トロントで医者にかかる

カナダは人手不足による医療危機が叫ばれており、毎週ごとに「週末はER(救急センター)」が人手不足で閉鎖されます」というニュースが流れる。救急搬送ができないというのはかなり深刻な事態なんだろうと思うけど、どうしようもないので深刻な病気やけがをしないように祈るしかない。

カナダの医療は原則として無料なのだけど、現実には手術も診察も数年単位での順番待ちになるため、実際にはなかなか治療を受けられない。この点はお金持ちでなくとも必要な医療がだいたいすぐに受けられる日本はすごく恵まれているな、と思う。同僚の香港出身の教授は、万が一病気になったらすっとんで香港に帰ると言っていた。それくらいみんなカナダの医療体制を信用していないのである。

それはともかく、先週自転車で転んで肩の骨を折ってしまった。といってもそれほど深刻なものではないようなのだけど、おかげでぼくもカナダの医療を初めて経験することになった。行ったのは家から近いということで選んだWalk-In Clinicである。Walk-In Clinicとは、かかりつけ医でなくとも予約なしで診療してくれる医者のことである(場所によっては予約を必要とするところもある)。トロントではかかりつけ医が不足しているので、かかりつけ医というものを持たない市民が多く、したがって(かかりつけ医の紹介が必要な)専門医の診療も一切受けることができない状態になっている。

上記のような事情でかなり警戒してクリニックに入っていったのだけど、自分の受けた診療については特に不満はなかった。ただ朝行って、40分ほど待ち、医者に問診され5分ほど色々触ったり観察したりした後、「ま、大丈夫だと思うけどレントゲン取りましょう。ここには設備がないから近くのレントゲン屋(というべきか)に行ってきてね。写真はぼくのところに転送されてくるからなんかあったら電話するよ。」といって終わりである。受付のおばさんはカナダにしては親切心があって、事情を知ると同情した様子で、I hope you will get better soon.と言って、レントゲンを撮る手続きを丁寧に教えてくれた。

今度は、痛む肩を押さえながら10分ほど歩いてレントゲン撮影である。本当は右腕を背中に沿って持ち上げて写真を撮るのが基本らしいのだけど、打った右肩が痛すぎてとてもじゃないけどそんな姿勢はとれない。技師のお姉さんもなかなか親切に色々と工夫して「うん、これで大丈夫」という写真を撮ってくれた。ぼくの様子を見て、これはUrgent(大至急)ということでドクターに送っておくからね、と言ってくれる。

また肩を押さえながら必死に家に帰り、後はソファーでだらっとしているしかない。シャツの脱ぎ着がかなり大変だったけど、なんとかシャワーを浴びて肩に負担をかけないように寝る。

翌日医者から電話が来て、「レントゲン見たよ。うーん、ちょっとした肩の骨折(Shoulder Fracture)みたいだね。でも、ギプスしたりとかする必要はないな。一か月くらいすれば自然に治るから、それまで無理しないでね。痛み止めいる?いらない?ならあとは待ってればいいよ。じゃあね」といって終わった。レントゲンを別の場所でとらなければならないのは別として、プロセスとしては電話でさくっと診察を終わらせるのは非常に効率的である。

ちなみに上記した通りだが、診察費は完全に無料なので、この過程の間で一ドルも請求されることはなかった。どこに行っても健康保険証を見せて終わりである。一応色々なサービスを受けたのだからちょっとくらい支払いをするのが自分の感覚としては自然なのだけど、まあ無料なのに文句を言うこともない。

そんなわけで、カナダで医者に初めてかかった経験は、それほど悪くはない、というところだった。これが深刻な病気だったらまた話は違うのだろうけど。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?