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確固たる曖昧さ 『CALL ME BY YOUR NAME 君の名前で僕を呼んで』

曖昧さこそが欲望を駆り立てる。いくつもの部分が曖昧に描かれることによって作品全体が官能性に満ち、驚くほど静かな美しさで、私たちを魅了する。

君の名前で僕を呼んで、とオリヴァーが言うとき、〈君〉と〈僕〉との境界は曖昧にぼやける。イタリア語、フランス語、英語も曖昧に発話され、主人公エリオの性愛も決してオリヴァー/男性だけに限定されない。青春は、曖昧であるが故に、美しく、曖昧であるが故に残酷なのかもしれない。はっきりとしたものを前にして、青春はあまりにも脆く、崩れやすい。最期に「エリオ」とはっきり自らの名を呼ばれた主人公の青春は映画の終焉、涙とともに終わってゆく。

作中ヘラクレイトスの言葉が引用される。川の流れ、それは刻々と変わっていく。しかし、全体は何一つ変わらず、流れつづける。本作の部分部分は、どこまでも曖昧に変化するものとして描かれる。しかし、その全体は、曖昧で変化に富むという点において一貫した確固たる流れの総体としてある。だからこそ、この映画は、〈美〉と相反するようにして、どこまでも曖昧に描かれながら、同時に、〈美〉を象徴し、喚起する、どこまでも確固とした印象を与えることによって、私たちの前に、静かに、美しく、佇むのだ。

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