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きらきら

 黄色いカーテンを透かして、部屋全体の空気が朝になる準備に勤しんでいる。私は目をぱっちりとあける。すぐ目の前でみなとくんがすっと目を細める。

「おはよ」

 私も頬を緩めて返すと、彼はもぞもぞと動いた。左腕を伸ばすと、私の頭を指でつんと押した。

「頭あげてください」

 枕をすっと引き抜かれる。私だけが使っていた、少しへこんだそばがらの枕を、湊くんが奪い去る。私は彼の喉仏を見つめる。上を向いた顎の綺麗なライン、その下のよく張った突起。

 かぶりつきたいくらい愛おしいそれは、私の視線に気づいたのか、ごくりと上下した。

 顔をつんと押されたので、頭を下ろす。新しい、温かな枕は、耳を当てるとごおおと音がする。

 このひとをつくる血の音を、私はしばらく、目を瞑って聞く。絶え間なくうごめく赤を想像して、私は昨夜を思い出した。このひとの中の、別の色のこと。

 白。

 体の内側は真っ白なんじゃないかと思うくらい、このひとから滲むものは白色をしている。絵の具のようなべったりした白、ではなくて、もっときらきらした、七色を内に含むような、そんな神秘的な白。

 湊くんがふっと息を吐く。湊くんの魂が真っ白に輝いてそこら中に満ちた。それから、口を開いて舌を出す。泡を含んで落ちてくる唾液も、白色をしていた。私も舌を出してそれを絡めとりながら、綺麗だな、と思う。夜の空気をまとった白は艶めいていた。

 ごおお、と、赤は彼の中を流れていく。きっと本当の体の内側は赤に染まっているんだろうと考える。鮮やかな赤が彼の体をつくる。でも、彼から滲んでくるいろいろなものは白だ。声も、息も、香りも、すべてが輝く白だ。そこにはどんな化学変化が起きているんだろう。

 あの愛おしい突起のなかには、どんな色が詰まっているんだろう。

架純かすみさん」

 ひとつ、あくびをすると、湊くんもつられてあくびをする。

「ん、なぁに」

 かすれた声で、私は言う。眠たかった。薄目をあけて湊くんを探す。気軽に抱きつける場所がなくて腕が空を抱く。仕方がないので頭を持ち上げて彼の腕を撫でる。

「嫌でしたか」

「ううん、でも、こっち」

 おろしてくれた腕にぎゅっと抱きつく。肩におでこをつけて、肘はお腹に当てる。温かい。命の温もりだった。

「好き」

 このひとの中には他にどんな色があるだろう。目を瞑る。湊くんの、白色の香りに包まれる。赤を抱いている。部屋には朝の、カーテンを透かした黄色い光が満ちている。

 規則正しい呼吸の音を聞きながら、私の意識もすっと、飛んでいった。

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