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月夜の笑い声

 くすくす、くすくす。

 カーテンの隙間から差し込む月明かりにぼうっと照らされた白い壁に、カラフルなジグソーパズルが二つ掛かっていました。その下は、横に長いカラーボックス。三段あって、上の二つは細かく区切られています。絵本とか、ミニカーとか、お人形さんのお家とかが、綺麗に整頓されて入っていました。一番下の段は横の仕切りがなくて、互いにもたれあったぬいぐるみたちが笑っています。

 くすくす。

 一番左は、スージー・ズーのくまのブーフです。ひなちゃんのお姉ちゃんのさくらちゃんが今年中学生になって、初めてお友だちと行ったゲームセンターで取ってきてくれた子です。ひなちゃんはさくらちゃんが大好きなので、スージー・ズーのアニメを観たことはないけれど、この子がお気に入りです。よくお腹のハートマークを押して遊んでくれるんだよなあ、と、ブーフはにっこり笑います。

 そのお隣は、うさぎのみみぴょんです。この子はとっても昔からいるぬいぐるみです。さくらちゃんがまだひなちゃんくらいだった頃、クリスマスのプレゼントにサンタさんがくれたものです。耳のそばに黄色いお花が付いていて、だからさくらちゃんが、「あなたはみみぴょんね」と名付けてくれました。さくらちゃんによく似たひなちゃんが遊んでくれるのが嬉しくて、みみぴょんもふふふと笑います。

 そのお隣に、とっても小さなパンダのぬいぐるみがいます。お引越しをする前に、通っていた幼稚園のお友だちのあやのちゃんがくれたので、あやのちゃんという名前です。ひなちゃんは、あやのちゃんのことを思い出して、いつも少し涙をこぼします。あやのちゃんは、お友だち想いで優しいひなちゃんが本物のあやのちゃんにまた会えることを願っては優しく笑います。

 真ん中らへんにいるのは、一番大きなわんちゃんのぬいぐるみです。茶色い毛並みが立派で、本当のわんちゃんみたいです。れおくんと呼ばれています。わんちゃんが飼いたいと駄々をこねて、代わりに買ってもらった子です。ぬいぐるみみんなのリーダーをしています。れおくんはいつもひなちゃんが抱きついて甘えてくるのが可愛くて、ひなちゃんの方を向いて笑います。

 その隣には、小さな魔女さんが三人います。柔らかな黒い帽子にリボンがかかっていて、リボンの色が、黄色いのがララ、ピンク色のがリリ、水色のがルルです。ひなちゃんはよくお友だちをお家に招いては、この三人を使って魔法使いごっこをします。次は誰がひなちゃんに使ってもらえるだろうとよく言い合いをしては、仲直りに楽しく笑い合います。

 一番右は、ヒョウのぬいぐるみです。ひなちゃんが初めて行った海外のシンガポールで、夜の動物園が怖くて泣いていたら、お父さんが買ってくれた子です。そのときに見たヒョウがとても大きくて怖かったので、ひなちゃんはこの子をヒョウさまと呼びます。怖がらなくていいんだよと、ヒョウさまは眉を下げて笑います。

 みんなの目の前にはいちご柄のふかふかの絨毯が広がっています。ひなちゃんはいつもそこに座って、みんなを引っ張り出してくれます。みんなはひなちゃんが、そしてひなちゃんと遊ぶ時間が大好きです。

 くすくす、くすくす。

 月明かりでぼうっと浮かぶ小さな白いベッド。ひなちゃんは小学校二年生になって、背がぐんと伸び始めました。見た目が可愛くてお母さんが思わず買ってしまった長さの調整できないキッズベッドでは、そろそろ足がはみ出してしまいそうです。

 みんなは、ひなちゃんのふっくらとした足の指を見つめながら、ちょっとの寂しさを振り払うように、明日は何して遊ぶのかなと、楽しげに笑い合っています。

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