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設計者として生き残るためのスキルアップの提案 (2) / LODを意識した設計ワークフロー

2021年3月16日にオートデスク社のウェビナーで発表した内容を文書化したものです。200名を超える視聴をもらい、内容についても多くの方から賛同をもらいました。後で参照しやすいよう、また、PPTのスライドだけでは、伝わらないであろう内容を加えて文書化しました。

(前回)

なぜ、3DCADが普及していないのか?

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なぜ、3DCADが広く普及していないのでしょうか?以下に整理してみました。

新規設計、構想設計の設計力の低下

既存の設計資産をもとにして、それを変更するのが設計だと思っている人達が増えてしまいました。そういう方を、クリエイトではなく、チェンジするのでチェンジニアと呼びますが、そんな方、周りにいませんか?2Dで用が足りている人なので、形状や機構の検討の検討に3Dを使うことができません。当然ながら3DCADには消極的です。

3D設計手法を知らない

3DCADを学んだことがある方からよく言われるのは、3Dで形を作る方法を教えてもらえるが、3Dで設計をする方法を教えてもらえない。自分のやり方が正しいのかわからないでやっている。ということです。また、実際に業務に適用すると、時間がかかってしまい、設計工数がオーバーすると、言われます。

私は、そうは思いませんが、時間がかかるからやらない、させないという声はよく聞きます。3Dモデルを設計変更しようとしても、思ったように変更ができない。とも言われます。ある部分の修正のために、数字をちょっと変えたら、多数のエラーが発生し、修正はおろかもとに戻すこともできなかった。という経験をお持ちの方は多いと思います。

これらは、3D設計の手法を学べば多くの課題は、解決します。それを知らずに我流でやっている方が多いので3D設計が普及しないのです。

3Dに投資しない

2DCADと比べて、3DCADは導入にコストがかかります。ソフトウェアの価格が高いという事もありますが、PCのスペックも2DCADより高いスペックのものが必要です。また、データファイルを保管するためのハードディスクも必要です。ネットワーク環境も必要です。こういった環境を構築するのには投資が必要となりますが、それをしないでいます。

ソフトウェアだけ用意しても、効果は発揮できません。高性能のパソコンや高速のネットワークが必要です。それをしないで、部品点数が1000点近いアセンブリモデルを、普通のパソコンで開こうとしても、仕事にはなりません。それをソフトのせいにする人は、そこの理解が足りないでいます。

ところで、製造メーカーで、生産設備を自社制作から外部調達に変えたという事例は近くにありませんか?これは、いろいろな要因はありますが、設計力が低くなったからというのもあると思います。自社で開発するより、調達したほうがモノが良くなれば、自社で設計要員を抱えておく必要がなくなります。 そうすると、その会社の設計要員は設計の仕事を失います。ちょっと、危機感を持ってほしいです。

なぜ、設計力がないのかというと、2DCADによる設計のやり方に慣れてしまっているからです。そのような会社では、設計の最初の段階から、詳細な図面で作業をしようとします。なぜならば、参考図面がすでに詳細図だからです。最初から詳細図で設計をすると、構想段階ですべき検討を十分に行うことができません。細かなところに目が行って、肝心な部分の検討ができないのです。逆に、図面が完成しているように錯覚してしまうということもおきます。

その結果、負荷が適正なのか、その軸径は強度が十分なのかといった重要な検証を不十分になってしまいます。

どんな業界でもLODで仕事を進めている

プロジェクトを円滑に進めるには、大事なこと、全体的なことを順番に決めていくことが重要です。映画であれば、プロット→脚本→絵コンテ→撮影、漫画であれば、プロット→ネーム→下絵→ペン入れです。共通することは、それぞれのフェーズで、何がインプットで、何を決めるのか、何をアウトプットするのかをはっきりさせていることです。

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機械設計であれば、概念設計→構想設計→詳細設計であるべきです。それができていないと、設計は良くなりません。

インプットもアウトプットも2D詳細図面になっていて、今は構想設計のフェーズなのか、詳細設計なのかあいまいになっていないでしょうか?手書きで設計していた時のように、構想設計から詳細設計というように設計フェーズをわけ、何がインプットで、何がアウトプットなのか決めるべきです。

この考え方が、LODです。LODとは、Level Of Development の頭文字をとったものです。設計の進捗(Development)をフェーズ分けし、どの進捗フェーズでは、何を決め、何を出力するかをルール化する考え方です。

LODという考え方は、もともとは建築設計から来ています。米国建築家協会では、LODを100から400まで分け、それぞれのフェーズでどこまで設計するか詳細度をはっきりと決めています。機械設計でも、暗黙の了解で、同じことをやっているところが多いと思います。これを明文化し、3Dモデルの詳細度をフェーズごとに決めることお勧めしたいと思います。

LOD100~200 構想設計 → LOD300 詳細設計

LODの考え方を、機械設計に当てはめると、LOD100~200 構想設計 → LOD300 詳細設計になるかと思います。ここで、3Dモデルの詳細度を各LODのフェーズごとに決める、というのがポイントです。

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図のの手巻きウインチの設計を例に説明したいと思います。なお、手巻きウインチの設計自体は、ご覧の書籍の内容を参考にさせていただいています。

LOD100

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最初は、LOD100 概念設計のフェーズです。どんな手巻きウインチを設計するか、アイデアをまとめて、基本仕様をまとめる段階です。

人間一人が操作すること、揚程は10m、巻き上げ荷重10kN、歯車減速機構などです。図の様に構成要素をまとめます。減速機の構造をポンチ絵でかいたりするのでも構いません。仕様が決まれば、その内容をエクセル表でデータ化します。

LOD200

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次は、LOD200 構想設計です。基本仕様が設計として成立するよう、基本構造、形状をまとめる段階です。概念設計の仕様を守りつつ、新たな設計仕様、形状、構造をまとめていきます。この段階では、主要な構成部品の形状を作りますが、まだ詳細な形状は作りこみません。例えば、軸にキー溝や面取り、取り付け穴はつけません。歯車にかみ合いやリブはつけません。

簡単な形状なので、2Dで図面を書くよりも、3Dの方がはるかに早く設計ができます。分解、組み立て性などの取り合いの確認には、2D投影図が便利ですので、都度、投影図を確認します。

なにか重大な問題があれば、LOD100のフェーズの内容を再確認します。そこで、修正があったらどうなるでしょうか? 後ほど紹介する、トップダウン設計の手法を使えば、上位の設計変更が下位に自動的に伝わるのです。なので、LODの考え方にトップダウン設計の手法を使うと、アジャイルな進め方ができるようになります。

LOD300

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最後は、LOD300の詳細設計です。LOD300の設計フェーズでは、実際に部品の加工、組立て、購入品の手配ができるよう、詳細な設計仕様、形状をまとめます。ここでも、構想設計で決めた内容を守りつつ、詳細部分を設計していきます。

このように、設計のフェーズごとに、何がインプットで、何を行うか、なにがアウトプットなのかルールををきっちり決めておきます。そうすれば、デザインレビューも、そのルールにのっとったものなりますレビューの効率がよくなり、不具合の見逃しを減らせます。

このような設計の進め方を提案すると、必ず、返ってくる反対意見が、「それ、誰がやるの?」です。ただでさえ、忙しいのに、フェーズに分けて、都度、設計のアウトプットを出すのは、時間がかかる、納期に間に合わないではないか?ということです。それ、やるのは皆さんです。外注設計や契約社員にやらせるのは間違ってます。やるのは大変ですが、この設計改革を実現する手助けをするのが、3DCADです。

(続く)


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