祖母と飛行機


「ほらお空見て、飛行機。」
おんぶされる幼少期の私が
祖母の頭越しにゆっくりと白い線を描く
飛行機を見上げていたことを思い出す。
青い空の下、私をおんぶし短い歩幅で
程よい振動を作りながら
少しずつ歩みを進める祖母の背中の上で
飛行機の速度がどれだけ速いのかなんて
想像しなかった。

祖母の進む速度が私の知る世界の全てだった。

地球は丸いこと。
世界はお空でつながっていること。
そんなことを学習するのはもっとあとのことで
「アメリカは遠いお空の向こうなんだよ。」
と語る祖母の背中に
全てを任せ揺られていた。

時は流れ、あれから30年。
母がオーロラを見る為
友人とフィンランドに旅立つ。
70歳を越えた母のバイタリティに
私と娘は目を丸くした。
私の娘にとっての祖母は
あの頃見た私の祖母の速度から
随分と加速している。

世界の広さを知る手段が数多ある時代を生きる
娘を羨ましく思いながら私は
母の土産話を心待ちにするのである。



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