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科学者の分子スタンプ収集演習はCOVID-19パンデミックの結末に対する誤った希望を抱かせている

Dr. Geert Vanden Bossche 2024年1月9日投稿(substack) (VOICES FOR SCIENCE AND SOLIDARITY
Scientists raise false hope for countering the ongoing emergence of SARS-CoV-2 variants (substack)
Scientists’ molecular stamp collection raises false hopes on outcome of C-19 pandemic 
(VOICES FOR SCIENCE AND SOLIDARITY
の翻訳です。原文を参照の上ご利用ください。

Image by macrovector on Freepik

科学者の分子スタンプ収集演習から引き出された結論は、COVID-19パンデミックが終息するということに対してはもちろん、継続して出現するSARS-CoV-2変異株のへの対応に対しても誤った期待を抱かせるものである。

COVID-19パンデミックの結果に関心を持ち、免疫学を理解するすべての科学者は、以下の論文を読むべきである: 『オミクロンへの反復暴露が祖先型のSARS-CoV-2による免疫刷り込み(インプリンティング)を上書きする(Repeated Omicron exposures override ancestral SARS-CoV-2 immune imprinting )』

現在進行中のSARS-CoV-2変異株の出現に対抗するための最適なアプローチは「火には火を」である、という著者らの結論は、根本的に間違っている。彼らが研究を通じて得たデータについての彼らの解釈は、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団における、ウイルス進化のダイナミクスのペースに追いつくことができるという誤った期待を抱かせるものである。

著者らは、オミクロン変異株に繰り返し曝露されると、前回のワクチン・ブレイクスルー感染を引き起こしたオミクロン変異株によってプライミングされ、そのオミクロン変異株を標的とするスパイク変異株に特異的なB細胞がブーストされることを見事に示した。彼らは、このワクチン・ブレイクスルー感染のブーストの結果生じる中和抗体応答が、複数の異なる受容体結合ドメイン関連中和ドメインに対して強固な中和能力を示すことを説得力を持って示した。こうして、彼らは、免疫刷り込み(抗原原罪)が、オミクロンによるワクチン・ブレークスルー感染や更新型COVID-19mRNAワクチン追加接種を繰り返すことによって、実際に上書きできることを実証した。

しかし、だからといって、ブースターイベント(すなわち、新しいワクチン・ブレークスルー感染や更新型mRNAワクチンの追加接種)の繰り返しによって引き起こされる免疫応答によって、パンデミックの終息はもとより、新たな変異株の出現と優勢な拡大への対処ができると結論づけられるものではない!

それにしても、これらの科学者が「立体免疫再集中(steric immune refocusing)」として知られる重要な免疫学的現象をまったく無視していることには驚かされる。立体的免疫再集中は、野生型(野生型とは祖先型系統を指す)ワクチン接種後に起こったワクチン・ブレークスルー感染によって高力価となった変異株スパイク特異的抗体が、異なる変異株のスパイクタンパク質に結合するときに起こる。すでに説明してきたように、立体的免疫再集中で増加する抗体は、より保存された交差反応性エピトープに向かう。この抗体は高力価の時には、野生型ワクチン特異的な受容体結合ドメイン関連エピトープに特異的に結合するだけでなく、流行中のウイルス変異株粒子の表面に発現している受容体結合ドメイン結合部位の反復配列に、スパイク変異株非特異的に高アビディティで結合する [和訳]。

高濃度に存在するときには、これらの抗体は抗原的に極めて遠い変異スパイクタンパク質であっても、その標的結合部位を完全に占めることができるため、広範な新規変異株に対して一時的な/短期間の「偽」中和力を示す。しかし、抗体濃度が低下すると、この多価相互作用はウイルスの感染性の持続的な緩和をもたらすことになる [和訳]。ウイルス感染性の長期間の緩和は、ウイルスの感染性に対する格好の不十分な感染圧力となる。そのため高度にCOVID-19ワクチン接種された集団は、ウイルス感染性に対して、相当な免疫圧力をおよぼすことになるのだ。変異スパイク特異抗体がブーストされたことによる、それまでに流行していた変異株に対する強固な中和力と、ウイルス感染性に対する免疫選択圧力が相まって、過去6ヶ月に渡って観察されているように、より感染性が高く、しかも、抗原的により遠い、新たな免疫逃避変異株の出現と優勢な拡大が促進されている。つまり、ブースト効果による高度に特異的で効果的な中和力は、新規に出現する変異株に対してではなく、感染を起こした変異株に対するものなのだ。これらの変異株は立体的免疫再集中によって免疫選択が間接的に促進され、出現する。立体的免疫再集中は、ワクチン・ブレークスルー感染や、mRNAワクチン追加接種によって呼び戻される、野生型ワクチンで誘導された抗体を必然的に伴うものである。

