あつい日

冷房のおと。まとわりつく熱気を振り払って。
日焼け止めのにおいが好きだ。小さいときは自分から率先して塗ることはなかったので、海とか、プールとかに遊びに行くときにお母さんに塗ってもらっていた。だからそういう記憶とばかり強く結びついているのかもしれない。
虫取り網をギラギラ光る川面にかざしてオニヤンマを待っている。周回してまたやってくると、すかさず網を振る。するりとかわされてしまうが、もう5分も待っていると律儀にまたやってくるのが面白い。
竹藪の中に鳴り響くクマゼミの鳴き声。道路公団の隅、木の下にあいた小さい穴を探している。親指が入るくらいの大きさの穴はもうセミの幼虫が外に出てしまった穴で、アリの巣くらいの大きさの穴が、今晩羽化する幼虫のまだいる穴。図鑑にはそう書いてあったけど、なかなか見つからず、じっと地面を見続けているうちにジリジリと首の後ろが焼けていく。
坂道を歩く。目の前に大きな山がずっと見えていて、その稜線を目で追ったりしてぼーっとしながら奥の公園を目指す。
従兄弟の車で連れて行ってもらうジャスコが好きだ。日中はずっと外にいるから、冷房の効いたフロアがやけに心地よく感じる。花火を買ったり、みんなで遊ぶ用のおもちゃを買ってもらったりした。
自転車に乗って中央図書館を目指す。一日中読書スペースに篭って勉強しようと思っていたのに、肝心の筆箱を忘れていたことに気づいて、汗まみれになりながら取りに帰って。図書館のすみで、「タイムマシンの作り方」なる本を見かけた。そんなオカルト本で何をこんな数百ページも書くことがあるんだと思って読み始めるとそれは特殊相対性理論の話、光速度不変の原理を説明した後で、三平方の定理だけを使って移動する速度が時間の進み方に影響を与える話がされていて、つい夢中になって読み込んでしまった。
夕暮れのじめじめとした暑さの中歩く堀切の小道。ちらほらと銭湯があって、ここで入ったら気持ちいいんだろうなとか思いながらも、お金がないから立て付けの悪い家の風呂に入る。同居しているニコラスが網戸もしないで窓を全部開けて涼んでいる、こいつは、、 みると、縁側には真っ黒い渦巻状の焦げ跡がある。蚊取り線香の使い方がわからなくて、地面にそのまま置いて燃やしたらしい。なんというやつだ
東京に早く戻りたい、寮生活が本当にしんどいという後輩が夏に帰ってきた。とりあえず、何を話すでもなく、駅前のスーパーで花火を買って、近くの河川敷に持っていって、パチパチと燃やした。ときおり、橋を越えていく電車の音が聞こえる。

コンテクストなんて軽々と越えていけたらいいのにね私たち。

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