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好きなところ

 どこが好きか、と問われて、まともな返答をする自信がなかった。だからたくさん考えてきたつもりだったのに、口が滑って、やはり変な返しをしてしまった。孝仁くんが目を丸くしている。

「えっと、腕?」

 あたしはちょっぴり肩をすくめて、隣にいる治也はるやの腕をとった。こうなったら、ちゃんと説明しよう。

「そう。例えばこの二の腕のところのカーブと硬さがね、すごくいい感じなの。頭を乗せても、頬を押し付けても気持ちがいい」

 孝仁たかひとくんは笑った。とても楽しそうに。

「仲良しで、何より」

 治也がやわらかくあたしの頭をぽんと撫でた。そして言った。

「仲良しだよ。でも、好きなところで腕って」

「ごめん、嫌だった?」

 あたしは少し上目遣いをする。治也は首を振った。

里奈りならしいなと思っただけ」

 ずいぶんわがままなお姫さまだな、とよく治也は言う。それは嫌味ではなく、なんとも嬉しそうに、そう言う。あたしのわがままを聞くのが楽しいらしい。あたしはあたしで、仕方ないなぁと笑う顔が好きでわざとわがままに振る舞っていたりする。あたしらしい、が何を指すのか、あたしにはわからない。

「あと、名前とか」

 ぽつりと呟く。

「はるや、って呼ぶたびに、きゅんとする」

 治也は軽く笑った。

「呼ばれるのも、きゅんとするよ」

 孝仁くんがため息をついた。

「あー、俺も彼女欲しいわ」

 あたしは返答に困る。

 治也が適当に答えている。

 あたしは治也みたいな人のことをサイコパスって言うんじゃないかと思ってる。数々ある好きなところを全部帳消しにしちゃうくらい、治也は人の気持ちを踏みにじるのが得意だ。

 付き合おうって、言ってよ。

 いつものホテル、いつもの部屋で治也は笑った。いつも通り、里奈はずいぶんわがままだなって。それなのに、それだけは聞いてくれなかった。

「俺も、ね」

「え?」

「すぐできるよ。孝仁くん、優しいし」

 治也も彼女を欲しがっていたらいいのに。大好きな腕をとって、絡める。

 ん、と優しい顔をする大好きな人が、あたしは大嫌いだ。

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