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【コラム】 なぜ過去のことなのに現在形で言える? 「歴史的現在」のナゾを解く

英語では、過去の話をしているときに、平気で現在形をつかう。

It was late last Friday night.   My stomach growls.  (先週金曜日の夜遅くのことだった。お腹が鳴るではないか)

先週の金曜日の話だったはずなのに、現在形に早変わりしている(growl は「ゴロゴロ音がする」という擬音語)。

文どうし、時制は一致させたほうが一貫性があるとか、過去のことは過去形で、という発想からみると奇妙にもみえる。

だがじっさいには、臨場感をもって語るとき、このように現在形にすることはよくある。BBCのニュースを聞いていると、"The prime minister resigns."(首相、辞任です)などと、すでに起こったことをしょっちゅう現在形で言っている。

この現象を伝統文法では「歴史的現在 the historic present」とか「劇的現在 the dramatic present」と呼ぶ。

「歴史的現在」が成り立つ理由は、次のとおりである。

第一の理由は、言葉のなかの「話し手」は、実物の人間ではなく「話し手」という概念にすぎないので、時空を超えて自由に移動できるからである。

生身の人間は時空の物理的限界のなかに生きているから瞬間移動ができないが、「話し手」という概念は頭の中だけの存在なので、瞬時に、どこへでも移動できる。これが、われわれが将来の旅行の予定を立てたり、過去を思い出したり、ありえない空想をしたりできる理由である。

言葉の世界では、「話し手」という概念が話している。これは英語に限らずどの言語でも同じである。

第二の理由は、英語の時制は、もっぱら上記の「話し手」という概念、つまり ”I” がいる時点を基準にして表現するからである。

英語の世界の話し手 ”I” がいる時点からみて、それより前なら過去、同時なら現在、それより後なら未来である。

この例文の場合、It was late last Friday night.  と言ったときは、英語の世界の話し手 ”I” がいる時点(それは現実の話し手がいる時点と一致している)よりも前のこととして、「過去」のかたちで言っている。だが「過去」で言った瞬間に、話し手 ”I” は「先週金曜日の夜遅く」に移動して、「自分のお腹が鳴る My stomach growls.」様子を目の前に見ているので、「現在」のかたちで語っている。

こういう風に、英語の話し手 ”I” を起点にして、時空を超えて語ること。それが英語を身につけるということである。

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