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既存の研究マネジメント方法

企業における研究マネジメントの考察(2)
企業における研究部門のマネジメントについて考えたことを整理しています。

今回は、既存のマネジメント手法について整理したいと思います。残念ながら、自分の経験上はこれといったものがないので、これまで見聞きしたことがある方法についてまとめてみます。

論文を目標にする方法

一つの方法として、論文の出版や学会発表の採択を目標にスケジュールを決めていく方法があります。このとき、研究結果を論文にするのではなく、論文を書きながら研究を進めていきます。

論文の構成はどの分野でもある程度決まっています。研究分野ごとの違いはあるものの、章節立てを大まかにまとめると次の通りです。
 1.イントロダクション ・・・先行研究から課題を導く節
 2.理論/仮説の説明  ・・・事実や理論から仮説を導く節
 3.検証方法の説明   ・・・仮説を検証する方法を説明する節
 4.検証結果の解説   ・・・検証結果の意味を説明する節
 5.考察/結論     ・・・結果から仮説を判断し、知見をまとめる節

論文の投稿日を決め、例えばその2週間前には論文が完成している状態になっているとし、この流れに沿って逆算してスケジュールを決めていくと、いつまでにどの節が終わっていなければならないかといったマイルストーンが決まります。

ITシステムで言えばウォーターフォール型開発手法とよく似ています。

研究のマネジメントとしてこの方法は優れていると思いますが、メリットとデメリットは下記のように考えています。

メリット
・目標が明確である
・スケジュールやマイルストーンといった計画が立てやすい
・論文の執筆状況で、研究の進捗が可視化できる
・研究に必要な作業を一通り実施するので、研究者育成に役立つ

デメリット
・研究の質が、イントロダクションの質に依存している
・試行錯誤による偶然の発見に対応しづらい
・研究者個人の得意・不得意を活かしづらい
・論文が目標とは限らない企業における研究には適用できないかもしれない

分業化する方法

直接見聞きしたわけではないですが、米国では研究室に論文執筆を専門とするメンバーがいる場合があるそうです。論文執筆は時間のかかる作業ですので、研究自体を推進する役割と、論文執筆の役割を分ける方法は、研究推進と論文執筆を同時に進められる点で、効率的と考えられます。

これを進めて、論文執筆だけでなく研究自体も分業化する方法も考えられます。

研究は、広く深く調査する能力や問題を発見する能力、解決策を発想する能力、検証を設計する能力、実験を正しく行う能力、結果から有益な知見を取り出す能力、そして論文を執筆する能力など多様な技能が必要です。

当然、研究者にも得意不得意があるので、得意な部分のスペシャリストを集め、分業すると効率的になることが考えられます。また、分業すると、同時並行で次の作業に取り掛かれるため、素早く継続的に研究成果を出していくことが可能になります。コンピュータ用語で言えば、パイプライン処理が可能になります。

この方法は、漫画家一人で行っていた漫画制作を、プロフェッショナルを集めてプロダクション制にすることに似ています。多様な人材が集まる企業であれば、こちらの方法が向いているかもしれません。

しかしながら、メリットとデメリットは下記と考えます。

メリット
・研究者の得意な能力を活かして、効率的になる
・分業で並行して作業できるため、効率的になる
・次に習得すべき技能が明確になる

デメリット
・ジェネラリストは育ちにくい
・プロフェッショナルを集めないと効率的にならない
・メンバーが多くなり、小回りが効かなくなる

ステージゲート法

数えたことはありませんが、ステージゲート法は研究開発ではよく採用されている手法だと思います。しかし、筆者の会社で試したときは、あまりうまく機能しませんでした。

ステージゲート法は、研究のシーズをステージごとに絞り込んでいく方法です。

ステージゲート法

この方法は、創薬の研究開発のように、1つの課題(疾病)に対して、多数の解決策(候補化合物)を絞り込んでいく場合には、うまく機能するかもしれません。

創薬は、研究開発プロセスが比較的明確になっており、審査基準も「対象タンパク質に結合すること」「毒性がないこと」「服用量が多すぎない」「材料費が安い」「疾病に有効である」「既存薬より効能が高い」など、定量的に明確になっています。また、ステージが進むごとに研究費用が大きくなる点や、最終的に有効な化合物が1つ得られれば良い点からも、候補化合物を絞り込むことに合理性があります。

参考:
 エーザイ「研究開発(創薬研究)の流れ」
 生化学工業「創薬の流れ」

ただし、解決策(候補化合物)の量だけを管理していると、質を下げてでも候補の数を出すことに動機付けが行われるため、質もきちんと見ていくことが必要です。

しかしながら、筆者の会社で行われたように、1つの課題に対して1つの解決策を持った研究テーマの数を絞り込むためにステージゲート法を使うと、うまく機能しないかもしれません。

そもそも、何が当たるかわからない研究では、予算の許す限りは、当たりそうな研究テーマを複数用意しておいた方がよく、研究テーマを1つに絞り込むことは合理的とは考えにくいです。

そのような場合でも、ステージゲート法を無理やり当てはめようとすると、曖昧なステージ定義と曖昧な審査基準になりがちです。その結果、審査員の主観で判断され、研究員には無力感が溜まっていき、モチベーションが減退することになりかねません。

メリット
・研究費用を抑制できる
・進捗を管理できる

デメリット
・使い方を間違えると研究員のモチベーションが減ってしまう
・量だけを管理すると、質が落ちてしまう

終わりに

筆者が知りうる範囲で、研究マネジメントの方法を紹介しました。それぞれ一長一短があるため、次のような特徴を持つ研究マネジメントの方法はないか考えていこうと思います。
・スケジュールやマイルストーンが明確に定義できる
・偶然の発見にも対応できる
・分業できる
・ステージが明確に定義できる


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