渋谷散策
仕事が終わらず、時刻は23時半を回る。
「24時前には帰るか。」
切り替えも大事だと思い、今日の仕事はここまでと決め、職場を後にする。
いつもの帰り道。改札前にさしかかり、ポッケに手をやると、大事なものがないことに気がついた。
「サイフ。。」
仕事の資料の下敷きになっているサイフの存在をすっかり忘れていた。今来た道をもう一度引き返す。
自分の中で、こういう時間が一番無駄だと思いながら、何回も同じことを繰り返してしまう。なんとか仕組み化して解決しないと。
そして会社の扉を開けようとレバーに手をかけると、一瞬思考が停止状態となった。
「開かない。」
僕が帰った後、おそらく上司もすぐに帰宅し、扉の鍵を閉めてしまったのだ。
「どうしよう。」
連絡を取ろうにも、連絡先を知らない。
「まあ、なんとかなるか。」
こういう時、楽観的な思考はありがたい。
何となく、こんなことが起きたことも何かの縁だと思い、渋谷の街を散策してみることにした。
朝まで待てば会社の鍵は開くので、それまでの辛抱だと思えばなんてことはないのだが、1月の真冬に外で1日を過ごすのはなかなかハードだ。
ひとまず、今の状況が面白いと思いインスタに投稿した。24時を軽く過ぎているのだが、みんな意外と起きているもんだなと思った。しかもインスタ見てる。
現状をあれこれ考えていても仕方がないので、ひとまず渋谷をぶらぶら。ただ、やはり深夜の渋谷は違った色がある。あんま自分の肌には合わない、嫌な雰囲気。
数多のキャッチをくぐり抜け、人が少ない方にとりあえず歩いてみる。
ひとつ気になったことは、アパレルショップ。
誰もいないのにずっとライトがついている。
不気味にマネキンが照らされているのは何でだろう?
調べても理由は出てこなかったので、知っている人いたら共有していただきたい。
何でこんな無駄に電気代を使っているのか。謎。
そして、夜は入れるお店が本当に限られるなあということも実感。
とくに、ファミレスはもっと遅くまで空いているイメージだったので、空いているファミレスがないことにびっくりした。これは渋谷周辺だけなのかわからないが、サイゼリヤもガストもマクドナルドも24時から入れなかった。(マクドナルドはお持ち帰りはできる。ガストはgoogle Mapでは夜中4時まで営業、と書いてあるのに入れなかった。)
楽観的思考は「最悪ファミレスがある」というところからきていたものでもあったため、少し不安が大きくなった。
そもそもお金がなかったら空いてても意味ない。
「そろそろやばいなあ」とポッケを探ると、200円が出てきた。
これはデカい。
0と200は天と地の差がある。
と思っていたが、実際はコンビニ以外使い道がなかった。
マジでなんもできない。
「渋谷に気軽に連絡できる友達がおったらなあ」
シンプルにそう思いました。
グローバル化と村社会
今の社会は、広がっているようで狭まっていると思う。
私たちは、とてつもないスピードで世界と繋がっていく。
交通網が発達し、移動スピードが格段に上がったことで、生活範囲はどんどん広がっていった。
携帯電話により、どこにいてもリアルタイムで連絡が取れるようになった。
SNSの発達により、1対他で一方的な発信可能となった。
これにより、気軽に友人と連絡が取れ、現状を確認し合い、定期的に会うこともできる。その結果、知らない人との心理的距離は広がる。
自分の食べたモノが、いつ、どこで、誰が、どういう経路で運び、今目の前にあるのかわからない。着ている服も、触っているスマホも、机も椅子も。誰かが作り、運び、集客し、そして消費している。
そしてその経済の流れが大きくなり過ぎた結果、人間関係はどんどん孤立していっている気がする。
確かに、今の社会は便利だ。ただ、「昔の人より幸せか」と言われると、イエスとは言い難い世の中だろう。
その理由のひとつが、まさにこれだと感じた。
「近くの他人」との心理的距離が、村社会のときと比べて確実に遠くなっている。
目の前で困っている人を、目の前の人が助ける。目の前の人に助けを媚う。
この当たり前が、今の私たちには欠けている。
「遠くの親戚より近くの他人」という感覚が、世界と繋がったことで失われているんだと思う。
「リンゲルマン効果」という心理学用語がある。これは、「都会の人は冷たい」と感じるひとつで、集団が大きくなるほど、人に対して無関心になっていくらしい。「誰かがやってくれる」という感覚が強くなるからだ。
この感覚は、私たちを幸せにはしないと思う。ただ、社会の仕組みがこの心理を生んでしまっているのも事実。
私たちがより幸せになるには、利便性を追求しながら、村社会のような感覚も失わない仕組みが必要なのかもしれない。
助け合いの精神。心理的距離感。人への関心。
これを解決できたとき、私たちは今よりもう少し幸せを実感できる。
そう思った渋谷の夜でした。
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