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4年前はかなり尖った本を推していた

2016年から、毎年「○○年のおすすめランキング」というのをつけている。もちろん読書メーターでだ。

毎年とりあえず読メ上で発表して終わるのが通例になっているのだけど、今年2020年でちょうど5年目ということもあり(?)、今一度どんな本をランキングに入れてきたのかを振り返ってみようと思う。そのうち1-2作品はちゃんと紹介するかも。

2016年おすすめランキング

ということで、今日はまず2016年のランキングを振り返る。4年前かあ。懐かしい

第10位

東谷暁『戦略的思考の虚妄: なぜ従属国家から抜け出せないのか』(筑摩選書、2016年)

「地政学ブーム」というのがあった。
2000年代あたりは、新国家というか、国家領域を軽視し、物理的な戦争よりもサイバー領域での戦争が今後の主になると予測していた「物理離れ」ともいうべき風潮があった。
地政学ブームはその揺り返しともいうべきブームで、「そうは言っても結局物理は大事だろ」という発想から、改めて「地理が国家の戦略を決める」という発想を持つ地政学に注目が集まった。

本書は、そうした風潮がある中で、日本国内ではなぜ「戦略的思考が根付かないのか」という視点から、日本における戦略論の歴史を紐解き、どこに問題があるのかを論じたものになっている。

あれから4年経った今も、地政学という言葉は書籍のタイトルには頻繁に使われている。「結局物理じゃん」的発想は、それ自体は間違っていないし、ここ数年は「無人兵器開発が進む中で、歩兵(特に陸軍)は必要か」という議論として表れているかなと思う。

昔勉強していたころ、陸上自衛隊OBの方に「歩兵は支配の象徴。戦闘に勝利した後に、現地の人々にその勝利を知らしめ、反抗の意欲を削ぐという任務が残っている」というお話を頂いた。
当時は「海上戦力・航空戦力に比して、陸上戦力は」という切り口だったのですごく納得したのだが、これが無人兵器との比較になってしまうとどうなるのだろうな。

第9位

ハリー・G. フランクファート『ウンコな議論』(ちくま文庫、2016年)

原題『On Bullshit』

一級の哲学者による、「クソみたいな議論」の解剖。
全国のTwitterでクソリプ合戦を繰り広げている方々にぜひ読んで欲しい。
言葉の汚さのわりにすごく面白いから。

第8位

アルバート アインシュタイン,ジグムント フロイト『ひとはなぜ戦争をするのか』(講談社学術文庫、2016年)

この年に出版されてからすぐ読んで、そっから2回読み直している。

50頁程度の短い文章の中に、戦争の素人ながらそれぞれの専門性を持った偉人による、戦争論。

元は、国際連盟の企画で、「今(1932年)文明においてもっとも大事だと思われる事柄を、いちばん意見を交換したい相手と書簡を交わしてくれ」とアインシュタインに依頼したのが始まり。
そしてアインシュタインは、相手に心理学の大家であるフロイトを選び、テーマは「戦争」とした。

この流れだけで死ぬほど面白そうでしょ。

そして2人は書簡を数回交わす中で、お互い「なぜ戦争はなくならないか」について論じあう。多くの面で同意をしながら、丁寧に議論を進める2人のやり取り自体が知的興奮をそそるので、知的なことが好きな人はぜひ読んで。

内容的なところでは、やっぱり「戦争抑止のためにどうするか」という点についての2人のやり取り。

アインシュタインは「国家に優越する機関を作り、法を作り、それを強制するシステムを作る」という、「あれ、それって国際連合が目指して失敗している姿そのものだな?」と思える内容を1932年時点で論じている。その後世界は実際にアインシュタインが描いた方向に進んでいくのだから、その慧眼には感服せざるを得ない。

そしてさらに驚くのがフロイト。
このアインシュタインの議論に対し、「確かにその通り」と一歩認めつつ、結局重用なのは「人々の理性の力を強くし、文化を高めていくこと」だと論じる。

第10位のところで書いた内容とも少し関係するんだけど、現在の世界は「分断」というキーワードに象徴されるように、結局「人と人とが対立することはやむを得ない。自分の身を守るには自分が強くならなきゃ」という考えが結構深く浸透してきているように思う。アメリカ大統領がスマートさよりもパワーを強調する人間に変わったこともそうだし、個人レベルで言えば筋トレブームの背後にある思想も実は同じ。

