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連作短歌

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#サルトル

連作短歌「(phénoménologie)」

「ほらね、君が現象学者だったらこのカクテルについて語れるんだよ、そしてそれは哲学なんだ!」 眼で視ると感動するということがわかりはじめて空を撮る人 ひとかかえほどの幹、と聴くときの想像上の抱擁のことも サルトルは感動で青ざめた。ほとんど青ざめた、といってよい。それは彼が長いあいだ望んでいたこととぴったりしていた。 振り返るように話そうさわってもいいよ明日には切る髪だから 八月のざんざんと切る黒髪の鏡のなかに降り積もる雪 髪がある カセットテープの傾きに触れる 眠り