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『ヘルズ・ハイ・ハーモナイザーズ』開発者díː氏インタビュー。地獄にたゆたうキャラと世界観はどう生まれたか

(本記事は2020年3月公開の内容を修正・再掲したものです)

地獄スローライフADV『ヘルズ・ハイ・ハーモナイザーズ』。本作を手がけたのが個人スタジオDear Done Deadを運営する開発者、díːさんです。2017年からゲームの発表を始め、『Red Edge Dispeller』や『Orderly Byte』など数々の作品を送ってきました。いちど出会ったら忘れられないキャラクターや、断片から世界観を匂わせる演出が魅力のDear Done Dead作品。その創作の源流を探るため、díːさんご本人にお話をうかがいました。

——まずは、díːさんがゲーム制作を始めたきっかけをお教えください。

手軽に使えるツール(Unity)と公開場所(itch.io)があるのを知ってです。それ以前にもFlashなどを触る機会はありましたが、その時はこれで何か作ろうとは思わなくて。先輩をきっかけにUnityを触る機会を得て、触ってみたら色々作れそうだったので、そこからです。

——初めて公開した『Red EdgeDispeller』は横スクロールアクション、続く『Orderly Byte』はクリッカーアドベンチャーでしたが、これらの作品を経て制作スタイルに変化はあったでしょうか。

基本的な作り方は変わっていません。タイトル画面→メイン画面と起動するものを作って、それを少しずつ拡張します。システムが先にあり、絵や話は後から付きます。

——常に、手段や仕組みが先行しているのですね。のちにブラウザで『ヘルズ・ハイ・ハーモナイザーズ/Hell’s High Harmonizers(以下、HHH)』をリリースされましたが、そこからNintendo Switchでコンソール版を出すに至ったきっかけをお聞かせいただけるでしょうか。

2018年12月にブラウザ向けの「とりあえず遊べる版」(以下、ブラウザ版)をリリースした後、PLiCyからコンソール版の話があり、改修して出すことになりました。

「とりあえず〜」の名前の通り、ブラウザ版は後々修正したい点や追加したい要素が色々ありました。その話を担当の方に伝えたり、新規実装案を頂いたりする中で、最終的な実装方針は自身が決めた上で、やりたいことを詰め込んでコンソール版を出そう、となりました。

——そこで実際に追加・修正した点にはどんなものがあるでしょうか。

地獄への道は善意で……もとい、不親切だった部分を修正しました。ブラウザ版はチュートリアル終了後、最初から全ての施設に行けました。それ故に「何をすればいいか分からない」といった意見があったため、コンソール版では廃墟の探索を進めると徐々に開放される形になりました。

また、生活感を出すために季節、曜日、天候、住民の誕生日(一部除く)などが追加されました。特定の季節にしか売ってない商品、誕生日に関する会話など、地獄の日々に一年を通じてちょっとした変化があるようになりました。

——確かに、住民の誕生日に聞ける特別な会話など、テキストから生活感を感じる場面が多々ありました。『HHH』の総テキスト量はざっくりどれくらいなのでしょうか。

住民との会話があわせて2500ちょっとぐらいで、合計20万文字以上あるみたいです。

持ち物や依頼のテキストを入れるともう少しありそうです。

——テキストの話でいえば、シリーズにおいて「死者の世界ではモノが色彩を失う」という話を随所で聞くことができます。モノトーンのビジュアルと並行して語られる設定ですが、白黒のアートスタイルと色彩にまつわる世界観はどちらが先に生まれたのでしょうか。

世界観です。『Orderly Byte』よりもずっと以前に書いたテキスト(ゲームにはしていない)に「死亡時に生前の色を失う」とあり、それを引き継いでいます。

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『Orderly Byte』以前に描かれた同世界観のイラスト。

——グレースケールの画風は設定に合わせて確立されたのですね。世界観と同様に、キャラクターも独特のテイストが印象的です。彼らを創る上で意識されていることはあるでしょうか。外面・内面についてそれぞれお教えください。

外面は、謎ですね。勢いと言いますか、これといって、特に何も考えていない可能性が……。内面は、「自分が理解・同意できる存在である必要はない」とは、よく思います。普段、メモを書くうちに外見の要素や性格、口調が決まります。

