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経済学ってなに?~経済学部で学ぶこと/経済学と経営学と商学~「経済学で語りたい」#2

夏ですね。暑いですね。
受験生にとっては志望校合格のための勝負の夏。
大学にとっても受験生獲得のためにオープンキャンパス等が行われる勝負の夏です。
自分の所属する大学でも2024年は8月8日にオープンキャンパスが行われ、その中で自分が模擬講義の大命を預かることに…。
そこで今日はそもそも経済学ってどんな学問か、ということを軸に、経済学を学ぶとどんなことに役立つのか、はたまたどんな能力が身に付くのか、よく聞かれるのですが経営学や商学との違いも含めて紹介できればと思います。

おそらく、受験生だけでなく、経済学についてあまり知らない、という方にとっても経済学の理解に繋がると思います。
それではどうぞ。


経済学とはどのような学問か

「経済学とはどのような学問か?」
この問いに対して、皆さまはどのような事を考えるでしょうか?
学部の1年生にも、最初の授業で尋ねるのですが、みんな答えは千差万別です。

それは、学生に限りません。100人の経済学者がいたらおそらくですが、50通りくらいの答えが返ってくると思います。
他大学のオープンキャンパスの動画とかを見て、勉強するのですが、ホントみんなバラバラです。
自分も色々と考えるところはあるのですが、ここは巨人の肩に乗って、自分にとって最も納得感が高かった定義を紹介したいと思います。

その巨人とは、ライオネル・ロビンズ。近代経済学黎明期から過渡期に活躍したイギリスの経済学者です。
彼は著書” Essay on the Nature and Significance of Economic Science”(『経済学の本質と意義』)の中で経済学を以下のように定義づけています。

Economics is the science which studies human behavior as a relationship between ends and scare means which have alternative uses.
(経済学とは諸目的と希少な諸手段の関係をふまえた人間の行動について研究する科学である。)

ここからは私の意訳になりますが、概ねこのようなものだと解釈できるでしょう。

経済学とは「社会や組織や個人の目的」に対し「限りあるモノやヒトやお金(経済資源)や時間」を用いて、「人々はどのように行動してきたか/するのか」研究する科学である。

まずは目的の部分。
企業という組織体にとって利潤は目的の一つと言えそうです。利潤は「お金」で計算できますが、個人の幸せというような「抽象的な概念」も経済学では目的の一つとして取り扱います。
また、失業率やインフレ率といった「マクロ的な指標」はもちろん、健康といった個人の「状態」まで、あらゆるものを目的化しその対象とします。

私たちは、数が限られた経済資源の中でその目的を達成しようとします
お金が十分にたくさんあれば、あまりそのやりくりに苦労することはないでしょう。
ただ現実問題としては、お金は限られていますから、毎晩、ステーキや寿司やフレンチを食べ歩くことはできないのです。ここに、私たちは自分の幸せを最大化しようと、限りある資源でやりくりするという選択をおこなっている事がわかります。
企業に関しても同様ですね。安価に十分に多くの優秀な人材を雇用できるわけでは無いです。自身の持つ資金や技術や資源、他者との賃金差や技術差などを考慮しながら経営方針の選択を行います。

では望ましい選択を行うためには、何が必要でしょうか?

一点目は、「目的」や「限られた経済資源」の現象に関する理論です。
物価を決定づける理論、生産量の増減に関連する理論、GDPや失業率に関する理論…。これらの理論が誤っていたり、条件が足りなかったりすると、妥当性をもって世の中を解釈できず、誤った選択をしてしまいます。

そして、二点目は理論が本当に当てはまるのか検証する必要もあります。
特定の条件下では当てはまる理論も、条件が変わることで当てはまらなかったりすることもあります。どの領域でどの条件であれば当てはまるのか、確認しないといけません。

経済学においては、一点目の理論を作り出すのが理論経済学、二点目のしっかり理論と世の中で起こっていることを検証するのが実証経済学とされています。

理論経済学と実証経済学

理論経済学はその名の通り経済現象に関わる理論を明らかにする経済学の領域です。
物理学で、様々な物理現象が特定の数式よってあらわされるように、経済現象においても同様に数理的なモデルを作って、特定の現象を説明しようとします。
例えば、「ある商品の需要量(欲しいとされる量)は価格が高くなると減る」というのであれば、その理論を数式化するとD=-aP+b(D:需要量、P:価格、aとbは定数)のように表現できます。
あたかも需要Dと価格Pの単純な関係式のようにも見えますが、定数としたaも実は需要の価格弾力性と言われるもので、その性質も理論化されています。
このように価格と需要量の関係を見る際にも、価格弾力性という別の要素が組み合い、また今回は述べていませんが、その背景には所得や他の商品の価格なども絡み合ってくる、などなどという、世の中の経済現象を条件付きではあるものの一般化しようとするのが、理論経済学の営みと言えそうです。

