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ビデオグラファーとして、スタジオを設立。シンガポールを拠点に活動する、ニコラにインタビュー|Y+L Projects

はじめに

YLでは様々な分野のクリエイターとコラボレーションする中で、各々のプロジェクトでの魅力的なプロセスやプロフェッショナルな仕事への向き合い方など、インスピレーションを受ける機会が数多くあります。そんな素晴らしいクリエイターたちとの出会いもこの仕事の大きな魅力の一つです。

私 (ルーシー) とニコラが出会ったのは、2019年の冬。彼女がタトラー・マガジンシンガポール社 のメディアツアーで、シンガポールから日本を訪れていたときのこと。当時彼女が撮影していたのは、普通に考えれば到底不可能に近い、とても難しいビデオプロジェクト。日本の最も伝説的な都市である京都の美しさ、パワー、神秘主義、豪華さ、そして豊かな遺産をたった1人で記録するというものでした。

撮影中は、彼女が機材をすべてひとりで持ち歩き、自分がこれだ!と納得するまでとことん粘り、それを次から次へとひたすらに繰り返すものでした。その撮影にかける時間と情熱、エネルギーに溢れた姿に深く感心したことを覚えています。撮影だけでも相当タフで技術がいる内容だったのですが、編集後の最終データを見てみるとまた本当に素晴らしく、彼女は優れたエディターであり、カラーグレーディングアーティストでもあることがわかりました。

それ以来、彼女の作品が大好きになり、コアなファンになってしまいました。私たちはお互いに気のままに連絡を取り合い、時には近況報告のために行き来することを計画したり、それをキャンセルしたり (COVIDのため) 、日本での旅行を企画したり、山の魅力に取り憑かれていることなど、あれこれ話しました。その関係もだいぶあったまってきたので、これからまたコラボレーションの機会が増えることを楽しみにしています。

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タトラー・マガジンシンガポールでシニア・ビデオグラファー兼制作マネージャーとして働くかたわら、 「プロアマ問わず全ての動画コンテンツクリエイターのための聖域」と称してSimple Studiosというスペースを立ち上げました。そのスペースで何が起こっているのか、何をしているのかをこの目で見るのが待ちきれません。(1日も早くシンガポールへのチケットを取らなければ!)

本記事はSimple Studiosを立ち上げる前のインタビューなので、ビデオクリエイターとしての仕事についての内容をメインでおさめていますが、自分のスタジオをオープンして運営することがどのようなものなのかも、引き続き彼女を追いかけてみるつもりです。

Website: simplestudios-sg.com
Insta: @neekler
Vimeo: vimeo.com/neekler

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まずは、Nicolaさんご自身について、自己紹介をお願いします。Tatlerで働くことになったきっかけも合わせて教えてください。

Nicola Ngです。シンガポール出身で、今年32歳になります。リパブリック・ポリテクニックにてニューメディアを学び、卒業後は講師に勧められたこともあって、映像担当として大手出版社(Mediacorp)に入社しました。

チームでは唯一の映像担当だったので、基本的に制作やポストプロダクションに関しては独学でやっていました。そのせいなのか自由度の高いクリエイティブ制作が確立していき、ライフスタイル・イベント・美容・高級ブランドなど、あらゆる種類の映像コンテンツに携わる機会に繋がったように思います。当時は各業界への興味関心がスパークしていましたし、その経験や探求がさらに多くの学びになりました。

それから1年後、私は退職してコミュニケーションの学位を取り、いくつかの短期/フリーランスの仕事を経て、地元ブランドのビデオ編集者としてフルタイムの仕事に落ち着きました。

その仕事を2年続けて、快適ではあったもののマンネリしていたせいで、自分がいかにやる気をなくしているかに気づきました。そんな時に元同僚から連絡があって、Tatlerにで一緒に働かないかと依頼がありました。すごくタイミングが良かったですね。

Nicolaさんの肩書きは「シニアビデオグラファー兼プロダクションマネージャー」ですが、具体的にどのような仕事をされているのか教えていただけますか?

