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異形頭の役人が地獄でゆるり人外ぐらし——『ヘルズ・ハイ・ハーモナイザーズ』

(本記事は2020年3月公開の内容を修正・再掲したものです)

人外キャラクターはお好きだろうか。

決して素顔の明かされない覆面や仮面、あるいは首から上が無機物となった異形頭。「人外」とひとくちに言っても指す範囲は様々だが、「人間から姿がかけ離れているほど ときめく」といった層は確かに存在する。

控えめに言って多数派でないこの人々は、マイノリティゆえに、しばしば塩っぱい思いを強いられる。それは非常にちょっとした場面だが、例えば次のような瞬間だろう——「キャラメイクであなた好みの分身を作ろう!」と謳うゲームに出会ったとき。長らく人間界で暮らしてきた彼らは、含み笑いで事もなげに無難な美少女を創り出す。ゲームを始めるにはそうする以外にないからだ。しかし彼らは腹の底では確かに思っている。「俺好みになるなら、まず人間をやめてくれ」と。

『ヘルズ・ハイ・ハーモナイザーズ/Hell’s High Harmonizers』(以下『HHH』)は、そんな迷える人外好きの魂の救済となるかもしれない。2020年からSteam/Nintendo Switchにて配信中の本作は、日本のインディーゲーム開発者díː氏のスタジオDear Done Deadが送る作品だ。本作はプロトタイプ版がPlicyやitch.io等で配信されていたが、このたび正式版がリリースされたかたちとなる。

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プレイヤーは「調和者(ハーモナイザー)」と呼ばれる地獄の役人。赴任地である第69371区の平穏を守るべく、ひねくれ者たちの反乱や脱走を相手に奔走する。「地獄」というキーワードからは凄惨なイメージが連想されるが、本作のアートスタイルは至ってスタイリッシュで物静か。モノトーンでまとめられたドット絵が、常夜の街のひっそりした匂いを漂わせている。

本作の第一の見所はゲーム開始直後のキャラクターメイクだ。多くのゲームと同様、ここでプレイヤーの分身となる主人公の見た目を創り上げる。まず選択するのが「BODY」、体の項目だ。

……はて。体? 服装ならともかくボディそのものを選ぶキャラメイクはそうそうない。一体どんなカスタマイズがあるのか? そう思って見たなら驚くことになるだろう。BODYの項目には普通の人間のほか、しれっと首のない体が混じっている。頭部だけが浮遊しているものもあれば、完全に肩から上が存在しないデュラハン状態の素体もある。解像度の低いドット絵では数ピクセルの差異としてしか表現されていないが、これをリアルな造形として想像すると、なかなか「くる」ものがある。

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そして何より圧巻なのが「HEAD」、頭の項目だ。ここで用意されたパターンはなんと400種類以上。通常ならここでツリ目やタレ目、笑顔や困り顔などの顔立ちを選ぶところだ。だが『ヘルハモ』のキャラメイクはそうではない。用意された頭部はというと、カボチャにズタ袋、骨、ペストマスク、ブラウン管テレビに金魚鉢……果ては、寿司。

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掲載した画像は決してアイテム一覧とかではない。れっきとしたキャラクターメイクの画面である。本作のカスタムでは、覆面や仮面、あるいは無機物を主人公の頭部に据えることができる。それも、おびただしい数のバリエーションだ。もちろん普通の髪の毛が生えた人間キャラも作成可能。しかしこれほどまでに人ならざるパーツが用意されていると、いったい何が「普通」なのかわからなくなってくる。例えば諸兄が自分の創作オリジナルキャラクター、それも異形頭の「うちのこ」を脳内で養っているとすれば、本作では容易に彼ら・彼女らを再現することが可能だろう。時計や鉢植えにフラスコなど、人外キャラで定番の頭部はひととおり揃っている。※

さて、これほどまでに人間離れした主人公を作らされると、心配にならないこともない。果たしてゲーム内で馴染めるだろうか? 周りのキャラクターから浮いてしまいはしないだろうか? されどご安心いただきたい。ここは地獄だ。本作に登場するNPC、第69371区の住民たちは負けず劣らず魅力的な非人間キャラクターばかりだ。プレイヤーをサポートしてくれる「ヒナ」は目深な帽子にたっぷりしたマフラーで素顔不詳。街の各所では白衣姿の異形頭やヒューマノイドが仕事に打ち込んでいるし、いかにも悪魔・ガイコツといった地獄らしい魔人も存在する。インパクト大なのは施設の1つを管理する「室長」で、かっちりフォーマルな上半身から生えた巨大な蜘蛛の脚が目を引く。ちなみに調和者の仲間のひとりである「ユム」のように人間型の住民も少なくはない。キャラクターメイクの自由度に比例するように、地獄の住民たちは魑魅魍魎からそれ以外まで個性豊かだ。

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具体的なゲームシステムとしては、いわゆるログRPGの形をとっている。街中で装備を整え、パーティをダンジョンに送り込み、あとは放置してその過程を眺めるのだ。ダンジョン内では敵との遭遇をはじめ様々なイベントが発生し、キャラクターのステータス合計値で時々の結果が判定される。このあたりはTRPGを遊んだことのある人ならイメージがしやすいだろう。探索は飛ばしてリザルトだけ見ることも可能だが、テンポよく流れていくテキストログをぼんやり眺めるのも、保護者気分で悪くない。イベントが起こるたびにキャラクター同士が軽いセリフを交わすため、自分の分身がお気に入りのメンバーと会話したり、意外な仲間同士がやりとりするのを見て想像を膨らますのも一興だろう。

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ゲームとしてのシステムは非常にシンプルだが、本作の醍醐味は百鬼夜行じみた仲間たちとのゆったりした交流だ。地獄の住民たちは生前の罪を精算するべく労働を課せられている……はずなのだが、彼らの態度はどうも、贖罪とか反省とかそういう色が足りない。レストランで一服したり、キノコの自由研究に励んだり、ゲームのセーブが飛んだと嘆いていたり。圧巻なのがテキスト量の膨大さで、作中で1日が経過するたびに街中の住民が入れ替わる。話す内容もそのつど変化する。日々気まぐれな思いを吐露する彼らと会話し、地獄の飄々たる価値観に触れることこそ『HHH』の真の楽しみ方といえるだろう。

刺さる人にはとことん刺さる世界観の本作は1500円にて配信中。気になる人は、キャラクターメイク部分だけ外部サイト「Simple Pixel Character Maker」にて試遊してみることも可能だ。ぜひ自分らしい姿で、深くて暗くて居心地のいい地獄ぐらしに沈んでほしい。

※空前の人外フレンドリーさを誇る本作だが、「おおむね人型」という制限にだけは縛られるので注意。「脊椎のある生物は愛せない……」といった不定形萌えの諸氏は、武器屋のナモちゃんを愛でるなどしてご対応願いたい。

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