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獣害対策ハンターリアル体験ワークショップ



イベント開催の目的

館山市内に限らず全国的に行われている獣害対策。
昨今では東北地方のツキノワグマや北海道にヒグマによる人的被害が連日のようにニュースになってますね。

幸いにも私たちが獣害対策を行っている千葉県は、全国的に見ても珍しい「熊が生息していない県」ですが、猪や鹿、また度々話題となっている特定外来生物であるキョンなどによる農業被害は甚大で、日々、有害鳥獣捕獲従事者によって捕獲による駆除が行われています。

私たち地域おこし協力隊も日々様々な獣害対策を行っていますので、有害鳥獣捕獲は大変な労力が必要で、かつ危険が伴う作業であることを重々理解していますが、獣害に縁のない地域の方々にはなかなか実情が理解されにくい現状があります。

また高齢化による捕獲従事者の減少も将来的な問題となっており、有害鳥獣の増加に伴う被害甚大化が問題となる中、捕獲従事者の拡充が大きな課題となってきています。

こうした状況を踏まえ、私たちは「いわゆる狩猟イベントとは違う、本当の獣害対策」を広く知ってもらうべく、今回のイベントを企画しました。

一般的な狩猟イベントとの違い

今回のイベントが一般的な狩猟イベントと大きく違う点のひとつが「参加者自身が猪を捕獲する」体験が出来るようプログラムを構成している点です。

もちろん、狩猟免許及び有害鳥獣捕獲許可証を持たない参加者が猪を捕獲するための「罠設置」「止め刺し」といった免状や許可証が必要な作業を行うことは出来ません。

ですが、私たち捕獲従事者にとって、「罠設置」や「止め刺し」は捕獲するための最重要項目でありません。最も大切なのは、地域の被害状況を理解しながら獣道を見つけることが出来る「見切り」です。そして罠を設置するための環境判断、安全性の考慮がそれに続きます。

今回のイベントでは、この最重要項目を参加者自身に行ってもらい、最終的なくくり罠設置や止め刺しは地元捕獲従事者が行う仕組みとました。

イベントスケジュール

イベントは以下の日程で開催しました。
①2024年4月13日
【座学】
・作名地区のなりたち 
 まずは地域の特性や地形等を理解して頂きました
・作名地区有害獣対策会とは
 作名地区で獣害に取り組む方々の紹介
・くくり罠の説明(仕組み、バーツの役割)
 パーツ構成、各部品の用途、法定猟具の説明を行いました
・くくり罠作成
 2ヵ月間使用するくくり罠を作成して頂きました
・くくり罠設置レクチャー
  現場に入る前に設置方法のレクチャーを行いました
【実地】
・獣道見切り、くくり罠設置
 現場では簡単な環境の説明に留め、獣道探索など全て参加者に行って頂きました。各参加者が決めた設置場所は地元従事者が最終的な安全確認を行った上でくくり罠を設置しました。※罠の最終設置者は地元捕獲従事者

まずは座学から。作名地区を理解してもらうため、作名地区のなりたちから説明しました
これらか2か月間使用するくくり罠を各自で作ってもらいました
完成したくくり罠に問題がないか、必ず動作確認
くくり罠完成後はいよいよ実地。まずは現場で簡単な状況説明をします
設置場所は各参加者が決定。場所に問題がなければくくり罠を設置 ※最終設置は地元捕獲従事者
夜は地元捕獲従事者と懇親会

②2024年4月14日

【実地】設置したくくり罠の見回り
設置翌日のため捕獲の可能性はほぼありませんでしたが、今後の2か月間のスタート前ということで、翌朝に各自の罠の状況を確認して頂きました。

1日目に設置した場所を見回る様子

③2024年4月15日~2024年6月16日

①②の日程終了後は、各参加者が設置した罠を実際に使用して猪を捕獲する期間としました。この期間はトレイルカメラとIoTセンサーの情報を参加者と共有することで、実際に現地で作業を行っている地元捕獲従事者と同様の感覚を共有して頂きました。

・トレイルカメラを活用した設置場所情報の共有
 各参加者が設置した場所+αにトレイルカメラを設置し、Youtubeにて情報を共有しました。動画を確認してもらうことで次回見回り時に各参加者がするべきことを検討してもらいました。

・罠センサーを活用した捕獲情報の共有
設置した全くくり罠にIoTセンサーを設置。地元捕獲従事者、参加者、地域おこし協力隊がリアルタイムに情報を共有することで、猪が掛かった時に迅速に対応できる体制としました。


2か月間の歩み

まず地元捕獲従事者の箱罠に猪!

今回のイベントは、獣害対策ハンターをリアルに体験してもらうことが目的なので、当然、地元捕獲従事者の箱罠に猪が掛かった場合も参加者へその旨が案内されます。
捕獲した猪は神余やまくじらで解体し、猪肉は参加者の皆さんにお持ち帰り頂きました。

イベント最初の捕獲は地元従事者が設置した箱罠でした。
箱罠の捕獲した際の止め刺し方法等を説明


捕獲後は神余やまくじらで解体作業

なかなか罠に近づかない猪

猪が人里近く出没する理由のひとつとして「人が山に入らなくなった」ことが挙げられます。
作名地区でも山の中に人がほとんど入らない時期が長く続いており、猪は我が物顔で縦横無尽に闊歩していましたが、今回イベントで大勢が山に入ってきたため、くくり罠設置当初は猪の警戒レベルがMAXになってしまいました。

何かに驚いて逃げるイノシシ

獣害対策としては良い効果ですが、猪を捕獲するという点においてはイベントで複数人が山に入るのは多少検討の余地がある結果となりました。

定期的な見回りや罠の場所移動を続け、ついに1頭目捕獲

そんな猪の警戒感も徐々に弱まり、4月下旬頃からトレイルカメラには映るようになったものの、警戒感を強めてしまった影響でルートが微妙に変わってしまったり、くくり罠をほり返されてしまったりしながら、捕獲に至らないまま1ヶ月半ほど経過。

