酔狂
プーさんと目が合う。全然可愛くなかった。朋子さんの持ち物だと思ったら、ちょっと可愛いような気がするけれど、幼馴染の男がUFOキャッチャーで取ってくれたと話した声の高さを思い出すと、やっぱり全然可愛くなかった。
正直ダメもとだった。サークルの中でも朋子さんは断トツで可愛かったし、みんな一度は好きになる存在で、だからこそ高嶺の花すぎて後輩の僕たちには朝の挨拶すら勇気のいることだった。
「ゆんくん、ワイン飲めるっけ」
「好きですよ」
「いただきものなんだけど美味しそうな赤があるから開けよっか」
「いいんですか?」
うん、と大きく頷くから、つるつるの髪の毛が揺れた。
「ありがとうございます」
ふわりと広がる、夜の香り。夜の香りがしますよね、と言ったとき朋子さんは照れたように、控えめにはにかんだ。これが噂のキラースマイルか、と僕は思った。強気な見た目とは裏腹にそっと滲んだ笑顔に、僕は思わず二軒目を提案した。
「じゃあ軽くつまみとか作るね」
「手伝いますよ」
「あ、いいの、座ってて。ありがと」
今僕がいるのはベッドとローテーブルの間。棚の上には花瓶と写真立て。写真は真ん中に朋子さんで、両隣には背の高い男だ。絵になる三人だった。この二人が、有名な朋子さんの幼馴染。写真を睨む僕を、じっと見つめるプーさん。
「ゆんくん」
「僕、夕弦っていうんですよ」
「名前で呼んでほしいの?」
こちらを振り向いた瞳を見つめる。
「夕方に出る三日月をイメージして、夕弦なんです。朋子さんも月が入ってるでしょ? ふたつも」
朋子さんは案外乙女だ。柔らかい、気を許したような表情が美しい。
「じゃあ、夕弦くん」
「なんでしょう」
「部屋をあんまり見ないで、恥ずかしいから」
バレてた。僕は慌てて言い訳を探す。
「スマホの充電なくて、ちょっとコンセントお借りできないかなぁと思って…」
「あぁいいよ、充電器持ってる?」
「あります、ありがとうございます」
充電器を電源ソケットごと取り出してコンセントに差す。あとは帰るときに、電源ソケットを忘れていけば完璧。
「わ、いい匂いですね」
この部屋は男の影が多すぎる。朋子さんと付き合えたら、絶対にそのことで喧嘩になる。早めに手を打っておいて損はないだろう。
プーさんがこちらを見ている。
僕も朋子さんを見る。
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