基本的には、映像コンセプトの立案、絵コンテ、レコーディング、スタッフのアサインなどのプリプロダクションから、本番(撮影)、ポストプロダクション(編集)まで、動画制作に関わるすべての制作や工程を担当し、進行をマネージメントしています。

「シニアビデオグラファー」と「プロダクションマネージャー」というこの2つの役割はどのように分担されていますか?

この2つの役割は本質的には繋がっていて、2つの役割でこなすタスクはかなり膨大な量になります。なので、いつも私の他にプロダクションマネージャーの役割の人がいれば、全体の調整や連絡を一任できるので、ディレクターや撮影監督としての仕事に集中できるのになと思っています。

普段の1週間はどのような生活をして過ごされてますか?
撮影や編集がなければ、ジムに通ったり、ハイキングやサイクリングに出かけたりしています。

ラグジュアリーブランドとのお仕事も多いようですね。そのようなクライアントとのコラボレーションでは他のプロジェクトと比べて特徴的な点などはありますか?

ラグジュアリーブランドの背景にあるコンセプトは、視聴者や消費者から共感を得るような、感情的・理論的な内容にする必要はないと思っています。それよりも、映像全体の美しさや、ブランドロゴの配置がいかに強く、明白であるかという点に重きをおいています。

あなたが手がけたプロジェクトで、「キャリアのハイライト」となったものはありますか?その理由も合わせて教えてください。

「タトラー旅行ガイド:京都と大阪でやるべき12のこと」は、私ができることの全てが詰まっています。海外で撮影計画を立てて、撮影を一人でこなし、魅力的に編集しました。

「SingaporeStories2021:Almost At The Final Line」では、ミニリアリティシリーズの制作、撮影、編集をしていて、こちらもスキルを十二分に発揮できているプロジェクトです。(ちなみに、上記のようなビデオ制作は私にとって初めての経験でした!)

STYLE:、STYLE:MEN、STYLE:LIVING、Nylon、そして現在ののTatlerと、様々な出版物や雑誌でお仕事をされていますが、映像クリエイターとしてはかなりユニークな存在だと思います。出版社の中において、映像コンテンツでのアプローチは、文章による編集コンテンツと比較して違いはあるのでしょうか?

明確に違いがあると思っています。なぜなら、動画はより魅力的で、より記憶に残りやすく、またマーケティング目的でさまざまなソーシャルプラットフォームに簡単に適合するように変換できるため、より情報伝達を促す事ができます。文章で書かれたコンテンツは、事実や情報がすべて精巧に書かれているかもしれませんが、ビデオを添えることで、視聴者が短時間で情報を解釈し、より長く頭の中に留めておくことができます。最近の出版社はこのことを理解していて、従来のコンテンツを向上させるために動画制作にかなり力を注いでいます。

従来の雑誌は印刷物、写真、コピーに頼っていましたが、ここ10~15年で出版物のコンテンツの主要な構成要素はビデオに変わりました。出版物や雑誌がビデオの領域で存在感を示すことが重要だと思うのはなぜですか?

動画は方がはるかに魅力的ですし、人は静止画ではなく動画に自然と引き寄せられます。デジタルが主流になったこの時代において、動画はあらゆる年齢層の人々にとってメインの情報源であり、もっと言えばエンターテインメントの一つの形になっています。出版物や雑誌は、このトレンドに乗り遅れないようにすることが非常に重要です。

Nicolaさんのお仕事には、広告映像の制作も多いかと思います。出版業界では「アドバトリアル」という言葉をよく耳にしますが、出版・メディア業界以外ではその言葉はあまり馴染みがないかもしれません。「編集コンテンツ」と「広告コンテンツ」の違いを教えていただけますか?

簡単に言うと、アドバトリアルはコマーシャル・コンテンツとも呼ばれ、特定のブランド、製品、サービスを宣伝するために企業からお金をもらって制作するものです。一方、エディトリアルビデオはそうではなく、あるストーリーやブランドについての意見やレビューを表現するために作成されるのが普通です。

この2つのタイプのコンテンツを作る上でのアプローチに違いはありますか?