オミクロンにワクチン・ブレークスルー感染を繰り返したり、更新型mRNAワクチンの接種を繰り返すと、野生型ワクチンによる免疫刷り込みの上書きだけでなく、立体的免疫再集中が引き起こされる。したがって、オミクロン“2回”感染や、更新型mRNAワクチン“2回”追加接種などということは、祝福どころか、災いなのである!この論文の著者らが、科学界の大多数と一緒になって、これまで、オミクロン対応型ワクチンを受けていない人やオミクロン変異株に感染したことがない人に対して、オミクロン対応型ワクチンのさらなる追加(すなわち2回)接種を推奨していることには落胆する。

しかし、COVID-19ワクチン接種者とワクチン未接種者が繰り返し曝露された際の宿主免疫反応を研究するために、これだけの時間と資金を投入したにもかかわらず、著者らがこのような誤った結論を導き出すのはなぜなのだろうか?

その主な理由は、得られたデータのいくつかについて、著者らが正しい説明をしていないことにあるだろう。例えば、なぜ、ワクチン接種後に新しいオミクロン変異株に一度曝露した場合には野生型ワクチン接種で誘導された交差反応性メモリーB細胞が呼び戻され、2回の曝露の場合には、オミクロン変異株による最初のワクチン・ブレークスルー感染で誘導された交差反応性メモリーB細胞が呼び戻されるのかが説明されていない。これらのいわゆる「オミクロン特異的」メモリーB細胞が、広範な交差反応性抗体を産生することは、Fig, 2c,dおよびExtended Data Fig. 3a-cに示されている。

オミクロンに繰り返し感染した後、オミクロン特異的抗体が増加し、それに伴って免疫逃避性の非常に高い変異株(例えば、CH.1.1、BQ.1.1、XBB、FL.8 [XBB.1.9.1.8]、XBB.1.5、XBB.1.16およびXBB.1.5 + F456L変異株)に対するNT50値が上昇したことから(Fig, 2c,dおよびExtended Data Fig. 3a-c参照)、著者らは次のように結論づけている:

「これらの結果は、対象者集団の血漿中のNT50値と高度に相関があることから、オミクロン特異的抗体が、オミクロン感染を繰り返した後の抗体の幅と中和能の向上に大きく寄与していることを示唆する。」

言い換えれば、著者らは、曝露を繰り返した後にこれらのオミクロン特異的抗体(例えば、BA.1/BA.2特異的抗体)が成熟して親和性を増したことも、非常に免疫逃避性の高い、すなわち抗原的に遠いオミクロン変異株に対する能力の向上の原因であるとしたのである。その一方で、非常に免疫逃避性の高い変異株に対する広範な中和力が、最初のワクチン・ブレークスルー感染後にすでに観察された理由を説明できていないFig.2d)。彼らの想定は、免疫学では周知の、体細胞超変異と親和性成熟は、非常に特異性の高い抗体の親和性を高めるという考え方とも矛盾する。したがって、高度に抗原特異的な抗体がこのような広範な交差中和活性を示すと考えること自体、まったく理解し難いのである。同様に、野生型ワクチンで誘導されたモノクローナル抗体とは異なる抗原結合ドメインエピトープを標的とするオミクロン特異的中和抗体の多様性が増していることが、他のオミクロン変異株に対する広範な中和力に大きく寄与しているという結論にも同意できない。第一に、ワクチン・ブレークスルー感染後(つまり立体的免疫再集中後!)に誘導されたオミクロン特異的モノクローナル抗体を、ワクチン・ブレークスルー感染前に野生型ウイルスへの感染で誘導されたモノクローナル抗体と比較することは、科学的根拠がない。第二に、受容体結合ドメイン関連エピトープを中和するモノクローナル抗体のスペクトルが広範になったのは、C-19ワクチン接種者が曝露した、より感染性の高い(!)オミクロン変異体のACE2結合親和性が高まった結果であろう。第三に、1回目のワクチン・ブレークスルー感染後、2回目のワクチン・ブレークスルー感染後のどちらの場合も、ワクチン・ブレークスルー感染を引き起こした系統から抗原的に離れたウイルス変異株に対する抗体価は低かった(Fig.1a,b,2およびExtended Data: Fig.3を参照)。このことから、先に説明したように、感染抑制効果は偽中和によるものであることが明らかである和訳]。

