だけに語れるYOASOBIの魅力、貴方だけが知っているYOASOBIとの物語、貴方がまだ知らない貴方の可能性。信じて、言葉にしてみてください。

 そもそも、配信ライブではファンの反応が見えにくいのがネックです。ひかるさんも、「楽しんでくれたかすぐには分からないから、たくさん教えてほしい!」と語っていました。
 ありったけの楽しさをファンに届けてくれたなら、ありったけの愛をファンから返す番です。渾身のラブレター、届けてみてください!

 レポートは以上になります、お読みくださりありがとうございました。
 言葉のみで表現される創作を照らしてくれたYOASOBIに、言葉で恩返しができたなら幸いです。感謝とリスペクトを胸に一生推します。


Write Your World、いち亀がお送りしました!


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38.ぐったり

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カメラマン:shinsuke yasui

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以上、オフィシャルレポーター・いち亀さんのライブレポートをお送りしました!引き続き #UTYOASOBIライブ で皆さまからのライブレポートをお待ちしています。次回のオフィシャルレポーターの座はどなたのもとに...?気軽に参加してもらえたら嬉しいです。(レポート募集企画詳細はこちら。)

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