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2021年のジャズギター

メモを見返していたら、2021~2022年にかけて書いていたジャズギターのベストの記事が出てきました。個人的にテンヤワンヤで生活に余裕がなくなっているうちに気づいたら存在すら忘れていたものですが、読み返してみたら2022年の6月の時点で読んでも十分なにかの視点になるのではと思ったので、せっかくなので共有します。今年中にもっとまともな、現行ジャズにつながるジャズギターを総括する何某が公開できたらと思ってますが、これはまた別のお話…。


メインストリーム・コンテンなギター

話題になった作品の内でギタリストが参加している作品は、テレンス・ブランチャード の「Absence」とテイラー・アイグスティの 「Tree Falls」に参加しているチャールズ・アルトゥーラでしょうか。ブランチャードの作品ではファビアン・アルマザンと並んでテクニカルでエッジの効いた音響を見せつつもアンサンブルの要ともいえる働きをしていて、やはり見逃せない人物になっているのだなぁっと改めて実感。一方アイグスティの作品では、ヴォーカルが入っているメロディラインが強い曲には参加していなくて基本はコンテン路線で起用されているのも面白いところ。21年に話題をよんだ狭間美帆の新作「Imaginary Visions」のインタビューで彼女がギタリストの重要性について語っていたし(*1)、フォーク路線からガラッと雰囲気を変えてダークな質感を求めたマリア・シュナイダーの「Data Lords」でベン・モンダーが担っていた役割など、圧倒的な個性を出しつつも、アンサンブルとしても、雰囲気をガラッと変えられる機能できちゃうようなギターが担う機能っていうのに今後も注目なのかなと思ったいりしていました。この系統でいうと、ピアニストのジェイムズ・フランシーズの「Purest Form」に参加しているマイク・モレノも毛色は違いながらもになっている役割は近くて、さすがケンドリック・スコットのバンド”Oracle”を長年支えているだけあるととも感じていました(スコットのバンドにはアイグスティが参加してますね)。

*1 DRビッグバンド入門:introduction to Danish Radio Big Band (with playlist)
https://note.com/elis_ragina/n/nfd3973754ef4#bfl71

作曲家としての側面が「Road To The Sun」によって大きく注目されたパット・メセニーですが、前述のジェイムズ・フランシーズが参加している新プロジェクト”Side-Eyes”のライブ盤も良かった。ギターを中心に据え、持ち前のギターシンセと持ち替えつつ、メセニー節全開で繰り広げる様は流石に圧巻。シームレスに自身の音楽性を表現・拡張する適任者としてジェイムズやドラムス(ここではマーカス・ギルモアが起用)のも面白い。単にギターを中心に据えたってところでは、リオネル・ルエケのトリオ「Close Your Eyes」(原盤はアナログ限定リリースで知られるNewvelle Rcords)なんかもいいリリースだったのではないでしょうか。

その他、もはやブラクストン・クックの盟友的存在で、ローレン・デスバーグなどの作品にも参加するアンドリュー・レンフローの「Run in the Storm」、ギラッド・ヘクセルマンやニア・フェルダーら参加している桃井裕範「Flora and Fauna」なんかもコンテンギターの経路にありながらも、しっかり個性が際立っていて良かったです。

ハイブリッドさを聴かせるギター

バッキバキのコンテンギターをこれまで聞かせていたロテム・シヴァンはベッドルーム的な路線の2019年作「Same Way Home」をさらに推し進めた「Far From Shore」をリリース。ヌジャベス以降のジャジーでチルなギターを中心に据えたトラックを超ハイクオリティで作り、そこにThana Alexaをはじめ豪華なヴォーカルの乗せつつ、先述のブラクストン・クックやBIGYUKIを客演させ心地よいテクスチャを奏でていて、凄まじくハイブリッドな作品に仕上げていました。心地よい旋律にとどまらず、現代随一のテクいフレーズを入れちゃうのがどうしようもなくロテムっぽい。これは個人的は今年かなり効いたアルバムの一つに。桃井裕範の作品に全面参加しているアラン・クワンは”Inviisible Architecture ”というプロジェクトで新作を出していて、これも超かっこいい。年内すれすれのリリースでしたが、あっといまに年間ベストに食い込みました。