ミクロ経済学やマクロ経済学といった領域は、理論経済学の中の二大領域になります。
ミクロ経済学は基本的に消費者や企業の経済活動の理論、マクロ経済学は経済活動の総体としてのGDPや失業率等の指標の理論について取り扱います。
これらの理論のほとんどは数式によって数理モデルとして整理され、一般化した理論を提供しています。

ただ、理論とは必ずしも数式化されるものではないことも付記しておきます。
例えば、経済学はその主体は個人や社会や組織などがあるのですが、それらの本質や目的等については数式ではなく、ロジック(論理)によって組み立てることもあります。
そもそも社会や社会とはどのように構成されるのか、その本質は何なのか、どのような(抽象的)価値があるのか、こうした問いに対しては数式による理論ではなく、論理により理論を導くこともしばしばあります。
自由主義や社会主義といった経済思想や政策思想といったものは、この側面が大きくかかわってきます。

このように、経済現象を理論にし、世の中の現象を理解することで、間違った選択肢は除外され、各主体はより適した選択をおこなうこともできそうです。
ただ、理論は理論です。それは、あらゆる場面で当てはまるのでしょうか?
それは実際に確かめてみないといけません。それが実証経済学の領域です。

特に実証経済学でも個別領域の話になると、前提となる社会制度などの複雑さもあり、専門性の高い領域になります。
ゆえに個別の領域ごとの目標となる経済指標に対し、影響を与える要因を検討するなどの検討も行います。
つまり「こんな経済現象が確認できたけど、どう理論化できるだろう?」と理論経済学側にアイデアを投げることもあるわけです。

実証経済学の個別領域の例として、自分の専門の話を少しさせてください。
自分の専門とする医療経済学や社会保障論は各種制度等への理解が必要不可欠です。
日本や世界の社会保障の制度的枠組み、歴史的展開、個別制度の仕組みや提供体制、各種法規やその改正、国家や保険者財政の関係、具体的な現場のオペレーションや実態などなどを習得する必要があります。
そのうえで、経済学としてサービスの需要や供給がどのような特殊性を持っていて、さらに制度上の制約があるかを考慮し、目的の指標に対して経済理論を参照しながら、その関連要因について検証を行う。
あるいは、先ほど挙げたように単純に個別指標の関連要因について検証するというようなこともおこなっています。
こうした流れが、ある実証をおこなう経済学者の営みの一例です。

ただ領域は異なれども、実証に使うツールは共通であることはしばしばあります。
統計学を基礎とした、いわゆる計量的手法と呼ばれるものですが、そうした手法を開発するための計量経済学という領域も、経済学においてはとても重要な領域です。

ここまで理論経済学と実証経済学(と計量経済学)のように少々乱暴に経済学を分割しましたが、多くの経済学者はそれぞれの領域において、これらを適切に利用しながら研究にあたっています。
自分は先にも述べたように医療経済学や社会保障論を専門とする実証経済学者(実証屋と言うことも)ですが、もちろん理論や計量に関してもある程度の比重を置いています。
理論経済学の経済学者も同様に、簡単な実証は自分で行ったりします。
このように、個々人が関心のある学術的な分野こそ違っても、それを受け止め臨機応変に選択可能なのも経済学の懐の深さだと思います。

経済学部で身につくこと

  1. では、このように経済学を大学生が学ぶことによって、どのようなことが身につくのでしょうか。
    全員共通して言えるのは、やはり経済学的センス、経済学に基づいた思考というのが身につきます。(まあどの学問領域にも言えそうですけどね。)
    ただ、世の中で起こっている経済現象に対して、理論をベースとした何らかの説明が可能になる、というのは間違いないでしょう。
    また、トレードオフの前提や限界理論などの現状を捉える視点や、方法論としてのゲーム理論なども思考ツールとしても役に立ちそうです。

何か具体的な技術が身につくか、というと全員ではないですが、実証系のゼミですと計量分析のスキルは身につくと思います。
データを整理したり、データから仮説を検証したりするスキルですね。
これは他学部でも学べると思いますが、そうしたことを行っているゼミの割合は経済学部が一番多いと思います。
ただ、これらのスキルが仕事の業務で役立つか、というと必ずしもそうではないと思います。
なぜなら大企業ですとこの手の分析は、専門職としてのアナリストがやってしまっているからですね。
彼らが出す資料の解釈には役立ちそうではありますが。
逆に、中小や多くの行政では眠っているデータが山ほどあります。
そうした場面では、イニシアチブをとれるかもしれません。

