あごのかほり(77.2)
人生で初めて「あごだし」をとった。鍋のベースに仕立てるつもりである。
1リットルほどの水に、お酒をカップ1杯。軽く水洗いした「あご」を5匹ほど浮かべてぐつぐつと煮る。15分もすると湯がうっすらと色づき、魚介系の香りが立つ。このとき私は確信した。
ーーこれはうまいに違いない
こうして、すっかり自信を得たわたしは味見をすることなく、食卓へ土鍋を運んだ。カセットコンロに火をつけると、湯気ごしの家族たちをゆっくりと見渡しながら言う。
「さあ、今日はあごだしだぞ。まずは出汁から味わおう」
いただきます。と、いっせいにお椀に口をつけた瞬間、その場の全員が言葉を失った。永遠に思える数秒間がすぎ、ようやく言葉になる。
「これは、、、なんというか」
「あじが、、、ないね」
「、、、うん」
ほとんど、お湯なのだった。
あごだしの洗礼を受けた翌朝の体重は77.2kg。やっぱりショックだったから、減ったんだろうか。
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