より好ましい戦略環境を整える取組―――国際的な潮目を踏まえて

1 はじめに

  前回、日米韓首脳会談の意味合いに関する私見を紹介した。多くの人が、この動きを、わが国の戦略環境をより良くする重要なものと、好意的に受け止めていると思う。他方、昨今の情勢は、一つの潮目に差し掛かっているようにも見え、その潮目を、わが国は、主体的に戦略環境を整え得る好機として利用できるようにも見える。以下、その主体的な環境形成の一案を示したいと思う。

2 昨今の情勢(主要アクターの現状)

  主要アクターの現状を、かなり単純化してまとめてみた。

  まず、米等の対ウ支援疲れ・戦争疲れが見え始めている。次いで、露・中ともに国内不安定が気になりだしてきている。その他、印が主導するグローバル・サウスが存在感を高めようとしている。
  特に、わが国にとって、最近報じられた露朝接近は、基本的に好ましくない。更には、この協力関係が、中国を交えた、より深化した協力関係となれば、もっと好ましくない。
  そもそも、この30年程、わが国が対露協調を模索した狙いの一つは、対中を念頭に置いたものであったものの、露のウクライナ侵攻とわが国の対応によりその狙いが簡単に潰えてしまった。一方で、中朝露の接近がわが国にとって好ましくないことに変わりはない。わが国独特の立ち位置も利用し、昨今の情勢や環境改善の必要を踏まえ、より大胆に動くこともできるのではないか、と感じる次第である。

3 主体的な環境形成

  わが国が主体的に行う環境形成は、以下のとおりである。
 ① 目的:露の朝・中に対する依存拡大(接近)に歯止めをかける。
 ② 主目標:ウ露の武力紛争の終結・解決、対露制裁の緩和
   副次的目標:日露領土交渉の再開、露の朝に対する対日拉致問題解決への促し、等等
 ③ 要領:G7議長国として、印(グローバル・サウス)と共同連携し、ウ露紛争の終結・解決を仲介する。

4 ウ露紛争の仲介

  ポイントは、仲介者がウクライナとロシア双方が信頼を置ける国であるか、その仲介案がウ露等にとって納得できる案であるか、にある。

(1)仲介者として認めてくれるか?
  現在、中国が仲介を名乗り出ている。中国が信頼を置ける国であるかはウ露双方にとって微妙ではあるものの、置けない訳ではないことから、仲介が成り立っているのであろう。特にウクライナは、中国がロシア寄りに立つと見なしているであろうことから、ウクライナの中国に対する信頼は微妙と考えられるものの、NATO陣営からの支援やその態度が不十分と判断すれば、ウクライナが中国にすり寄っていくことはあり得る。
  わが国や米国をはじめとする自由主義諸国にとって、中国が仲介によって外交的勝利を得ることは、いろいろな意味で好ましくない。
  他方で、わが国が仲介の名乗り出たとしても、ロシアは信頼を置かない。ただ、インドと共同連携した仲介に至り得た場合、ロシアが信頼を置いてくれる可能性が高まる。わが国独自の主体的な動きであれば、欧米と距離を置くインドも、実利を見据え同調する可能性はある。
  このような動きをわが国が行った場合、米国は全面的に賛同しない。ただ、中国による仲介成功を阻止する観点から、また、米国の国益と国内政治にとって有益であれば、かつインドとの連携が成功すれば、当該仲介を支援する立場に立ってくれる。

(2)納得できる仲介案とは?

  上記案について、ウクライナ、ロシアともに納得しない。ただ、説得を継続することによって、現実的な案として双方が将来的に納得させる余地はあると思料する。
  まず、仲介案に関し、インドと認識を統一する必要があり、かつ仲介を通じた取り組みが、インドにとってメリットがあるように仕向ける必要がある。また、米国及びG7とも、認識統一する必要もある。
  次いで、ウクライナとロシアを納得させる努力を行う必要がある。結局、それぞれが有する問題は、軍事的でなく、外交的しか解決できない問題であることを納得させることが特に重要である。また、紛争終結後の復興等において、特にロシアは、中国ではなく、インドとの連携に指向するように仕向けることが妥当と思料する。

(3)副次的取り組み
  もし仲介が一程度の成果に結びつく場合、速やかに日露外交の再開、特に領土問題の解決につなげていくとともに、北朝鮮や中国との協力深化を食い止めることにつなげていくことが重要である。

4 おわりに

  上記が、非常に荒い(甘い)、もっと勉強が必要な、雲をつかむような仲介案であることはそれなりにわかっているつもりである。ただ、こういった発想を持つ人がもっといた方が良いと思う。ビスマルクやジョージ・ケナンの話を顧みると、国際情勢の潮目における外交政策に係る着想の重要性は誰もが同意するであろう。ウクライナ・ロシア紛争や台湾有事に関する解説報道が継続しているが、軍事的な実況分析等だけでなく、わが国の国益に結びつける外交政策上の観点からも分析・議論してほしいし、そのような報道があっても良い、と感じたことから、この度、このような駄案を披露した次第である。

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