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【法律読書録】Web3ビジネスの法務(技術評論社)

『Web3ビジネスの法務』(技術評論社)という本を紹介します。

本書の概要

本書は、「トークン」「暗号資産」「NFT」「メタバース」「DAO」「DeFi」・・・などなど、最近よく聞く、最先端領域の法律論点を広く解説した本です。

こういった最先端の概念については、「なんとなくわかった気になっている」人も実は多いと思います(私はそうでした)。本書を読むと、これらの概念と現行法上の論点・解釈が一通りおさえられるので、最新情報のキャッチアップと思考の整理に非常に役に立ちます。

おすすめの読者層

おすすめの読者層は、Web3にかかわるサービスを提供する企業の法務部員や、弁護士などの法律専門職の方です。必ずしもサービスとしてかかわっていなくても、ある程度法律の知識がある人や、法律に興味がある人であれば問題なく読めるでしょう。

ただ、法律初学者やまったく法律に触れたことがない人が読むには、少しレベルが高いかもしれません。

役に立ったポイント

背景からの解説

「Web3」には、「Web3.0」「web3.0」など表記にバリエーションがありますが、実は、その提唱者や意味内容が微妙に異なります。本書では、こういった法律論に入る前の前提知識についても書かれており、Web3や関連する概念に詳しくない人でも、すんなり読める工夫がされています。

いちいちググることなく、ストレスを感じずに読み進めることができるのはありがたいです。

Web3の論点を網羅

本書では、Web3ビジネスに関連する法律の論点が一通り整理されています。

特に良いと思うポイントは、現行法令の解説がまず簡単に書かれており、それを前提にトークンやNFT、メタバースなどにおいてこれらの法令がどのように適用されるのか、という流れで書かれている点です。

また、現行法上解釈が明らかでないものに関しては、現時点での筆者の見解も踏み込んだ形で書かれています。この点は、特に最先端のビジネスを取り扱う際の法的検討において参考になるものと思います。


個人的にメタバースの章は非常に面白かったです。

なかでも、「メタバースと『コンテンツ・事業』にまつわる法の諸問題」という節では、メタバースの世界において著作権法、商標法、物権法・債権法、不正競争防止法、特定商取引法、風営法、景観規制などの規制がどのように適用されるのかについて網羅的に解説がされており、読んでいて頭の体操にもなる感じがしました。例えば、強盗利得罪などの構成要件である「脅迫」について、ログアウトやミュートなどの抗拒手段が複数あることから、相当の事情がない限りは恐喝利得罪にとどまると考えられることなどは、これまであまり意識していなかったので、なるほどなぁと、思いました。

弁護士として仕事をしていても、自分が普段使わない法律については忘れてしまうことがありますが、忘れかけていた法律の概念や知識などもあわせて復習ができたのは、非常にありがたかったです。

雑感

興味のある所から読もう

私は頭から一通り読みましたが、本書は自分が興味がある分野から読むのが良いと思います。

特に、トークンや暗号資産などを取り扱う第1章から第7章までは資金決済法や金融商品取引法など決済に関わる法令の解説がかなりの割合を占めているのですが、これらの法令はそもそも難解なので、あまりなじみがない人にとっては読むのが結構大変だろうと思います。

トピックごとに独立した内容ですので、例えばメタバースに興味がある場合は、メタバースの部分だけを読むといった形で読むほうが良いと思います。

頻繁な改訂に期待

本書はかなり変化の早い分野を取り扱っているため、本の賞味期限自体は短いと思われます。

2023年6月7日初版であり、出版からまだ1年を経過していないのですが、この間にも、 合同会社型DAO実現に向けてメンバーの権利トークンの法的扱いに関する規制改革案が金融庁から出されるなど、状況は目まぐるしく変化しています。

私は改訂されたら喜んで買うので、著者のGVA法律事務所の先生方には、積極的な改訂と内容のさらなるブラッシュアップをぜひご検討いただきたいです。

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