ファンキーなギター

LAのファンクバンドScary Pocketsと、オルガンのラリー・ゴールディングスによるコラボプロジェクトのるScary Goldingsの新作にはレジェンド、ジョン・スコフィールドが参加。メンバーがかなり流動的なScary Pocketsですが、とりあえず今作にはルイス・コールとMONONEONが参加(かつては話題のサム・ゲンデルの相方的サム・ウィルクスもいたよう)。現代随一のグルーヴと、絶妙にレイドバックしたジョンスコの相性がたまらなく良かった。ジョンスコといえばジャムバンドのメデスキ・マーティン・ウッド(MM&W)とやってる「A GO GO」が割と重要作だと思うのですが、そんなMM&Wがちゃんとネルス・クラインと共演してるのも個人的は注目したいところ(こっちは音響/即興的な側面が大きい)。

忘れられちゃいけないのが、ディアンジェロのギタリストとしても有名なチャーリー・ハンターが全面参加してるカート・エリング の「SuperBlue」。ゴージャズで華があるエリングのヴォーカルをさらに彩るファンキーなハンターのトリオの組み合わせ。ブッチャーブラウンの鍵盤であるDJハリソンや、注目株
のドラマーであるコーリー・フォンヴィルがハンターともエリングとも相性抜群で仕掛けまくりなのもミソ。ハンターはサム・フリブッシュ とのオルガントリオも良かった。

アバンギャルド、またはフォーク

2021年にジョン・ゾーンの"Masada"プロジェクトが新しいカルテットになって、しかもジュリアン・ラージがデイブ・ダグラス変わって起用されているのに驚きつつも、何年か前からギャン・ライリーやビル・ブリゼルとのギタートリオで頻繁にtxadikからリリースをしていたし、ツインギターのブルーノートから出してるネルス・クラインとの旋律が両列に絡む作品も尖った作品も出してるし、単純に即興的なところであの瞬発力で右に出る人ってなかなかいないってことを考えると作風的には全然納得。

少し見渡してみるとフォークやメロディが強いポピュラー音楽なものとアヴァンギャルドな音楽とは紙一重な存在だったように思う。ラージのことはいわずもがな、ネルス・クラインはウィルコの人でもあるわけだし。メアリー・ハリヴォーソンは“Codegirl”でインド系のアミルサ・キダンビを、さらにはその作品の続編ではロバート・ワイアットがまさかの客演。あの前衛ながらどこかフォーキーさを纏う音楽性はワイアットの影響あって然るべきな気がしている。そういえば日本の音楽好きを賑わせまくってるサム・ゲンデルはレイ・ハラカミへのリスペクトを寄せていて、そんなレイ・ハラカミはロバート・ワイアットにリスペクトを寄せていた人物だっったのも、邪推かもしれないけど面白いなと思っている。Jeff Parkerがルーパーを使って一人で作り上げたソロ作「Forfolks」も、トラックの上を漂うシングルラインからどことなく人懐っこさやメロディアスさを感じさせていた。

メロディアスさとフリー/アヴァンギャルドさをかけるところでいうと、セシル・テイラーとも共演をしていて近年はECMで作品を作っているアンドリュー・シリルの「The News」とチャールズ・ロイドの新作「Tone Poem」をまたにかけてるビル・フリゼルはさすがのひとこと。良作とも一目でフリゼルのギターとわかるくらい個性的なプレイをしているわけですが、接近する箇所はあっても役割は大きくことなっていて、それこそフォークやポップスところから、NYアングラなどアヴァンギャルド的なところまでやってきたからこどできる彼のレンジの広さを感じさせる。

ジャズギター的にも、カート・ローゼンウィンケルや、ヤコブ・ブロをフックアップした人物として重要なモチアン。彼の未発表曲を取り上げたUKのドラマーの作品はキット・ダウンズらに加えて、UKのEDITIONから作品をリリースするギタリストのロブ・ロフトが参加。彼はアゼルバイジャンなどフォークを取り上げるエリナ・ドゥニらと近年は活動を共にしていて、アルメニア・ルーツでもあるモチアン曲集にロフトが参加するのも頷ける。

