子どもの歌
卒業シーズンになると思い出す歌がある。
前の学校で、小中合同の卒業式の時に、みんなで「はじめの一歩」という歌を歌っていた。中川ひろたかと新沢としひこの歌だ。
光の差し込む冷たい旧校舎の体育館で、最後にこの歌が流れ、子どもたちが「一歩」という言葉に合わせて足を前に踏み出す時、この瞬間を忘れないだろうという不思議な気持ちが皆を包む。
子どもの頃、中川ひろたかの「トラや帽子店」というバンドが私の住んでいた地域に来て、母が連れて行ってくれた。そのときのCDを今でも持っている。保育園の頃のあたたかい思い出とともに、忘れられない歌がいくつかある。
教員になって、教育実習のとき、小学部にいたときにも、中川ひろたかの絵本を授業で使った。「さつまのおいも」や「おつきみうさぎ」。子どもたちと楽しい世界を共有する時間が好きだった。
子育てをするようになってからEテレをずっと見ているが、おかあさんといっしょに出てくるたくさんの歌には本当に励まされた。
子どもの歌にもいろいろな歌がある。子ども”向け”に作られたと感じる歌もあれば、子どもとともに、子どものために、また子どもの心で作られた歌もあるような気がする。坂田おさむや福田和禾子の歌がそうだ。
学校で歌を歌えなくなってもう3年がたった。あの学校の「はじめの一歩」ももう歌われているとは思えない。
久しぶりに歌を歌おうと思ったとき、何を選んでいいのかわからない大人たちがいる。消えてしまった歌がきっとたくさんある。
教育というのは思い出づくりであるような気がする。
そんな甘い考えではどうしようもないとも言われそうだが、私はどうしてもそういう思いでこの仕事をしてしまう。
子どもの頃に歌った歌、誰かが自分たちのためにしてくれたこと、あたたかい時間を過ごしたこと。教育とは、帰るべき魂の星である、という一節があって、その意味は自分なりにわかる気がする。子どもの頃に歌った歌、好きだった物語、そういうものを教えてくれた人。それらは一つの星のように確かに心にあり、それを思い出すとき、私の心をあたためてくれる。
だから私も、愛する物語を彼らとともに読みたいと思う。おもしろいと思うこと、価値があると思うことを考えあいたいと思う。私は残らなくていいので、興味をもったこと、好きになったこと、過ごした時間が心に残れば、それが世界の美しさを教えてくれるなら、それだけでいいだろう。
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