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シルバーカラー

 橙色の部屋。壁には小さなイラストと鏡がかかっている。コスモスみたいなかご編みのお花の、中心部分だけが小さな鏡になっている。なんだかお洒落な感じのする部屋だ。机にはお菓子とピザと缶のお酒たちが並んで、かわいらしい飲み会が開かれている。女の子たちの開いた飲み会。

「じゃあ自己紹介からいきまーす」

 三年前、僕たちの代はちょうど入学の年にコロナが始まって、学科の飲みなんてとてもじゃないができなかった。そのまま、もういいか、と流れてしまっていたものを今回、女の子たちが開催してくれている。はじめましての人もいれば、そうでない人もいる。

 さらさらの黒い髪が揺れる。ほんのり赤いまつげが、伏せる。ぷっくらとしたくちびる、が、ゆっくりと開く。

「山崎佳代です。お願いします」

 僕をちらりと見て、佳代ちゃんはゆっくりと喋る。大きなテーブルの、角を挟んで隣。くちびるが少し尖って、緊張しているみたいだ。うちの学科は男子が多いから、佳代ちゃんから見るとはじめましての人ばかりだろう。

 女の子たちは仲が良さそうで、佳代ちゃんはずっと僕とは反対の隣にいる橋本さんに抱きついていた。橋本さんがにこにこしながら言う。佳代は"甘えた"だねぇ。僕は、やめてくれと思う。

 飲み会の最中、真実か挑戦か、橋本さんが佳代ちゃんに聞く。

「彼氏には、なんて呼ばれたい?」

 みんなが見る。少し赤くなった頬でかわいらしい声を出す。

「佳代ちゃん」

 その声があまりにも甘くて、男性陣はみんな息を呑む。僕は少し苦しくて、佳代ちゃんをじっと見る。ハイボールの缶を置くと、自分の外したアクセサリが音を立てた。

「じゃあ次、佳代が吉田くんに質問する番ね」

 佳代ちゃんが僕を上目遣いで見た。まつ毛越しに目が合う。ぞくっとする。普段は甘えたな佳代ちゃんは、実際のところけっこうなサドだ。今もみんなの前で何を聞いて困らせようかと企んでいるに違いない。

 しんとした瞬間、佳代ちゃんは聞いた。

「そのネックレス、つけてもいい?」

 僕は口をあける。佳代ちゃんがにっこりと笑う。こくりと頷くと、缶のそばに置いてあった僕のシルバーのネックレスをゆっくりと取り上げて、後ろを向いた。

「髪の毛、持ってて」

 僕はおそるおそる、そのつやつやでぷるぷるの髪の毛を束ねる。首筋。今すぐ触れなくては消えてしまいそうなくらい儚い、白い首筋。

「え、それが質問?」

 誰かが言った。佳代ちゃんはふふっと笑った。橋本さんが、佳代だいぶ酔ってるな、ちょっと風当たりに行こうかと言う。ふたりが立ち上がって、次は僕の質問から始まる。

 佳代ちゃんたちが完全に部屋を出たあと、スマホの画面に通知。

「ネックレスは首輪でしょ?」

 僕はハイボールを一気に流し込んで息を吐いた。佳代ちゃんの目が浮かぶ。ぞくぞくする。

 誰が見ても魅力的で心配になるほどの、愛おしい僕の彼女。

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