エディトリアルの場合、クライアントの承認が必要ないので、広告コンテンツに比べれば、よりリラックスして制作できますね。予算は厳しいですが、クリエイティブの自由度は高いです。

エディトリアルとアドバタイアルコンテンツを制作する際の、脚本・絵コンテ・ロケハン等から納品といったワークフローについて、詳しくお聞かせください。

私の場合は、どんなスタイルの映像コンテンツを作るときもプロセスは同じです。私の会社では、プロジェクトを担当するエディターがクライアントの要望やブランドコンセプト(ほとんどのエディトリアルコンテンツの場合)に基づき、映像のアイデアを話し合い、練り上げていきます。また、好ましいパーソナリティ、タレント、ロケハンなども決めます。その後、私と打ち合わせをして、絵コンテのために参考となるレファレンスビデオをいくつか提示してもらいます。ポストプロダクションは私が担当し、担当編集者やクライアント(広告の場合)がレビューします。

通常、1回の撮影は何人くらいで行っているのでしょうか?

外部のプロダクション・クルーの場合、カメラアシスタント、ガファー、グリップ2人くらいしかアサインできないのが通常です。それ以上のスタッフをかけるのは贅沢ですね。

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Photo: Views from inside Simple Studios

仕事の中で、特にやりがいを感じることを教えてください。

自分ならではのビジョンやアイデアを形にすることで命を吹き込むことができ、それを業界内外の人から認めてもらうことができる。作品を賞賛してもらえることです。

一方で、今直面している課題はありますか?

限られた予算とリソースで、自分の思い描いたものを形にすること、そして政府がメディアに対して行っている様々な規制と向き合わなければならないこと。でもそのおかげで、常に予算内で撮るにはどうしたらいいか、他に手段はないのかと考えることに繋がり、自身の限界を突破できることもあります。

これまでのキャリアのほぼ全てをシンガポールで過ごされているかと思います。シンガポールのクリエイティブ/メディアシーンで働くことの難しさは何だと思われますか?

課題としては…どうやって自分を売り込むか、どうやって自分を知ってもらうか…でしょうか。私たちの業界では、リールの出来栄えや業界内での知名度など、実績の強さを基準にアサインされることが多いので、新入社員や新卒社員のうちは本当に苦労します。認められるまでに長い時間が掛かりますし、その間の賃金も低いです。

他の国でも同じだと思います。みんな、この業界で地位を獲得しようと競い合っているのに、十分なサポートがないと思います。

シンガポールは(特に日本と比べると)人口が少ないですよね。クリエイティブな仕事を探している人たちにとって、このことはメリットですか、それともデメリットですか?またその理由も教えてください。

間違いなく大変なことの方が多いですね。すでに活躍している人たちと比べて、自分がどれだけクリエイティブで才能があるかをアピールできる作品を持っていなければ、上に行くのに時間がかかるでしょう。でもごく稀にちょっとのアピールで、運よくその機会をものして有名になった人もいます。そういったラッキーを掴む人たちは総じて謙虚でいい人たちが多いですね。

今、特に好きな映像クリエイターやインスピレーションを受けているクリエイターを教えてください。

Rina Yang

Planit Production 

Nowness

Venus Oh

Alvin Choon

最後に、Nicolaさんが理想とするプロジェクトはありますか?また2022年にやりたいことの計画や野望があればお聞かせください。

自分の内側にある創造性や個性を探求するきっかけとなるような、本当に自分が興味を持てたり情熱を注ぐことの出来るプロジェクトに取り組みたいと思っています。近々、友人の情熱的なプロジェクトを手伝う予定なので、自分のコンフォートゾーンにとらわれない制作の機会で、いくつかの情熱的なプロジェクトに取り組みたいと考えています。

[NOTE: This interview was conducted before the opening of Simple Studios]
Editing: Emma Araki, Lucy Dayman



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