すすきはら

 秋の夕焼けは眩しい。そこら中の金色のすすきが輝きを反射するのだ。黃や紅に色づいた数多の葉も、例年どおり優しく笑っている。いつもどおりの秋。

 こんなはずじゃなかった、を、もう何度繰り返したろう。少女はひとつ、ため息をついた。その棒切れのような脚は、しかし、色づく大地を力強く踏みしめていた。

「あーーもうやだ」

 もうひとりの少女は、突如しゃがんでもみじの葉を一枚、拾った。そして立っている少女に見せる。

「あ、きれい」

 少女は、このうるさいクラスメイトがあまり好きではなかった。しなしなに赤黒くなって落ちた葉を、きれいと思う感性が理解できなかった。校則で定められた白いハイソックスを、膝にかかるまで引き伸ばして履いているところや、クラスで人気の男の子に話しかけられると目に見えて狼狽えるところも好めなかった。来年クラスが離れることを祈るのみである。

 彼女は自分のこういうところもまた、嫌いだった。いつも一緒にいてあどけない笑顔を見せるこんな少女に対して、好ましくない感情をもつ自分が恥ずかしかった。

「ねえ沙里奈さりなちゃん、わたしね」

 わたしという一人称を、得意げに使うところもいただけない、と少女は思う。今年の春高校を卒業し上京したお姉さんの真似をしているのだ。歳の離れたお姉さんがいるというだけのことを自慢にしているのが、みすぼらしく思える。

「春になったら、東京に遊びに行くんだ」

 東京。少女らの細すぎる脚は、まだその地を踏みしめたことはなかった。電車で2時間ほどの距離だが、幼い彼女らにとってそこは憧れの桃源郷。

「東京にはね、スカウトの人がいてね、それでわたし、アイドルになるんだ」

 少女は首を傾げた。

「スカウトの人がいると、アイドルになれるの?」

「スカウトの人に気に入られると、アイドルにしてもらえるんだよ」

 しゃがんでいた少女はもみじの葉を捨てた。かさり、かさりと踏みしめて、立ち上がる。白いハイソックスを膝まで引き伸ばしてから、にやりと笑った。

「東京に行くと、アイドルにしてもらえるんだよ」

 もう一度言うと、彼女は走っていった。おそらく、東京のほうへ。

 かさり、かさりと足音。少女は目を細めた。彼女のことは好まなかったが、しかし、眩しく思った。東京に行くだけで、望めば誰でもアイドルになれると信じている幼気いたいけな少女。沙里奈ちゃん、わたしね、と弾んだ声。

 こんなはずじゃなかった、を、もう何度繰り返したろう。少女のちっぽけな胸にこっそりとしまわれた希望が、音を立てる。

 少女は彼女の駆けていった眩しい金色の道を、目を細めたままじっと睨みつけている―。


このお話は ひつじぐも のスピンオフです。どちらもあまり主人公の境遇に触れず、ただそのときの感情を書き殴るような形のお話ですが、実はこういうのが一番拘っていてお気に入りだったりします。ちなみにもし実在の芸能人と同じ名前だったとしても関係はありません。

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