犬、飼おう〜episode IV
〜愛犬コロンを16歳8ヶ月で看取るまでの記録〜
16歳を過ぎても食欲はまだまだあって、ご飯とか牛乳が欲しい時は冷蔵庫の前まで行ってシッポをフリフリするのだけど、お散歩を求めてくることはめっきり減って眠っている時間が増えてきていた。
「コロン散歩行こ!」と誘っても…
マンションのエレベーターを降りてまっすぐエントランスを出ると、誰もがお散歩したくなるような遊歩道になっているのに、コロンはエレベーターを降りるとすぐ右の駐車場方向へ曲がる。
自分から車の方へグイグイ向かって行く後ろ姿の可愛さに負け、用もないのに車に乗せて駐車場周りを1周して帰るということもしばしばあった。
気付けばだんだん歩くのはゆっくりになり、走ることなんかはもう忘れちゃっていて、抱っこから地面に下ろしたら、こちらが先に行ってしまってもそう簡単に、素直には歩かない頑固なおじいさん。
「歩こう」「やだ」の押し問答を(喋らないけども)毎回するのもイヤなので、すぐそこのスーパーに買い物に行く時も、ちょっとコンビニに行く時も、はりきって遠出する時も赤ちゃんのようにカートで連れて歩いた。
毎日穏やかに過ぎているようでも認知症はジワジワ進み、毎朝5時台に起きては夫のお布団まで行ってスンスン鳴いて朝ごはんを催促していたのが、だんだんその時間が早くなり、夜中3時半とか4時に起きてはワンワン鳴いて夫を起こすようになってきていた。
6月28日真夜中3時過ぎ、鳴き止まないコロンの鳴き声と、困ったようになだめる夫と半泣きの長女の声。
廊下に出ると、尋常じゃない形相で右足を引きずりながら廊下とリビングを行ったり来たり這いずり回るコロン。
落ち着かせようと、抱き上げようとするも、大好きだったはずの夫と長女にも牙を剥き出して容赦なく咬みついてきた。
歯がカイカイの時の甘噛みも含めたら、16年の間に何十回も咬まれ慣れている私でも、咬まれるのは血が出る痛さよりも心がやられる。
落ち着くまでただ見ているしかなかった。
身の置き場に困ったように、お布団、座卓の下、あちこちを徘徊し、小一時間は続いただろうか。座布団の上に落ち着き、眠りはじめた。
以前、高齢者介護施設で仕事をしていた時に、グルグル歩き回るのが好きな利用者さんがスタッフの腕に噛み付くという場面に遭遇したことがある。
徘徊といい、攻撃的な行動といい、コロンはあの感じなのか…と私は思い始めていた。
朝一で病院に駆け込むが、コロンはやはり触ろうとしただけで興奮して牙を剥き、先生の奥さんの白くてか細い指にまで咬みついてしまった。
鎮静剤を打ってもらい落ち着いたが、こんなことは初めてだったので今後どうしていくか、現実的な相談をした。
年齢を鑑み、現状を受け止めはしても病気を探さないことにしたので、なにか起きたら対処療法で、痛みを取る、眠りたい時に眠らせる、「その日」は家族で看取りたいことをお伝えし、睡眠を整えるためいくつか薬を処方してもらい帰ってきた。
翌朝、早朝に容体が急変。
目は見開いたまま瞳は動かず、呼吸が浅く荒くなり、全身の力が抜けて触っても咬みついてこない。
来るべき時が来たと覚悟し、今までの楽しかった思い出話しや感謝の言葉をたくさんかけながら、シリンジで水を少し口に流し入れた。
しばらくしたら持ち直したようでハァハァしながらも眠り始めた。
どちらにしても、今日でもうお別れかも知れないと思い、小さい時からの思い出いっぱいの場所へ連れて行くことにした。
車の中では意識不明な感じだったのが、芝生に下ろし、しばらく空気を嗅いだ後、むくりと顔を上げた時には涙が溢れた。「最後に来られてよかったね。もう、いいよ」と。
意識は戻ったが、2日間もほとんど食べていないのに水すらも拒否。
翌日、流し込んででも少しずつ与えましょうとのことで流動食を出してもらうと、3日目から今までのご飯も少しずつ食べるようになったのだが、ひとが変わった(犬です)ようにびっくりするほど偏食になっていた。
ドッグフードにはプイッ。シラスご飯、卵かけご飯が好き。
大好きだった茹でた鶏肉もキュウリもプイッ。
バーナーで炙った牛肉とモヤシとゴーヤは好き。
先生に話すと「もう、食べたいものを食べさせてあげてください」と、お許しをいただいたので、家族が食べていて欲しそうにしたものは何でもあげた。夕飯は必ず一緒に食べた。
アシカのようにズリズリと歩きたがるので、得意のハンドメイドで台車を作ってあげると、テーブルの脚やドアや柱の角にぶつかりながらもあっという間にスイスイと乗りこなすようになった。
オムツカバーにはうんちキャッチャー(紙コップ)をクリップで装着させると排泄失敗のストレスもかなり軽減し、「コロン、もしかしたら夏越えられちゃうんじゃない?」と、誰もが思い始めていた。