見出し画像

設計者として生き残るためのスキルアップの提案 (1) / 機械設計を取り巻く環境の変化

2021年3月16日にオートデスク社のウェビナーで発表した内容を文書化したものです。200名を超える視聴をもらい、内容についても多くの方から賛同をもらいました。後で参照しやすいよう、また、PPTのスライドだけでは、伝わらないであろう内容を加えて文書化しました。

機械設計を取り巻く環境の変化

私のこれまでの経験をもとに、「機械設計はどのように進化してきたのか、今、何ができるのか」をお話しいたします。皆さんのスキルアップ、キャリアアップの参考に是非していただきたいと思います。まず最初に、機械設計はどのように進化してきたのか、今、何ができるのかをお話しいたします。

今の仕事で10年先は大丈夫か?

画像7

さて、20年前、10年前で設計環境はどう変わったかを振り返ってみたいと思います。なぜ、振り返りをするのでしょうか?それは、設計環境が年ごとに大きく変わってきたからです。どのように変わったが、何が残り、何が消えたかを知ることで、将来に備えていただきたいと思います。

ドラフター・青焼きから白焼き・編集設計

私が、社会人になったころは、機械設計は手書きで図面を書いていました。手書きといっても、T定規と三角定規ではなく、武藤工業のドラフターと呼ばれる製図機を使っていました。製図機を使うことで、作図作業を劇的に効率化することができました。

一方で、青焼き図面といわれる湿式コピー機から、別名としてゼロックスと呼ばれる乾式コピー機への移行が進みました。
これに伴い、編集設計と呼ばれる技法も使われるようになりました。
やり方は、まったく、アナログではありましたが、いかにして、作業効率を上げるかというのは、昔から現在に至るまで、重要なテーマ、課題、であり続けている、というのをまず、申し上げたいと思います。

画像7

こちらは、手書き図面の例です。1936年(昭和11年)に完成したD51と呼ばれる蒸気機関車のエンジン部分の図面です。いまから、85年前の図面です。寸法数字の入れ方が、今と違いますが、機械図面に慣れた方なら読むことができます。

自社CADからパソコンCADへ、低価格化

さて、CADですが、最初はホストコンピューターに端末をつなげた構成です。大手の造船会社や自動車会社、電気の会社などが、自社開発したCADが使われるようになりました。その後、パソコンで動く2次元CADが比較的安価で入手できるようになりました。それでも1端末あたり300万以上しましたが、パソコンCADの時代、というわけです。マイクロCADAMやAutoCAD、といったCADソフトウェアが出てきたのもこのころ(1980年代の後半)です。

2DのCADが出てきて何が変わってのでしょうか?編集設計と呼ばれる技法が、CADを使って簡単に実現できるようになったのが一番だと思います。CADのコマンドでいうと、移動や回転、複写といったCADとしては、ごく基本的なコマンドです。手書き図面と比べると、効率は圧倒的に違います。しかも、正確な寸法でできます。

その結果、単純な作図作業を請負っていた人たちの仕事が消えました。私が、当時きいた話では、建築の建具(サッシ)の施工図の設計外注の業務が消えたようです。

ハイエンドCADからミッドレンジCAD、ITS環境の進化

3DCADはどうでしょうか?ハイエンドと呼ばれる高機能だけど高価なCADは、航空宇宙、自動車、電機で使われていました。

ミッドレンジと呼ばれる安価な3DCADも普及してきたのは、2000年代になってからです。オートデスクのInventorなどがそれにあたります。ミッドレンジの3DCADが最初に適用されたのは、3次元形状を扱う設計からでした。例えば、自動車のボディ溶接治具です。

自動車ボディの空間的に自由な形状の任意の場所に、位置決めする治具を設計する仕事です。2DCADでは大変に面倒です。補助投影図を書かなくてはいけません。これは、手書きでやるのと作業自体は同じです。3DCADを使うことで、作業の効率があがり、この業界へはミッドレンジの3DCADの導入が進みました。

画像6

図は、3DCADを使った設計の例です。 3Dモデルであれば、形や機能を直観的に知ることができます。また、3Dモデルがあれば、右のような2D図面も簡単に作成できます。この右の図の例でいえば、5分から10分で出来上がります。このモデル、実は、2008年のオートデスク社の事例紹介のものです。今から13年前です。3次元CADの設計環境は、当時から整っているのです。