著者らは、ELISAを用いて、2回目のワクチン・ブレークスルー感染で呼戻された抗体のオミクロン変異株に対する特異性が増したことを示した。しかし、広範性中和抗体が変異株特異的な受容体結合ドメインのエピトープと反応するかどうかを確認するためのELISAは行っていない。先に説明したように、多価抗原-抗体相互作用に依存する交差反応性偽中和のメカニズムは ELISAでは検出できない和訳]。

さらに著者らは、オミクロン複数回感染者から得られた受容体結合ドメインに対するモノクローナル抗体のエピトープ解析をdeep mutational scanning法で行い、オミクロン複数回感染によって免疫刷り込みが成立したと結論づけた。しかし、Fig. 2は、過去に異なるウイルス変異株(すなわち、BA.1またはBA.2)に曝露された者では反復曝露またはワクチン接種によってNT50の強いブースト効果が観察され、同時に、同様に強いNT50ブースト効果が、抗原的に非常に離れた他のウイルス変異株に対しても観察されている。このようなことが起こる理由について著者らは検討していない。

もし著者らがこれらの広範な交差中和抗体の持続性を調べていたならば、その中和力は短期的であることが見いだされただろう。それによって、非常に免疫逃避性の高い、新しい変異株に対するこれらの抗体の広範な中和力は、変異スパイク特異的抗体と1価の受容体結合ドメインとの相互作用に起因するものではないことが理解されただろう。

このような観察結果や矛盾にもかかわらず、オミクロン変異株への繰り返し曝露や更新型ワクチンの追加接種が立体的免疫再集中の引き金になることを、科学者達はいまだに理解していない。

免疫刷り込みの緩和だけでなく、立体的免疫再集中も関与していることを理解することが極めて重要である。

著者らは、立体的免疫再集中を見落としているために、ワクチン・ブレークスルー感染で呼び戻された、これまでにワクチンで誘導された交差反応性記憶B細胞は、新たな、より感染性の高い、抗原的に非常に遠い変異株に対しては、不十分な免疫選択圧力を強めるが、以前に流行した変異株(つまり、最初のワクチン・ブレークスルー感染後)や現在流行している変異株(つまり、2回目のワクチン・ブレークスルー感染後)に対してはそうではなかった理由を理解することができない。ワクチン・ブレークスルー感染直後には特定の変異株特異的なNT50値が上昇し、同じ血清において同時に、抗原的により遠い変異株に対する偽中和力も上昇する。2回目のワクチン・ブレークスルー感染後には、前回、偽中和された祖先系統からさらに抗原的に遠い新たな変異株にも、この交差反応性中和効果が適応される

なぜ著者らは、ワクチン未接種者のデータから得られた教訓について議論しなかったのだろうか?

Fig. 2aおよび2b(それぞれ最も右のパネル)に示されたように、自然感染(すなわち、祖先型D614G系統)では、強固な免疫刷り込み効果は現れない。つまり、ワクチン未接種者が新しいオミクロン変異株に再曝露した場合の、これらの変異株に対するNT50値は祖先系統と比較して有意に著しく高かった。ワクチン接種によって誘導される免疫刷り込みによって、新たに出現する変異株に対する宿主免疫系の中和抗体産生能力が著しく損なわれるため、免疫逃避パンデミック中のワクチン接種は極めて問題であるということを著者らが強調しなかったのは驚くべきことである。著者らが関心をもったのは、ワクチン接種によって、新規変異株に対する中和抗体産生能力が既に損なわれた接種者における、ブーストの繰り返しの効果だけであった!