私たち捕獲従事者であっても、新規の場所で設置から捕獲に至るのは1ヶ月から2ヶ月程度の期間は見込むので、現状で捕獲に至らないのはそれほど問題はないのですが、2ヶ月のリミットが少しづつ近づいてくると共に、徐々に焦りが出てきます。

そんな中ある参加者が移動した罠のセンサーがついに発報しました。発報は2024年5月27日23:38、深夜です。

翌朝は生憎の大雨。早朝に地元捕獲従事者と私たちが現地に到着し、掛かっている猪を確認したところ右前足副蹄下に浅掛かり。また折からの降雨で足元が非常に悪いこともあり、今回は参加者の方々をお呼びするのは断念しました。

右前足に浅掛かりしているくくり罠

地元捕獲従事者と私たちによる捕獲作業自体も危険だったため、、銃による止め刺しを依頼、無事捕獲完了となりました。捕獲した猪はオスで50キロほどの個体でした。

捕獲後の撮影及び尻尾切断を行う地元捕獲従事者

作業終了後にワイヤーの状態を確認。ワイヤーはだいぶ綻んでおり、判断が間違っていなかったと改めて思わせる状態でした。

綻んだくくり部のワイヤー。この状態だと本来の強度が出ない

そして2頭目の猪を捕獲

1頭目捕獲の興奮冷めやらぬ5月30日、別の参加者の罠に猪が掛かりました。
こちらはIoTセンサーの設置が適切に出来ていなかったのかセンサーは反応せずに地元捕獲従事者による見回り時に掛かっているのを発見しました。

くくり位置は右前足の副蹄上。ワイヤーの破損も見られなかったため、鼻保定を行い、ナイフによる止め刺しを実施。未経産のメス、70キロほどの個体でした。この後、解体時に胎児が確認出来ており、獣害対策においては良いケースの捕獲となりました。

篠竹にワイヤーが絡まり動きが制限されていたため、安全な捕獲が行えました。
右前足の副蹄上に掛かったくくりワイヤー

電気止め刺し機を利用した捕獲作業見学

2024年6月7日、神余地区の捕獲従事者より「電気止め刺し機を使用した捕獲作業を見学しませんか?」という連絡を頂き、4名の参加者が現場で作業を見学しました。

神余地区の捕獲従事者による捕獲作業の事前説明

当日は7時に現地集合、さっそく現場で捕獲作業の事前説明をして頂きました。
早朝に作業が行われる理由は、捕獲従事者さんは専業が別にある方がほとんどで、有害鳥獣駆除は「朝飯前」では無く「出勤前」に行われることが多いためです。

電気止め刺し機を使用した捕獲作業

電気止め刺し機による捕獲作業ですが、最終的な止め刺しはナイフによって行われます。この日の作業は30分ほどで完了となりました。

最終日前日にセンサー発報

電気止め刺し機による捕獲作業見学が終了し、イベント終了まで後1週間となった6月8日・9日。参加者による最終的な罠移動及び見回りを行いました。これが最後の調整となるため、あとはイベント終了まで発報を待つだけとなります。

無情にもセンサーは鳴らないまま時は流れ、もう鳴らないかなと思っていた最終日前日。ついにセンサーが発報しました。

2024年6月15日19:20発報

最終ということで地元従事者による事前確認はせず、翌日に出来るだけ多くの参加者で現地確認及び捕獲に向かうこととしました。センサーが発報したとはいえ、空弾きや別の動物である可能性もあるため、現場に行くまでは不安がありましたが、立派なオス猪でした。

60キロほどの大きなオス猪

安全な位置からくくり位置とワイヤーの状態を確認したところ、くくり位置は左前足の副蹄上、ワイヤーも問題無かったため、鼻保定とチョン掛けを使用して全員で捕獲作業を行うこととしました。

チョン掛けを先に掛けて猪の動きを制限します

無事止め刺しも完了し、みんなで協力して搬出作業にかかります。

人と比較しても大きい猪
凄い牙でした
まさに有終の美でした!おめでとうございます

里まで猪をおろした後は、捕獲作業をした全員で記念撮影。
2ヶ月という短期間で3頭捕獲、十分過ぎる実績が出たと思います。

イベントを終えて

館山市内で行っている本当の獣害対策を知ってもらいたい!!そんな思いから取り組んだイベントでした。
企画した当初は作名地区の捕獲従事者さんと諸々の段取りを調整したり、イベントにどんな内容を盛り込んだらいいか悩んだりと、なかなかどうして大変でした。実際、募集を初めてからは「ほんとに来てくれるかな」とか「こんな内容で大丈夫なんだろうか・・」と不安だらけでした。

ところが、いざ蓋を開けてみればあれだけ不安だったことはどこへやら。地元の方と参加者はどんどん仲良くなってくれ、神余の捕獲従事者の方が捕獲作業を見学するかと声を掛けてくれ、たったの2ヶ月という短い開催期間にもかかわらず、50キロ以上の猪が3頭も獲れ・・・。そして皆さんがいつも笑顔で。本当にとても良いイベントになったと思います。

最後になりますが、今回のイベントの中で一番のサプライズは獣害対策とは全く関係のない交流が地元と参加者の間で自然と生まれていたことでした。

種まき作業に参加している参加者

作名地区の皆様、協力を頂いた捕獲従事者の皆様、参加者の皆様、関係者の皆様、本当にどうもありがとうございました。

今後もこうした活動を続けていけたらと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。

館山市地域おこし協力隊 松坂義之

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