ギターと歌伴の現在地

ジェリ・サザンやビヴァリー・ケニーの作品のジョニー・スミスや、ジュリー・ロンドンのアル・ヴィオラを礎に、ジャズ・ヴォーカルにパーソナルな雰囲気によりそ、絶妙なムードを醸していたギターの存在は切っても切れない関係と言っても過言ではないと思うのですが(先述のビル・フリゼルとメアリー・ハルヴォーソンのデュオ作ではジョニー・スミス曲集をやっていたりするんですが。まさかのリリースはジョン・ゾーンのTzadik..!!)。2021年リリースの中でも目を見張るのは、メセニーも一目置くパスクァーレ・グラッソが全面参加しているサマラ・ジョイのデビュー作のではないでしょうか。一聴すると、70/80年代にジョー・パス(とエラ・フィッツジェラルドとのデュオやコンボ)が推し進めたスタイルを一層どころじゃなく、ギター伴奏をモダン的な香りのまま圧巻の技術力で別次元へと推し進めた作品とも言える(追随できるようなギタリストが他にも出てくるとは思えないですが)。ソロでは心地よさに任せて聞き流しちゃえるパスクァーレですが、バンドになるとギターってかもはやピアノとかサックスにすら聴こえるじゃん、ってくらいのテクニックが浮き彫りなるのが面白いなと思ってました。彼のトリオ作も合わせておすすめ。

狭間美帆が首席指揮者に就任したことで話題のDanish Radio Big Bandですが、デンマーク出身のヴォーカリストであるLillyの「Song is You」にはギラッド・エクセルマンが、トランペッターのカーク・クヌルフと共に全面参加。ここでのヘクセルマンは、モダン以降のギターとヴォーカルの意匠を踏襲しつつ、エフェクターを駆使しバッキング的な域を超えて空間を彩るギター伴奏の新たな地平を描いていると言えそう。これはボブ・ディランやポール・サイモンなどフォーク・ソングを多く取り上げるトランペッターのジョン・レイモンドのバンドReal Feelsでの2015年頃からみられているアプローチで、改造されたギターやエフェクターや駆使して、伴奏とベースの役割を同時に担いつつ、フレーズをループさせ空間を彩り、その上でさらにソロも取るという驚異的な演奏を見せるというもの。バッキングをループさせながらその上でシングルラインで線を描き、ボディーパーカッションや低音と高音をベースアンプとギターアンプで振り分けて鳴らし、一人で二役も三役もこなす。

もう一個あげたいのが、ポーランド出身のヴォーカリストのユミ・イトーと、同じく東欧のギタリストのシモン・ミカによるデュオ作。2020年の注目作品となったイトーのリーダー作”Stardust Crysrals”ではBjork以降と言えそうなエレクトロニクスな感性を弦楽やアンサンブルに宿していたわけですが、今作ではミカのギターがそれらをになっているかのよう。美しいアルペジオにイトーの器楽的なヴォイスが絡みついたり、ギターをハープだったり、ヴァイオリンのピチカートのように響かせたり、前景と後景が入れ替わったり混じったりとタイトル通りekual=対等なヴォーカルとギター掛け合いを見せる。

改めて聴かれるべき作品(再発)

再発系ではマーク・リボーによるハイチ系アメリカ人のクラシックギターのフランツ・カセウスのトリビュート。跳躍とは思いつつも、ハイチをはじめ、中米、カリブ諸国にルーツを持つジャズミュージシャンの活躍めざましい中、フランツにギターを習っていたリボーが保存のためにリリースってのも面白い。その中でも、先述のフォークとフリーに接近するBrandon Rossの初期のトリオ作の再発は、のちのキャリアを考えても重要作だと思うので嬉しい発売だった。

ギターじゃないけどギター

個人的に2021年間ベストなのがイタリアのミュージシャンによるアンサンブルによるフリゼル曲集。フリゼルによるギターとエレクトロニクスを架ける演奏を、ギター不在で見事に表現した意欲作。ときおりライブ・エレクトロニクスは使われるものの、一要素といった感じで、基本的にはアンサンブルと編曲の妙でフリゼルの録音を表現するといった趣の、いままできいたことがなかった着眼点の作品。

おまけ

ここまでに取り上げた作品以外にも良作が多かった2021年。青田買い的にはなってしまいますが、上記の作品とどこかでリンクしている作品ばかりなので貼っておきます。どれも秀作です。

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