テレビに国際政治学者が登場するとき

 ウクライナで戦争が始まってから、連日国際政治学を専門とする先生たちがテレビに出演している。通常、大学や研究機関に所属する研究者は本業があるので、そう頻繁にテレビに出演するものではない。(自称「国際政治学者」のようにメディア出演を生業にしている人たちは別です。)テレビの生放送のスケジュールは決まっているし、融通がきくものではない。ウクライナの戦争は大学入試の季節に重なってしまったので、大学に勤務している者は自分で勝手に職場を離れることはできない時期だった。そんな多忙ななかでも、何人かの先生方は社会にバランスのとれた正しい情報の理解を促すために、テレビに出演している。
 
 では、なぜ危機の時にはニュース番組に研究者が登場するのか。

 自分が学生だったころ、湾岸戦争(1990−91)のニュースにある先生が出演していたことが休み時間に話題になった。その先生は、大学の研究者がテレビに出演するときは、ニュースがとても重要で特別番組を組んだり、ニュースの時間枠を拡大しなければならない状況で、しかしそれにもかかわらず、突発的な事態でテレビ局に充分な情報が無いときに大学の研究者に声がかかる、と言っていた。テレビ局の記者が現地にいない、現地に入れない、取材する時間が無かった、しかしニュースとして伝えなければならない。かといって、テレビ局内には専門の記者がいない、というような場合ということ。

 記者の現地での取材が可能になり、テレビ局内でも情報が蓄積されていくと、外部の研究者の需要は下がっていく。1989年の東欧の体制移行、ベルリンの壁崩壊からドイツ統一へ向かう時もそうだった。そして今回、ウクライナの戦争。現地は危険で、日本の放送局の記者は入っていない。日頃メディアで活躍するコメンテーターにはウクライナの専門家はいない。しかし事態は深刻で、情報ニーズは高い。そのため、日頃はテレビにでない大学所属の専門家が登場ということになる。

 研究者だからといって、今後起きることの予測ができるわけではない。過去の経緯や政治制度、社会構造などの理解から、状況を説明することを試み、その延長で将来の可能性を示しているに過ぎない、ということは言うまでもありません。

  

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