8/1 - ハッピーバースデー

・僕のバンド、帰りの会を始めて今日でちょうど1年になる。ひとの誕生日から公的な手続きの締め切りまで、あらゆる日付を覚えるのがほんとうに苦手な僕がしっかりと記憶している数少ない日だ。結成しようと思い立ったときのことを振り返ると、バンドという形式であったり、このメンバーだからこそ作りたい音楽というのはあまりなくて、「バンドをしたい」という気持ちだけが先行していた。帰りの会という名前も決めてしまったうえでみんなに連絡をしたけど特にこだわりはなくて、もし先に誰かが決めてくれていたらなんの意見の衝突もなくそっちを採用していたと思う。今となってはそこそこ気に入っているけど。

・そしてこれもバンドを始めた理由になるのかな、という話がもうひとつある。僕はそのとき音響の専門学校に通っていて、レコーディングのことを勉強していた。音楽が好きだからという理由だけで飛び込んだ世界はもちろん楽しかったし、毎日が新たな知識や発見で溢れていた。ただそれと一緒に、あまり見たくなかったことも増えてくる。そのころから僕はボーカロイドを使った楽曲やギターの演奏動画を投稿していて、まあまあ楽しくやっていた。それらを始めた高校のころから僕はきっと死ぬまで音楽をやり続けるんだろうな、とふわっと思っていた。しかし音響業界というのはそういうわけにいかない(全員がそうだと言っているわけではない。ただ少なくとも、僕はそう感じた)らしく、最初の数年は自分の時間はないと思ったほうがいいだとか、日付を跨がなければホワイト企業だとか、ある会社の新入社員が自殺したことでようやく業界全体の意識が変わってきたとかそういう内容の話が様々なところから聞こえていた。正直覚悟はできていたつもりだったが、学校を卒業したら自分の創作はひとまず終わりなんだろうな、と考える瞬間がふとあった。そして、それだけは絶対に嫌だと思った。そこからは特に先のことも考えずスタジオ系の求人への応募を一切やめ、大した情熱はないがそのかわり余計な拘束時間もない仕事をすることにした(さすがにおもんなすぎて数ヶ月前にやめた)。そしてバンドのことを考え始め、それまでの僕にはおよそ考えられないようなペースでたくさん曲を作り続けて、今に至る。結果として学んだことを活かせる進路にはならなかったので後悔が一切ないわけではないけど、想くんをはじめとした素敵な人たちに出会うことができた2年間だったので、今振り返って無駄だったなあと思う瞬間はほんの1秒だってない。なにより好きな分野の勉強であったことは間違いないし、今の僕の活動に繋げることができている。と、思いたい。

・そして1年が経った。僕らはけっこう仲がよくて、そのせいなのかは分からないけどこういう場で腕を組みながら語れるような紆余曲折だとか、わかりやすい起伏だとかを経験してきていない。バンドってこんなもんでいいのかなと不安になってしまうくらい、激しい議論や真剣な会話をした記憶もない。多少不安もあるけど、お金稼ぎでやっているわけじゃないんだから、楽しくないことなんて全力で避けていったってなにも悪いことなんかないはず。僕らは僕らで楽しいことをやるから、みんなにも特別に見せてあげる。というのが帰りの会をやっていくうえでの僕の基本的な考え方だ。喧嘩して解散、みたいなのはまずないと思うからそこは安心してほしい。

・『19歳』のアコースティックアレンジ版も公開された。

いつも通り音と、映像も担当した。素材集めのために過去の動画を漁っているとなんだか”気持ち”になってきて、キラッキラしていらっしゃる方々が卒業式とかで号泣する気持ちも分からなくないな、となった。ここ最近、何かにつけて僕の心の表面の触ると怪我をしそうな部分が少しずつ面取りされていくのを感じる。集合写真の最前段で寝転んでいるやつに対する僕の敵意が尽きたらきっと帰りの会は終わりなんだと思う。映っている映像はほとんど千葉くんが撮影してくれたもの。仮完成の映像を一回見せたとき僕より全然泣きそうになっててそれが一番面白かった。音については、レコーディングからマスタリングまですべて僕がやった初めての音源になった。デビュー戦がカホンかい。

・帰りの会の4人、それからいつも関わってくれているみんな。正直な話をすると、このメンバーじゃなかったらここまで来れなかった、だなんてただの一度も思ったことがないし、きっとこれからもない。もっと楽器が上手い人も、もっと歌が上手い人も、もっと撮影が上手い人も、もっとレコーディングが上手い人も掃いて捨てるほどいる。ただ、少なくとも僕はみんなとじゃないと帰りの会をやりたくない。一緒にいる理由はないけど、必要はある。1年前よりずっと前から出会ってくれていてよかったなあ、と改めて思う。

・そして、いつも帰りの会の音楽に触れてくれているみんな。1年前の想定をはるかに超える量のオーディエンスが周りにいて毎日わりと新鮮な気持ちでびっくりしている。「今僕たちがここにいるのはみんなのおかげです」という便利なフレーズがあるけど、帰りの会くらいの規模感で活動していると実感としてそれが伝わってくる瞬間が何度もある。ほんとうに、一切の誇張なく、帰りの会が今日まで続いているのはみんなのおかげです。そしてきっとこれからもそう。明日からもみんなの毎日の端っこのほうにちょっとずつ、僕らの音楽を置いてもらえますように。

・そんなみんな以上に帰りの会が好きなのは僕だ。世界で一番今後の活動を楽しみにしているのも。僕が好きな帰りの会のことはどうせみんなも好きなんだから、新しい曲を聴いてもらえるかどうかの心配なんてとっくの前からしていない。気長に待つべし。それじゃ、音楽とのにらめっこに戻ります。つづく

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