3DCADを使うメリット

3DCADを使うメリットについては、「ものづくりウェブ」の内容が分かりやすいので、ここで紹介します。
https://d-engineer.com/3dcad/3dcaddekiru.html

1. 視覚的に分かりやすい
2. 体積・表面積・質量・重心等の情報が得られる
3. 部品を組み付けた後の干渉チェックや解析などが行える
4. 複雑な形状や曲面などのデザインの設計が行い易い
5. 試作品が容易に作成できる

特に、干渉チェックの機能を使うことで、部品同士の干渉による設計不良を劇的に減らせられる事は、特に複雑な装置設計にとって大きなメリットです。

どのようにキャリアアップすべきか?

さて、みなさんはどう考えますか?このままでは、よくない。機械設計の分野でも3Dが普及する時が必ずくる。と考えてほしいです。停滞感のある今が、チャンスです。

20年前、10年前で設計環境はどう変わったかを踏まえ、将来に備えましょう

画像6

パソコンの性能向上、ソフトウェアの機能向上が進み、パソコンCADはどんどん普及していきました。相対的に、手書きで設計することは無くなっていきました。製図機の需要もなくなりました。製図機が消えたということは、手書きしかできないない設計者が消えた、ということです。

機械設計に関して言うと、二次元CADで行われる仕事は、設計(デザイン)ではなく製図(ドローイング)がほとんどです。手書きからCADへの移行が進むにつれて、新規設計の際に参考とする図面もCAD図面となります。もととなるCADの図面があれば、図面の一部を編集するだけで、設計ができるようになります。よくない言い方かもしれませんが、設計のスキルが無くても設計ができるのです。

効率よく図面を作ることが重視されるようになりました。このようになると、本当の設計(デザイン)ができなくなっていきます。創造性の高い、イノベーティブな設計をする時間が取れないという状況に陥っていきます。つまり、新規設計の段階で、「ここで大きく構造の見直しをしたいなあ」と思っても、納期とコストの制約から「仕方ないかから、今回は同じ構造で寸法だけ仕様に合わせよう」といなるわけです。これが、何年も続いたらどうなるでしょうか? 本来の意味の設計ができない人ばかりの職場になってしまいます。よくないのは、そこに入社してきた人は、それが当たり前だと思ってしまいます。

一方、、3DCADは、2DCADに置き換わってはいないのが現状です。3DCADは導入したものの、実際には2DCADを使い続けているところは、まだまだ多いと思います。「いや、うちは3Dを使っている」という方がいると思いますが、本当の意味で3D設計しているかどうか是非確認してほしいと思います。

実際に経験した例です。実際には2DCADで設計をしたのにも関わらず、2Dの図面をもとに外注して作った3Dモデルを役員に見せて、「3Dやってます」と報告していた会社がありました。これが、現状です。手書きから2DCAD、2DCADから3DCADと設計環境は、変わってきているはずです。なのに、実際は2DCADによる設計のままで進化をやめているところがとても多いと感じます。

製図機(ドラフター)によってT定規が淘汰されたように、その製図機が2DCADによって淘汰されたように、2DCADも3DCADによって将来は淘汰されるだろうということです。

現状に甘えず、より高いスキルを身につけましょう

画像6

2D図面の修正やトレースが主な仕事だという人は、3Dのモデルを作成できるスキルを身につけましょう。モデルを作成できるだけでなく、そのモデルを活用できるスキルを身に着ける、例えば、3Dモデルからアニメーションを作成するなどです。機械設計の勉強をするのもよいと思います。3DCADの機能をうまく使えば、材料力学や機械力学など力学の習得もも容易です。

今、すでに機械設計をしているという人は、もっとスキルを高めましょう。電卓や表計算ソフトで、設計計算をしている人は、3Dで設計計算や解析をしてみましょう。3Dで構想設計してみましょう。

画像6

では、どのようにキャリアアップすべきでしょうか?仕事の進め方の本質は変わっていないが、テクノロジーの進歩により、設計環境は、年々大きく進化しています。私からの提案は、次の二つです。設計ワークフローの見直しと、最新のITツールを業務に適用することです。

(続く)



役に立った!という記事にはぜひサポートお願いします。サポート頂けると大変に励みになります。