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デート前

 淡いピンク色のえり付きのニットを手に取って、顔を傾けた。

「可愛くない?」

 それがちゃんと可愛いから、俺はうなずく。

「うん、可愛い」

 静香しずかは俺の精一杯をにやりとかわす。黒い髪の毛が、くるんと跳ねる。俺と会うために巻いてきてくれたのかと思うと、少しにやける。

「これだったら、やっぱり白が合うよね」

 手に取ったのは、オフホワイトのマーメイドスカート。膝まではタイトで、その下が広がっている形をマーメイドスカートと言うらしい。そしてその形は、静香の「骨格」によく合うらしい。理解はできないが、記憶はできた。これからこのスカートを見かけるたびに静香を思うことになるのだろう。

「似合うね」

 静香に、という意味が伝わるように、目を見ながら言う。彼女はマフラーとコートを押し付けてくる。受け取ると、鏡の前でコーディネートを合わせる。

「うーん」

「こんなの絶対惚れるだろ、いいと思う」

「確かにねえ」

 静香は俺の顔を少し見て、鏡を見て、もう一度俺を見て、言った。

「でもだめ」

 ハンガーを重ねて持ってから、コートとマフラーを奪い取る。

「なぜ?」

「こういうのはバレンタインにとっておかなくちゃ」

 大切なのは可愛いことと、王道すぎないことだと彼女は言う。マネキン一式揃えたみたいな王道可愛いコーデは気持ちを伝えすぎるから、普通のデートには少し抜け感が必要なの。ましてや今回は初デートなんだから、気合いを入れ過ぎたらあとが辛いでしょう。

 スカートを俺に押し付けると、今度はピンクのニットだけを当ててみる。タイトな青いジーンズにも、それはよく似合っているように見えた。

「まあこのくらいかな」

「これも、可愛い」

「でもデートにジーンズって、平気かな」

「静香はスタイルがいいから全然あり」

 ありがと、と呟いて、静香は会計に向かう。その後ろ姿をぼんやりと見送る。ジーンズでデートしたっていいだろ。だって、俺は今日もデートの気分で来ているから。スカートをそっと戻す。

「よし。これであとは髪の毛をさらさらストレートにすれば完璧ね」

「巻かないの?」

「巻くよりストレートのほうが大変なのよ。気合いの入っている日はストレートにするの」

 ほら、帰ろ、と、静香は髪の毛を揺らす。綺麗に巻かれた黒髪が俺の目に虚しい。急いで隣に並んで、話を合わせる。どんな男と、どんなふうにデートするのか、確認する。最高の友だちとして、可愛い彼女と歩く。

 すぐ横を、静香に似合うスカートを履いた女が通り抜けていく。

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