経済学とお仕事

次に世の中にある仕事で、どういう職に就きたい人が経済学を学ぶべきか。
これは結構、難しい問いです。

先ほど挙げたような経済学的な思考というのはビジネスだけに関わらず、割と応用がきき汎用性の高いものです。
しかしながら、個別の事例を考えるというより、経済活動をメタ視点で一歩引いて考える学問的な傾向があります。
また、市場のメカニズムの良い点だけではなく、その至らない点(市場の失敗)にも積極的に目を向けます。
そう考えると、個人的には政府セクター、つまりは行政や議員さんと相性はかなり良いと思います。
行政の方にとっては、目の前の業務をただ業務としてこなすだけではなく、その意味や、また管理・計画を行う際にも非常に良い視座を与えてくれる学問でしょう。

余談にはなりますが、そもそも経済学の学問としてのスタートした時点、具体的には経済学の父と呼ばれるアダム・スミス(1723-1790)の時代には「economics」という学問は無く、「political economy」という学問だったのです。
その名の通り、政治や治世を前提として、学問として体系化されていきましたので。
この辺りの歴史的経緯については、また後日記事にできればと思います。

さて、政治や治世の面での有用性については語りましたが、その他の領域での職務に対してあまり役に立たないというわけではありません。
銀行に就職した友人もいい年になったので管理職に就いていたりするのですが、「もっと大学の時に経済学の勉強をしておけばよかった!」と嘆くくらいには、有用な学問だと思います。

経済学と経営学と商学

ここまでは経済学とはどのような学問で、経済学部はどのようなところか、という話をさせていただきました。
ただ、世の受験生は結構迷うはずです。
経済学と経営学と商学の違いってなに?
という、疑問です。

受験の時にややこしいんですよ。
ですが、いくつかのパターンに分けられます。
  ➀経済学部の中に経済学科と並列して経営学科(または商学科)がある
  ➁経済学部と経営学部がある
  ➂経済学部と商学部がある
基本的に経営学部と商学部が併存することはありません(明治・専修のみ)。
何かこの3者に学問的に関係はあるんだろうな、という感じはします。

ここからは経済学者の限られた視点ではありますが、3者の整理をしたいと思います。(理解が誤っていたらごめんなさい…)

経営学はまず基本的に組織体(主に企業)に着目するところからスタートします。
そして、「組織体が特定の目的を達成するための理論や方法論を作り出す」というところが大きな目的となります。組織の戦略はどのように設定するか、組織をどのようにデザインしマネジメントすると生産性が上がるのか、人材をどのように扱うこと(人事・教育等)が望ましいか、といった、組織の内向きの理論や方法論について取り扱います。
経済学と比較すると実践向きな学問(実学)と言えるでしょう。

他方、商学はその名の通り、商売の学問ですので、組織体としても基本的には企業というところが圧倒的に中心になります。
また、経営学が組織の内向きと言われるのに対し、外向き商売の学問ともいわれます。つまり、市場の中で自分たちの商品やサービスをどのように売っていくかといったマーケティングや商品開発、あるいはどのように資金や資産を管理するかといった会計というところが主なテーマとなります。
経営学と同様に実践的な学問だと思います。

ただ、この両者がそこまでスパっと分別されるかというとそういうわけではありません。
経営学も実際の対象としては企業が大半を占めますし、商学と並んで「企業経営に関する実学」という枠組みではまとめることが可能です。
また、どちらかがもう一方を包括するわけではありません
商学部の中に経営学科があったり、経営学部の中に商学科があったりすることもありますから。

では、経済学との関係はどうなのか。
経済学ですが、これはここまでの紹介してきた通り、「世のあらゆる経済現象について理論を作り、それを検証する学問」です。
経営において戦略を立てたり、マーケティングを行う際には、経済の基本的な理論が分かっていないとそれを実施することはできません。
また、仮に教育投資をおこなっている企業の生産性が高いという事実を経済学が見出したとしたときに、その教育を具体的に組織体の中でどのように実施するのかという事は、あまり経済学は立ち入りません。それはむしろ経営学の方法論になるでしょう。
このようにこれら三者は互いに補完する関係にあると言えそうです。

ただ、経営学と商学に関して共通して言えることは、経済学と比べて実践的な学問であるという事です。
一応、経済学でも課題解決のための実証研究や調査は実施しますが、それらの実践となるとやはり経営学と商学に分があるといった感じでしょうか。
なので、起業志向がある人や、企業の中で活躍したいという志望がある人にとっては、双方ともすごく魅力的な学問領域だと思います。

エピローグ

これだけを語ると、なんか経済学を貶めているように感じるかもしれませんが、そんなことはありません。役割分担なのだと思います。
やはり、社会全体に数多くのステークホルダーを整理しながら、その相互の連関を考えたり、目的を達成するための要因を実証するといった、学問的な営みは経済学のロマンあふれる魅力だと思います。

もし、この投稿を読んで、経済学に興味を持ったという受験生(ないしその親御様)が一人でも多くオープンキャンパスに参加して、経済学を志してもらえたら嬉しいですし、また受験に関係ない人でも、経済学への理解が深まったのであれば幸いです。

それでは。

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