アメリカ流「WWⅢを起こさせない」大戦略・メカニズム―――フォーリン・アフェアーズのインタビュー動画を契機に(その2)

1 はじめに
  前回、ミリー米国統合参謀本部議長インタビューの主旨と私見を紹介したあと、「米国の戦略の基調は、実は第2次大戦以降変わっていないのではないか」という仮説がよぎり始めた。その仮説が正しいのかどうかを自分なりに考えていくと、大戦略(安全保障・軍事戦略の骨格)の重層的なつくりが見えてきたので、その妥当性を問う意味で、この度紹介することにした。

2 米国の大戦略
  まず、考えた結果(結論)から述べる。ミリー大将の発言や、米国の構想、施策等を、①態勢上、②能力面、③運用面に区分・整理してみた。

  表は、下から上に読むように仕向けている。理由は戦略における底流的要素は、表層的な要素よりも下位においた方が、各要素の位置関係をより正確に認識できると考えたためである。
  冒頭で、「米国の戦略の基調は、実は第2次大戦以降変わっていないのではないか」という仮説を提示したが、その見方は①~③のどの部分に重きを置くかや、脅威対象国が変わったこと等により変わってくる。また、今日の米国政府は、「封じ込め」戦略を表向きは否定している点でも、「封じ込め」の用語を使うことは不適切との見方もあるだろう。ただ、①の要素を意識して米国の70年以上にわたる取り組みを振り返った時、結局は、潜在的・顕在的脅威に対し、①前方に面する、②相手が力をつけるのを防ぐ/自らは力をつける、③にらみをきかせる/出鼻をくじく、という(大)戦略が基調であったと言えるのではないだろうか。

3 米国流「WWⅢを起こさせない」戦略・メカニズム
  第2次大戦以降、冷戦、朝鮮戦争、台湾海峡危機、中東戦争、中ソ対立、キューバミサイル危機、ヴェトナム戦争、ソ連アフガン侵攻、イラン・イラク戦争、湾岸戦争、旧ユーゴスラヴィア地域での紛争、アフガン戦争、イラク戦争、ロシアのウクライナ侵攻等多くの紛争・危機等が発生している。第3次世界大戦が今なお起こっていない、又はこれらが第3次世界大戦を誘発していないことは、米国の大戦略が長年にわたり一程度機能していることと関連する。核兵器による恐怖の均衡状態や米国・ソ連等の政策判断の結果であることは間違いないが、前述した、米国による「①前方に面する、②相手が力をつけるのを防ぐ/自らは力をつける、③にらみをきかせる/出鼻をくじく」戦略が機能したことで、過去2度起きた、引き返せないような大国間の対立状態に至らせなかった、とも捉えられるからだ。
  逆に、表の①態勢、②能力、③運用それぞれでの米国の施策不成功は、大戦略に基づく効果をもたらさないことから、米国の大戦略が機能しなくなることを意味する。その中でも、①態勢を切り崩す行為、つまり封じ込め態勢を切り崩す行為が、大戦略の前提を崩すことになる点でより重大性が高い問題とも言える。つまり、同盟国やパートナー国の対米協力姿勢の切り崩す行為や前方の基地や拠点が孤立化/遮断されるような行為がそれに当たる。現にこれらの点が大国間競争・対立の焦点になっている。
  他方で、「封じ込めの態勢は米国にとってどの程度重要・必要なのか/この態勢維持に膨大な資源を費やす必要があるのか」、といった新たな疑問も出てくる。これらの疑問に対する考察については次回以降のテーマにしあらためて述べることにしたい。

4 おわりに(雑感)
  以上のとおり、「米国の戦略の基調は、実は第2次大戦以降変わっていないのではないか」という仮説に対し、私は「変わっていない」との見方に立つ。米国や日本は、国家安全保障戦略、国家防衛戦略等を、通常数年置きに改訂している。公表されているそれらの内容に関しては、経年の変化に触れた上で、主に②能力の話題をその中心に据えているように見え、逆に①態勢の、米国の「封じ込め態勢」や、わが国の「封じ込め支援態勢」は、暗黙の前提事項としてフレーズ化・スローガン化されたりしないし、むしろ対象国に配慮する形でぼかされがちなものとなっている。そうすると、大戦略のメカニズムに関する一般的な理解が表層的になってしまうように感じる。
  他方、私自身もあまりに勉強不足なため、戦略的な思想や用語、背景を十分に踏まえ切れていない。洗練度の足りない内容・概念整理、言葉が見られると思うが、御批判に真摯に応えていきたいと思う。

【引用(前回からの再掲)】
l  The Foreign Affairs Interview, ”General Mark Milley: How to Avoid a Great-Power War(マーク・ミリー大将:大国間戦争を如何に回避するか)”
https://www.youtube.com/watch?v=utWfQ4ZWpCo&t=168s

【参考文献】
高橋杉雄『現代戦略論―――大国間競争時代の安全保障』並木書房(2023)


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