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魔法アプリ

昼休み後半。
千夏は別授業のため、8号館へ移動してしまい、空きコマの私は1人になった。
食堂は蒸し暑いので、近くのコメダへ移動し、着席するなり葵のアイスを頼む。

グラスの水滴。
玉のような、ガラスのような透明なそれに見惚れていた。

そして、小豆とアイスコーヒーと氷の溶け合い、混ざり合うのを眺めた。
外の蝉の声に耳を傾けたりもした。


誠に風流である。
否、大変暇なのである。

明後日までに終わらせなきゃな課題があるのはわかっているのだが、手をつける気にならない。


「効率が良い人は、空きコマの間に課題とか卒論とか終わらせるんだろうなあ」なーんて思いつつ、スマホをいじる。

やることはあるけど、暇。
すごく暇。

ふと、前に千夏に勧められた魔法系ファンタジーゲームがしたいと思い立ち、「魔法  アプリ」と検索したところ、文字通り『魔法アプリ』なるものを見つけた。

紫色の丸いアイコンをタッチして、レビューを見てみると
「オリジナルの魔法が作れる」
「ポーション作りにはクスッとしてしまった」
等の文字が。

そこそこ評判は良いようで、平均値は☆4.3程度だが、中には「☆1」をつける者も居た。

「ただのおまじない。
子どもが遊ぶ分には良いと思うけど。」

「大人からすると、現実的でない。
騙し騙し気分を上げてる感じがする。」

ふーん。

当初探していたゲームとは少し違うけど、なんとなく気になるのでインストールしてみる。

☪︎

『魔法アプリへようこそ!』

画面には、1冊の分厚い本。

古びた洋書。
映画やアニメでよく見る、魔法書のようだ。

ふと、本が金色に輝き、ゆっくりと表紙が開かれる。

『魔法書を手に入れた!

                    今日から君も、

                                    魔法使いだ!!』

☪︎

『使い魔を選んでね!』

魔法書が開く演出にはワクワクしたが、その後は「まあ普通のアプリだよね」って感じだった。

画面には、黒猫、烏、フクロウのキャラクター。
私は黒猫を選ぶ。
『よろしくニャ!』

画面が切り替わり、選択画面になる。
『今日は、何をするニャ?』

『魔法アイテム作り』
『魔法新聞』
『魔法書』
『魔法日記』
『占い』

とりあえず、『魔法アイテム作り』をタップし、ポーションを作ることにする。

「第1のポーション」の材料は、『ハチミツ』、『レモン』とだけある。

……えっと、ハチミツレモン??だよね
炭酸水に溶かして飲んだことある。うん。

『効能』の欄を見ると、「美肌・ダイエット・口臭対策・疲労回復・快眠・免疫力向上」とある。
あれ、意外とすごくない?

次に、『魔法新聞』の欄を見てみると、実際にポーションを作った人が書いた感想や効能、魔法アイテムを扱う店舗「魔法屋」の新アイテムや書籍のレビュー記事、魔女のコーディネートなどが掲載されていた。
もちろん、自分が記事を書くことだってできる。
さり気に天気なんかも載っている。
『魔法新聞』は毎日更新されるようだ。

次に、『魔法書』をタップする。
『魔法書』には、
「オリジナルの魔法が作れるニャ!」
と書いてある。

下欄にある、
「ハーブ」「色」「星座」「食べ物」「魔法陣」
などから組み合わせて、オリジナルの魔法を作ることができるようだ。

試しに、「ハーブ」の欄をタップし、「ミント」を選ぶ。
★「ミント」…頭をスッキリさせ、眠気を覚ます効果がある。

(…うん、知ってる。)

次に、「色」の欄をタップし、「青」を選ぶ。
★「青」…集中力を高める。

(…うん、知ってる。)

あ、でも。
私は「ミント」と「青」を組み合わせ、その魔法に名前をつけた。

『★課題に集中する魔法。
青いミントガムを噛みながら、青いペンを使って課題に取り組む。』

して、実際にやってみたが、すぐ飽きてしまった。
失敗。

なーんだ、ただのおまじない程度か、なんて思いながら、ふと
「他の人はどんな魔法を作ってるんだろう?」
と気になった。

試しに、『魔法書』の検索欄で「ミント  青   勉強  集中」と検索すると、ヒットした。

「★勉強に集中する魔法
・ミント味(ハッカ)の飴を舐める。舐めている間、徐々に集中モードに切り替わるので、意識すること。(この間に、勉強道具などを準備しておくとよい。)
・椅子に着席し、青のノートを取り出す。そこに、鉛筆(またはシャーペン)で勉強開始時間と魔法陣をかく。魔法陣によって、勉強を邪魔する者は消し去られる。
・飴がとけた瞬間に、勉強モードへ。
とにかく勉強する。青ペンまたは青マーカーを使用すること。
・勉強が終了したら、先程の青のノートに終了時間と内容を記す。魔法陣は消しゴムで消す。
以上。」

魔法陣を書く必要性はわからない(しめんどくさそう)けど、とりあえず魔法使いの気分になってやってみる。

☪︎

今日も、私はアプリを開く。

『魔法書』をタップ。

「★緊張を和らげる魔法
・お気に入りのアイシャドウを塗る。
・鏡の前で笑顔を作る。
・手をグーにし、心の中で「よし!」と叫ぶ。」

私は、黒くて堅い鞄の中から、夕闇色のアイシャドウを取り出した。
瞼に塗ると、元々明るめの焦げ茶の瞳が、よりキラキラと光って見える。

そして、鏡の前で笑顔を作り、手をグーにする。

誰も気がついていない。
これは紛れもなく、私が知る、私だけの魔法だ。

(よし!)

黒いヒールを踏み出し、前へと歩き出す。

今日は面接。
しかも、第一志望の会社だ。

こんな時には、大人でも魔法が必要だ。

実はこの日、私はもう1つ、強力な魔法をかけた。

「★やる気が起こる魔法
・自分へのご褒美を用意する。」

よし、今日は帰りにシロノワールだ!!

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