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金とき
2020年7月24日 00:05
「隣、空いてる?」 初めて参加した同窓会で、ずっと好きだった人と再会した。十年ぶりの彼はスーツが決まっていて、前と変わらず爽やかな笑顔が眩しかった。「空いてるよ」 烏龍茶のグラスを傾けると、彼は並々注がれたビールで乾杯した。「酒、飲めないんだ」「うん、今はね」「酔ったらどうなるんだろうね、小野は」 左隣の席に腰を下ろして、彼はふぅ、と息をついた。「久しぶりだな」
2020年7月18日 01:29
『おはよ、今日は忙しいのかな?』 朝のパックをしながらラインを送る。ピン留めしてあるから、彼はいつも一番上にいる。まだ既読はつかない。 プロフィールを開いて、アイコンをタップした。腕をこちらに伸ばして恥ずかしそうに笑う彼の写真を拡大する。うん。今日もかっこいい。 パックを剥がしてスマホを置く。ぷるんと潤った肌に下地を伸ばしていく。眉を描いて、まつ毛を持ち上げて、出来上がった顔は何とも
2020年7月10日 00:47
暗い部屋で一人、揺蕩う火を見ている。 もう一度吹き消そうと息を吸い込んで、何度も飲み込んでいる。さっき、21本すべてが煌々と光っていたときは思い切り吹けたのに、なぜか1本だけ残ってしまった寂しいこの火を見ていると、消せない。 彼は帰ってこない。 寂しいかと問われれば寂しい。でも、仕方のないことだと諦めてもいた。どうでもいいのかと言われたら、案外その通りなのかもしれなかった。 消し