「最悪殴れば勝てる」という安心感が自分のメンタルを安定させるんだ、と筋トレにハマった友人が話していたな。

要は、現代(ここ10年くらい)は、フロイトの抱いた人類への期待とは真逆の方向に動き出しているんだよな、ということ。それが正しいとか間違ってるとかではなく、我々はどんな方向に向かっていくべきなのか、再考を促すきっかけにはなるだろう。

第7位

ポール・ポースト『戦争の経済学』(バジリコ、2007年)

さっきが戦争の心理学的観点からの考察なら、こっちは経済学的観点からの考察。

戦争の収支計算なんかが載っていたりするので、経理の方とか、数字で考えることが好きな人はこういう本の方が考える手始めになるんだと思う。

この本の中では、「領域を拡大するタイプの戦争は今や経済的ではない」と論じていて、結構納得していたんだけど、やはり現実は数字だけでは動かない。

ロシアのクリミア併合なんかは、その正当性は別にして、確実に領域の拡大しただし、現在でも戦争や紛争の多くは領域をどちらが支配するかという争いだったりする。
今年の領域紛争だと、中国とインドも結構バチバチしていたし、ニュースとして大きく取り上げられたのだとやはりアゼルバイジャンとアルメニアの紛争。ナゴルノカラバフを巡る領域紛争で、停戦合意しては破り、を繰り返している。

やっぱり日本の竹島・尖閣・北方領土の問題と同じで、領域紛争は国民感情を激しく刺激するので、経済的じゃないからというだけで控えることはないんだろうな。

第6位

松本太『世界史の逆襲 ウェストファリア・華夷秩序・ダーイシュ』(講談社、2016年)

「国際秩序」とは何かっていうところを簡潔にまとめて、その秩序間の対立を描いている本として、わりとおすすめだった。

タイトルの通り、「ウェストファリア」「華夷秩序」「ダーイシュ」の3つに分けている。2016年当時はまだイスラム国の脅威がかなり強い時期だったので、こういう3つになっている。

今思えば、これが6位かあ。7~10位の方が断然おすすめ。

第5位

E.H.カー『危機の二十年――理想と現実』(岩波文庫、2011年)

国際関係論を学ぶ人全員の必読書。ちょっと学生向けって思うかもしれないけど、現代の国際政治、世界の動きを理解したい人にもとてもおすすめ。

戦間期(第一次と第二次の世界大戦の間)二十年の国際政治に展開した理想主義と現実主義の2つの主義のそれぞれを分析した本だが、
理想主義というのはアメリカのウィルソン大統領に代表される、国際連盟を作るときに働いた思想で、「戦争を法によって禁ずれば戦争のない世界が作れるんじゃないか」という考え。
これに対して、現実主義は「法だけじゃ無理に決まってんじゃん」という発想。めちゃくちゃざっくりだけどね。

この2つの考えが戦後の国際政治学の2大潮流としてどんどん進化していくので、その基盤・根幹を知り、当時の学者がこの2大潮流をどう理解していたかを知るのに良い。正直、この時点で国際政治思想のかなりの部分は議論されていて、後の50年の展開が小さく感じてしまう人もいると思う。それくらい深い洞察に基づく良い議論が展開されている。

第4位

マーチン・ファン・クレフェルト『戦争文化論』(原書房、2010年)

4位これか。尖りすぎか笑。

クラウゼヴィッツ的な「戦争は政治目的を達成するための手段」とする発想とは異なる戦争がこれだけあるぞ、人類は戦争するという「文化」を持っているんだ、と主張する本です。

この時点で感情的に反発したくなる人続出だよね。

でも、戦争における「身体の装飾」の文化とかに言及していて、明らかに目的思考型の発想では出てこないことが多々あるだろ、という指摘は面白い。

我々で言えば、戦国時代の武将の甲冑なんかを考えてくれ。

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(出典:仙台市博物館「主な収蔵品(武器・武具)」)

「金色の細い月形の前立」は伊達政宗のものとしてすごく有名だけど、これ、要る?って話。

戦争に勝つため、あるいは武将が自分の身を守るためには、こんなに目立つもの絶対邪魔で、むしろデメリットしかない。
時代が下っていくと、所謂「軍服(甲冑も広い意味では軍服だよね)」は徐々に実戦重視に変化していき、シンプルになっていったりしているんだけど、今でも残っていて、かつ邪魔なものがある。