——メモにはどのようなことが書かれているのでしょうか。

このメモですが、内容は適当で、自分でも書いててよく分からない(そこに至る経緯を説明できない)です。一部キャラの当時のメモです。

マフシャフ
・肩に暗黒物質がついてる布多めのひと
・こんにちは。挨拶重視していく。
・大分昔の話。いわゆるロングロングアゴ。
リルセサヴィ
・変な感じの堅物
・意思が弱い
・誘惑に弱い悪魔
ルカルゴス
・庶民的な精霊
・パパかっこいーって言われたいんですよう。
・いまだに子離れできてないのは親の方・・
『HHH』よりマフシャフ。確かに肩に暗黒物質がついてる。

——謎めいていたキャラの謎がさらに深まりました……。彼らを含め多彩な登場人物・人外が登場しますが、お気に入りのキャラクター、もしくは自分に似ている住民がいればお教えください。

難しいですね。どの住民も違う話題をするので誰も彼も楽しい状態で。強いて挙げるなら、『HHH』以前からの付き合いである沙漠の民「サンドレイス」です。サンドレイスは『Red Edge Dispeller』の世界の住民です。(公開中の『Red〜』には出ませんが。)なので他よりやや付き合いが長いです。

自分自身に似てる住民は居ない気がします。自身の上司と似ている?住民なら居るんですけど。

サンドレイス。個人としての主体性をもたず、民族全体でその名を共有する文化をもつ。

——世界観・キャラクターなど他にない魅力が詰まったDear Done Dead作品ですが、díːさんが影響を受けた作品があればお聞かせください。

LucasArtsのアドベンチャーゲーム、『LOOM』(※1)の影響はあります。ゲーム内容の何が影響して、と具体的に説明するのは難しいのですが、『LOOM』を遊んでなければ会話主体のゲーム『Orderly Byte』は作っていないし、『HHH』も作っていないと思います。また、ゲームの難易度が高くない(はず……)なのは、『LOOM』の「誰でもクリアできる」というデザインに惹かれてです。

それと、『HHH』の勧誘システムはトーセのRPG、『SDガンダム外伝2 円卓の騎士』(※2)が参考になっています。スーパーファミコンのゲームで、Bボタンに勧誘が割り当てられており、街の一般人でも因縁の相手でも勧誘できます。実際に勧誘して仲間になるのは一部ですが、各人に断るセリフが設定されています。

※1『LOOM』…1990年にLucasArtsのブライアン・モリアティ氏が開発したグラフィックスアドベンチャー。難しくてクリアできないテキストアドベンチャーが普通だった時代、「誰でもクリアできて広い層が楽しめる」ことを主眼に置いて作られた。美しいビジュアルや音階を用いた特殊なコマンド入力などでも知られる。

※2『SDガンダム外伝2 円卓の騎士』…1992年にトーセが開発したスーパーファミコン用RPG。経験値の概念が存在せず、パーティに仲間が加入するほどレベルが上昇するシステムを採用した。あらゆるキャラクターをパーティに勧誘することができ、一般市民から敵陣営の相手まで片っ端からまず誘ってみることが基本だった。

——最後に、今後のご活動について教えていただけることがあればお願いします。
『HHH』に関しては、コンソール版の序盤が遊べる体験版をPLiCyに投稿予定です。気になるけど、どんなゲームか分からない、という方はそちらに触れていただければ幸いです。

別作品に関しては、出し方も場所もまだ全然決まってませんが、ひとつ短編を作る予定です。完成する保証は無いので、生存報告もとい制作過程をTwitter等に載せる場合はどうしたものかと悩んでいます。

機会があれば、またキャラクリエイトものも作ってみたいですが、まずは技術検証してからですね。

——ありがとうございました。

díːさんの最新作『ヘルズ・ハイ・ハーモナイザーズ』はNintendo Switch向けにニンテンドーeショップにて販売、PC向けにはSteamにて早期アクセス配信中です。また過去作はitch.iounityroomPLiCyといったプラットフォームから遊ぶことができます。静かで、心地よくて、底知れない。Dear Done Deadの作品に触れて、春の温い夜を過ごしてみるのはいかがでしょうか。


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