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リビングで仏様を見かけた

昨日の出来事。(嘔吐する話が出てきます。)

朝食兼昼食として家で蕎麦を食べた。具材が無かったので、何か蕎麦に合うトッピング的な物は無いかと引き出しを開けた。揚げ玉があった。おそらく2年くらい前にお好み焼きを作るときに買ったであろうこの揚げ玉、絶対に、絶対に古くなってるけど入れてしまおう。今日を逃したら再び引き出しの奥深くにしまわれ、次に見つけたときには今日より古くなっている。残りの人生で今日が一番若い日であるように、この揚げ玉は今日が一番新鮮なのである!!!

それに、揚げ玉に賞味期限なんて無いだろう。だって揚げてあるし。高温で揚げてある=完全に無菌という考えのもと、惜しげも無く蕎麦に振りかけた。

案の定、食べてすぐ具合が悪くなった。具体的に言うと、食べ終わって1時間ほどして、すべて吐いた。

ところで私は、年上のパートナーと二人暮しをしている。「彼氏」と呼ぶのは小っ恥ずかしいので、パートナー、ここでは仮にPさんと呼ぶことにする。(PartnerのPです)

蕎麦を食べている途中で既に吐き気をもよおしていたので、半分くらい食べたところで残りをPさんに食べてもらった。私はそのまま横たわった。

しばらくして吐き気が我慢できなくなり、Amazonプライムでメンタリストを見ていたPさんを呼んで「吐く。」と言った。急いで容器を持ってきてくれたPさん。しかし無情にも私のゲロは、リビングのラグに投下された。

Pさんが持つ容器に蕎麦を吐き続ける私。吐きながらも、Pさんにゲロ吐いてるところを見られている恥ずかしさ、そしてラグを汚してしまったことへの深い悲しみを感じていた。

一度トイレに行き、容器を片付ける。顔も髪もゲロまみれだ。ゲロにまみれる31歳、冬。哀れな姿。誰にも見られたくない。だけど残念ながらPさんにはもう見られた。顔を洗って頭を上げると気分は少し良くなっていたが、自然と涙が出てきた。

ひととおり自分の片付けを終えて、ラグを掃除しにリビングに戻った。すると、ゲロまみれだったラグはすっかり綺麗になっていて、先ほどと変わらない体勢で、メンタリストの続きを見ているPさんがいた。

「ゲロ片付けてくれたの?」
「うん、もう寝転がれるよ。」

何事も無かったかのようにラグに横たわり、肘を曲げて手のひらで頭を支えながらメンタリストを見ているPさん。優しく微笑むPさん。
その体勢は休日にダラけるお父さんのようであるが、私の目には涅槃仏ねはんぶつのように映っていた。

ゲロを吐いている人を目の前にしたとき、ほとんどの人がその人に対して優しい行動をとるであろう。けれど、その行動は人によって異なると思う。
背中をさする、大丈夫?と声をかける、水を飲ませようとする、など。

ただ、子供の頃からゲロの呼吸の使い手である私から言わせてもらうと、そのいずれも必要ないのだ。ただ何も言わずにこのビッグウェーブが過ぎ去るのを待って欲しいのである。Pさんの対応は私が求める完璧なゲロ対応マニュアルそのものであった。Pさん、君に100ゲロポイントをあげよう。

その日の夜、改めてお礼を言った。ゲロを吐いてごめんね、片付けをしてくれてありがとう。Pさんは、当たり前のことをしただけだよ、と笑った。

人は皆、神仏の前では素直な感情になれるのだろう。思わず合掌したくなるようなPさんの尊い笑顔を見て、子供のようにわんわん泣いてしまった。

Pさんが優しくしてくれたこと、Pさんに恥ずかしい姿を見られたこと、そして、古いとわかっていた揚げ玉をPさんの蕎麦に私の倍の量を入れてしまった罪悪感で、しばらく涙が止まらなかった。



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