曝露を繰り返すことで、保存された抗原部位に対する交差反応性記憶B細胞の呼び戻しが亢進すると、免疫病理を引き起こす可能性さえある。

著者らは、オミクロン感染によって、以前の(野生型)ワクチン接種やワクチン・ブレークスルー感染によって誘導された、保存された抗原部位に対する交差反応性記憶B細胞が呼び戻されることを示した。より保存された抗原部位は自己抗原と類似する可能性があるため、このような、より保存された部位に対する抗体は、成熟するとIgG4クラスになると考えてよいだろう。IgG4は機能的に1価であるため、そのような自己類似エピトープからなる抗原に対して抗炎症作用を示すだけでなく、健康な、あるいは、病的に変化した細胞表面に発現する1価の「自己」あるいは「変化した自己」抗原と、それぞれ、反応する可能性がある。これが、高度にCOVID-19ワクチンを接種した国で、自己免疫疾患やがんの発生率が上昇している一因である可能性が高い [和訳]

mRNAワクチンは不活化ワクチンよりも免疫原性が高いため、より顕著な免疫刷り込み効果を示すというのは正しいだろうか?

著者らは、mRNAワクチンは不活化ワクチンと比べて、おそらくその強い免疫原性によって、ワクチンによる免疫刷り込みを起こしやすいと強調している。しかし、mRNAワクチンによる免疫刷り込みが強いものであるならば、更新型mRNAワクチンによる追加接種によって、それまでに確立された祖先型(mRNA)ワクチンによる免疫刷り込みが打ち消されないことを説明するのは難しい。したがって、mRNAワクチンによる強い免疫刷り込みの原因は立体的免疫再集中にある可能性が高い。なぜなら、mRNAワクチンの追加接種は立体的免疫再集中を引き起こし、その結果、立体的免疫再集中を介して以前に誘導された抗体を呼び戻すからである。

科学者は木を見て森を見ずである。適応的なウイルスと免疫の反応を詳細に分析しても、なぜオミクロンへの曝露の繰り返しが「逃れられないウイルス免疫の逃避」につながるのかはわからないのだ。

「更新型ワクチンは野生型(すなわち祖先系)ワクチン接種による免疫刷り込みに対抗することができ、最新の変異株に対する強力な免疫応答をもたらすことができる」という著者らの結論は適切であるが、新たに出現する変異株がもたらす喫緊の問題に対処するには不十分である。新たに出現する変異株の優勢化は、流行している最新の変異株に対する効果的な中和と、新しいオミクロンの子孫の自然選択によって促進される。この自然選択は、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団において、更新型COVID-19ワクチンの追加接種後や新たな変異株特異的なワクチン接種後に必然的に生じる集団レベルの不十分な免疫圧力からもたらされる直接的な結果である。感染力に対する免疫圧力の上昇により、ウイルスは、壁を乗り越え、高い病原性を得ざるをえなくなる。その結果、ウイルスは宿主内で強力に増殖・拡散する能力を獲得し、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団に広く存在する免疫圧力に打ち勝つことになる。このプロセスによって、最終的に、ウイルスと宿主の免疫システムとの間の自然な均衡が取り戻されることになる。

結論

免疫刷り込みの緩和によって、それまでに流行していた変異株が効果的に中和されるようになった一方、新たに出現する変異株による、立体的免疫再集中を介した感染の緩和は新たな変異株の自然選択を押し進める。(同様に繰り返されるワクチン・ブレークスルー感染と、更新型mRNAワクチン接種によって)この2つの現象が重なり合い、新たに出現する変異株の優勢な拡大が促進される。

したがって、中和抗体がワクチンによって誘導されたものであろうと、新たなオミクロン感染や更新されたmRNA追加接種を繰り返して誘導されたものであろうと、COVID-19ワクチン接種者が、新たに出現する変異株から中和抗体によって防御されるということは、もはや、ないといえる。現在、COVID-19ワクチン接種者をCOVID-19疾患の症状や重症化から守っているのは、主に、細胞傷害性Tリンパ球活性の増強と多価非中和抗体である。流行する変異株の感染性が高いほど、より多くのウイルスが、抗原提示細胞に取込まれるのではなく、その表面に吸着するようになる。そして、流行する変異株の感染性が高いほど、より多くの多価非中和抗体が消費されるが、その産生はより少なくなる和訳]。このため、樹状細胞表面に繋留されたウイルスのスパイクN末端ドメイン内の増強部位に対する集団レベルの免疫圧力が、現在、急速に高まっているに違いない。この多価非中和抗体の病原性抑制効果を無効にできる変異があれば、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団に強毒性ワクチン・ブレークスルー感染が一気に大量発生することになる。


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