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連作短歌

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#昨日の短歌

連作短歌「いるかのような」

跳び上がるための練習だったこと伝えないまま今も住む町 まだ海の隣に知らない恋人のいるかのようなその染まりかた ふれているところの汗にいつまでも生きているかのような輪郭

連作短歌「場数」

顔見たらまず信号に一回も引っかからずに来たよと笑う ローソンの青く消えゆく夕方に念じて興すハッピーアワー 環七のバスの窓すこしあいてる立夏パーマをあててみようか

連作短歌「無限後退」

ランダムのなかなか出ないデザインのそれでもこんなに叶いやすくて 非合理を抱きしめようとするヒトの吐き出すものをときどき食べる 決めなよと言われて決めてしまったら悲しくなるのはあなたなのにね

連作短歌「きときと」

逆光のようにうれしい音韻で待合室は和菓子のにおい 家だった学童、学童だった家 風に削られていく砂山 最終は遅れています。窓に雪一粒ごとの違いは消えて

連作短歌「ノーショー」

毎日はやってられない優しさをときどき補充しにくるわたし きめ顔でお別れするのは苦手やし扇風機だけもらってあげる コミュニティーバスの時刻のしらべてもしらべても出てこない啓蟄

連作短歌「誘引」

会話するたびに倒れる寸前のセーブポイント 光でわかる 役割を自分で決めてやらなくていいこと増やして生きたい砂漠 これはもう片思いでもないなんかスプリンクラーみたいなもんだ

連作短歌「スナップショット的」

カタログを見ているときのスピードでわたしの頼りなさを蔑んで 下書きのようなラフさで本心を置く。下書きのようなラフさで、 違う人ならうれしいかもしれないセリフを言って笑う髙橋

連作短歌「ユーグレナ」

あの夜の僕ら絶対ミドリ色だったと誰か信じて、欲しい 一生に一回あなたが叫ぶとこ見たいなあとても美しいから 長生きをしたい 自然な早死にをしたい 片思いをしたままで

連作短歌「槍投げ」

2の速さ4の速さを操ってCM飛ばす夜中の手つき 他人から見える自分と姿見に映る自分の差がモダニティ もらとりあむ人間。もらとりあみながら変な形の階段を撮る

連作短歌「半信半疑」

なんらかのパーカッションになりたくてわけもわからずぬり絵を買った 餅つきは見ているだけが懐かしいくっちゃんくちゃんくちゃんくちゃくちゃ 正解がなくてうれしいお絵描きは中学校のようなカオスさ

連作短歌「運動不足」

連休を喜びすぎて久々に会った男に心配された もう泣かない過半数から支持されたらしい善意が理解不可でも ボウリングの球がゴロゴロ 雷の音がゴロゴロ 報告は愛

連作短歌「豚の生姜焼き定食」

好きなものどんどん減っていく日々をリバーシブルにしてやりすごす 突き詰めてしまえば薬味が食べたくて薬味以外を食べてるのかも 食べ終えた皿と一緒に運ばれていってしまった小さな勇気

連作短歌「かたより」

比喩ですが心の波打ち際に来て 繰り返しよりたった一度で 手作りの椅子をギシギシさせながら春一番に添える指笛 オムライス置き場をビルドインしたい 100年ローンのような生き様

連作短歌「温める」

いつ来ても同じ気温の空港の呼べばもう消えそうな自己愛 大宮に盆栽美術館という場所があるらしいという情報 疲れるね消え合っていく牛乳とココアの渦のようなイラスト