徽章だ。

将校の階級を表すそれは、当人の名誉には繋がるものの、いざ戦う際には「私、重役です!」とアピールしているも同然である。
まぁ、現代ではそんな映像で視認できるような距離感に重役はいないじゃん、ってことで残しているのかもしれないけどね。

こういう、「一見無駄なもの」が根強く残っているところに、「文化としての戦争」が読み取れるぜ、みたいな話を本書では展開しているので、普通にすごく面白い。

第3位

エドワード・ルトワック『中国4.0』(文春新書、2016年)

より現代の戦略論の本。アメリカの戦略論の大家ルトワックおじさんによる、ゴリゴリまっちょな戦略論に基づいた中国の考察。

彼が別の本でも主張しているのが「逆説的論理」という考え。
要は「大国が小国と戦っても、その小国を他の大国が援助するため、小国には勝てない」ということである。

ベトナム戦争にアメリカが勝てなかったのがその好例で、ベトナムがアメリカを追い出せたのは、ソ連と中国の支援があったからだった。

これを現在の中国の行動にあてはめると、中国は戦略的なミスをどんどん犯しているぜ、というのがルトワックの主張なので、気になる方はぜひ。

刊行から4年経った今でも、中国の動き方は大きく変化していないので、ルトワックおじさんは今でも同じようなことを言うんじゃないかな。

第2位

ピーター・ナヴァロ『米中もし戦わば』(文藝春秋、2016年)

私は単行本で読んだのだが、文庫があるのでそっちのリンクを貼っときます。

トランプ政権で大統領補佐官を一時期やっていた人物が、補佐官になるちょっと前に書いた対中戦略の本。

トランプ政権の人、と聞くとやべー奴ばっかりかって印象になるかもしれないけど、アメリカが守りたいもの、中国が勝ち取りたいものを冷静に整理していて、かつ中国に対してどんなアプローチをとるべきか、結構冷静な議論が展開されているので面白かった。

今ちょうど大統領が交代することになったけど、この4年間トランプ政権の対中政策はこうだったっけ?という確認の意味を含めて再読しようかな。

第1位

アンドリュー・クレピネヴィッチ,バリー・ワッツ『帝国の参謀 アンドリュー・マーシャルと米国の軍事戦略』(日経BP、2016年)

わあ、これ、私のオールタイムベスト級の本。

「ペンタゴンのヨーダ」というあだ名を持つ、アメリカ国防省のスーパー分析官、アンドリュー・マーシャル。1973年から2015年まで(年齢で言うと、52歳から91歳まで。やばくね?)、40年以上国防省で軍事戦略立案のための分析をやり続けた人。ね。ヨーダでしょ。

この人がいなかったらアメリカは冷戦に負けていたかもしれない。それくらい重要な貢献をした人物の評伝を、その愛弟子にあたる2人が共著している。

ちなみに、マーシャルの評伝なんだけど、マーシャルの評伝書いたら冷戦期から2010年ごろまでのアメリカの軍事戦略史を国防省視点で整理できるっていう。

この本で一番感銘を受けたのは、「適切な問いを立てる」という視点。

なんでもそうだけど、「どうしたらいいんだ」って答えばっかりが求められる世の中だけど、欲しい答えを出すには、そもそも何の答えを出すべきか、という問題の選択、そしてその問題に対して「どう問うか」という視点が必須になる。

そのことに気付かせてくれた本だし、マーシャル自身それがキーとなってアメリカの軍事戦略を導いていく様がとにかくかっこいい。

おいそれと再読できないくらいの重量感だけど、適宜パラパラと読み返しながら暮らしている。

おしまい

一気に10作品は書きすぎかな?と思ったけど、とりあえず今回は10作品一気に紹介してみた。

こうしてみると、2016年当時の私、本当に軍事・戦争系の本読み漁ってたなあという笑。10冊中9冊はそれに関連するからね。

最近あんまり手に取れてないけど、積んであるのはいっぱいあるのよ。

例えば、デーヴ・グロスマン『戦争における「人殺し」の心理学』(ちくま学芸文庫、2004年)とかね。

これ、誰に需要があるんだってかんじの本紹介だけど、もしご興味を持たれた方はぜひ読んでみてください。そして、ぜひ私にも読んだ感想を教えてください。

それでは。

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