タヌキの供養

 みくちゃんへ
 また寒くなってきましたが元気にしてますか? おじいちゃんは変わらずかりに出かけています。この前はわなにかかった鳥を水炊きにして食べました。またつかまえられたらそっちに送ります。今日はめずらしい事があったのでお手紙を出しました。
 去年の冬に鍋にしていっしょに食べたタヌキをおぼえてますか? おじいちゃんはタヌキの骨をおはかに入れておいたんだけど、六月くらいからおはかの周りにタヌキがあらわれるようになったんです。
 冬ごもりも終わったのに痩せこけたタヌキでした。エサがとれないから骨でも食べようとしてるのかと思ったので、追いはらおうとコラッ! とタヌキを叱りました。そしたらタヌキはおじいちゃんを見て、悲しそうに話しかけてきたんです。
「仲間のほねを返してください」たしかにそう言ってました。びっくりして、とりあえずほねを掘り出してあげると、タヌキは立ち上がってぺこりと頭を下げます。何でも大事な相棒だったそうで、聞いてるとおじいちゃんの方がもうしわけない気持ちになって、思わずあやまるのを、タヌキに止められてしまいました。
 タヌキというのは情の熱い生き物ですね。自分も虫や草を食べる。だからこれはしょうがない事なんだ、とおじいちゃんをゆるしてくれたのです。せめて何かおわびをしたかったので、夜にウチへ来るよう約束しました。
 約束どおりタヌキは夜に来てくれたのです。おみやげに小魚を持って来てくれたので、焼いて他の料理といっしょにお出ししました。口をつけるのをためらわないよう、相棒を食べた時のお皿やおはしは使ってませんと言ったら安心してたくさん食べてくれました。おじいちゃんとタヌキ、もう食べれないくらい食べた時、タヌキはお腹をさすりながら話し出したのです。
 実はあれは相棒ではない。俺の女房だったのだ。アイツはどこに出しても恥ずかしくない器量もんだったが、それが良くなかったな。冬ごもりのエサが足りないと知ったアイツは、俺が止めるのも聞かず外に出てって爺さん、アンタに食われた。
 だがそれは良くあることだ仕方がない。問題はよぉ、俺達にはガキも居たってことだな。
 俺一人じゃあどうにもならなくってなぁ……どんどん弱って死んだよ。俺も最後にはフラフラになってエサを探しに行ってたが無駄だった。腹減った、腹減ったって、恨んでるみたいに毎日言われてさ、限界だったよ。俺も腹減ってたしな。
 いよいよ、動けなくなってな。もう死ぬしかないって覚悟決めたんだが、そしたら俺の前にあるじゃないの、動かなくてつかまえやすい、丁度いい獲物が。
 何をそんな驚いてんだ? 共食いだって野生じゃあることさ。だけど変なんだ。それ以来何を食っても腹が減り続ける。寝てると腹が減ったとどこかから声がする。気付いたよ、こりゃ腹の中の子供たちが飢えてるに違いねえと、釈迦の言う所の餓鬼道というのに、俺は落ちたに違いない。
 俺が子供たちの霊を慰めるまで、きっとこのまま往生も出来ず彷徨い続けるだろう。俺はどうすれば良い? 子供たちの腹を満たすにはどうすれば良い? 答えは簡単だと思わないか爺さん。アンタの食った女房の乳が、子供たちの腹を満たすはずだったんだぜ。
 その美味いもん食った体で、俺の子供を満足させてくれや。
 そう言ってやったら逃げようとしたんで、飛び掛かって頭から喰ってやったんだ。
 しかし腹は満たされなかった。やはり駄目らしい。女房の体全部を取り戻すまで、俺は呪いから解かれないらしいんだ。酷い話だ。気の毒だと思わないか? ええ? 女房は美味かったかい、みくちゃんよぉ。
 首を洗って待ってろや。

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