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おづやすじろう

日本を代表する映画監督・小津安二郎の生誕120年となる今年。
各地で作品の上映会や関連イベントが催されるようです。

撮影の手法とか演出の妙とか専門的なことはよくわからないけど、初めて観た『東京物語』が琴線に触れて以来ずっと大好きな小津安二郎。

そんな小津ファンとしては、ぜひ足を運びたいところ。
そこで見つけたのが、こちら。

遺作となった『秋刀魚の味』の上映に、中井貴恵さんの生朗読というスペシャルな映画祭が、小津監督ゆかりの三重県で開催されるとのこと。


ワーキングホリデーでカナダに行ってた10年前。
トロントの国際映画祭でも小津監督の生誕110年を記念した作品上映があり、そのときも『秋刀魚の味』でした。

小津作品への海外の人の反応を見たい。
当時ほとんどの日本人が抱いていた結婚に対する確固とした価値観が、海外の人の目にはどう映るのか。
英語にも“arranged marriage”って言葉はあるけど、20代前半という当時の結婚適齢期とされていた年齢の娘に対して当然のように周囲から持ち出されるこの概念を、海外の人はどう捉えるのか。

いろいろと興味と期待を抱いて当日チケットを買いに行ったら、とっくにソールドアウト。あらためて小津監督の知名度と人気を目の当たりにし、日本人としてもなんだか誇らしかったのですが、無念すぎました。。
小津ファンを自負しておきながらなんでさっさと前売りチケットを買っておかなかったのかと、悔やみまくったあの日から10年。
海外でとはいきませんが、大好きな小津作品をスクリーンで鑑賞できるチャンスがめぐってきたのです。

これは行くしかない。
ので、行ってきました。

三重県文化会館

先着順の整理券の配布が10時半からとのことで、10時には津駅に着いたものの西口と東口で降りる方向を誤り早速のタイムロス。さすがわたし。
ぎりぎり間に合ったバスに乗り、文化会館に着いた頃にはすでに長蛇の列が。
ここまで来てまた観れないのか…?と、10年前の悲劇が頭を過ぎりました。

ネガティブ人間の常套手段である最悪の結末の想像(妄想)をしつつ、どきどきしながら列に並ぶこと数十分。なんとか整理券を取得!!
無事に鑑賞の運びと相成りました。


ほっと安堵したところで、開演前の腹ごしらえに。
偶然にも津市出身の人が職場にいて、文化会館の近くのおすすめの鰻屋さんを教えてもらっていたのでそこへ。

今思い出しても唾が。。
パリッと香ばしい皮目にふわっとした身。ほんとうに美味でした!
津は鰻の消費量で日本一になったこともあるのだとか。
上司のご相伴にあずかって、大阪で鰻をごちそうになる機会はちょくちょくあったのですが、正直どこのお店よりもおいしかったです。それなのにどこのお店よりもお手頃価格。もはや感動的。ごちそうさまでした。

小津監督が愛したという南千住の鰻の名店・尾花にも、いつか行ってみたい。


ごきげんで文化会館へ戻り、第1部開演。
登壇された中井貴恵さんは、小津作品の常連だった俳優・佐田啓二の娘さんということで小津監督にも孫のように可愛がられていたというエピソードは知ってましたが、ご本人の口から語られる思い出や写真に胸があったかくなりました。

生涯独身だった小津監督が家族のように交流し、溺愛していた女の子が、こうして自身の作品をまたちがった形で継いでいってることを、小津監督、佐田啓二も絶対うれしく思ってるだろうなとか考えたら涙が。。

映画作品を朗読で聴くというのは初めてでしたが、さすがというかなんというか、映画のシーンが目に浮かぶような登場人物それぞれの台詞回し。
笠智衆の独特のイントネーションとか、傷心の岩下志麻の抑えめのトーンとか、特徴をよく捉えられていて聴きごたえ十分でした。


そして、念願のスクリーンで観る『秋刀魚の味』。
小津作品の中でいろんな父親役を演じてる笠智衆だけど、この父親が1番かわいい気がする。やさしさ、人の良さ、寂しさ、ちょっと間の抜けたところ、娘に対する愛情の深さ。すべてが笠智衆のあの風貌にマッチしてる。

娘を嫁に出すことが親の役目であり、結婚こそが幸せの道だと信じて疑わない(自分にそう言い聞かせてるようにも見える)父親が、ただただ純粋に娘のことを想っている姿は愛おしいし、その想いを汲んで結婚する娘もいじらしい。

小津作品に多いモチーフの「父と娘」の描写は、今となっては時代錯誤だとしても、切なくて美しいなと思います。


また印象的だったのが、杉村春子が演じる役のなんともいえない独身っぽさ。父ひとり・娘ひとりの生活で、縁やタイミングを逃した結果の独身ってかんじの雰囲気がすごくある。まあ実際そういう役どころなんやけど。
たしかにあの杉村春子はなんかめっちゃそういうタイプの独身っぽい。すごい。不思議。さすが往年の名女優。

あと、東野英治郎と笠智衆が同級生じゃなくてまさかの師弟関係の役柄っていうのが毎回混乱する。

会場の年齢層がなかなか高めだったこともあり、三宅邦子の登場シーンでちょっと歓声があがってたのもおもしろかったです。
三宅邦子、良い。品があるけど軽やかで、感じの良い奥さん役がよく似合う。

現代からすると男尊女卑って言われるんだろうけど、女性が男性の身の回りのことをささっと世話したり、丁寧な言葉遣いで応対したり、ああいうのってあこがれます。映画で観る分には。
着物や洋服のスタイリングも洒落てるし、小津映画の色調のアクセントにもなってる調度品も素敵だし、時々出てくるちょっとくだけた前衛的な女性もチャーミングだし、なにげない所作のひとつひとつも美しい。
懐古といってももちろん当時を知らないんだけど、ふとした瞬間に自分の祖父母の姿や祖父母の家の思い出が重なってよみがえるから、どうしようもなく懐かしいような気持ちになるのかな。
あと、笠智衆が曾祖父に激似。


そして、奇しくもこの日6月17日は原節子の誕生日。
『秋刀魚の味』での出演はないけど、小津作品といえばの女優さんなので、なんだか縁のようなものを感じました。


時代は違えど、無性に刺さる小津映画。
今年はよりたくさんの作品に触れたいです。

LOVE !!

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