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連作短歌

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ふだんの短歌です
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2022年11月の記事一覧

連作短歌「いきさつ」

会話ならしてくれそうに笑ってた記憶のなかのぼやけた黒目 「すごくすごく教えてくれてありがとう」「浮いた時間でまた会いに来て」 好きなひと見て生き延びて順調に凝り固まってゆく君と僕

連作短歌「すみわけ」

友達が百人できる それぞれに百人ずつの友達がいる 伝わらない気配が強い 君のいない 秋の終わりの雨が冷たい 作ったらひとに見せたくなるものと決めつけてまた傷付けていた

連作短歌「不自然関係」

好かれても嫌われてもない綺麗な手に綺麗な豆腐を載せて切るとこ 少しでも触れた瞬間キモすぎる粘度で一生消えない不快 言ってないことがどんどん増えてきてもう取り返しのつかないキモさ

連作短歌「量」

ふりをして ほんとうに無理 価値のこと考えるだけで君のように吐き気 百点をつけ慣れてきた教師との再会の日の性別その他 少数派と思えるとかならまだいいのですが 段階的に弱まる呼吸

連作短歌「ぼくにはもったいない」

妄想を超えるリアルをぼくはまだみたことがない あかるい拒絶 ねころんでポカリこぼしたパーカーのへんなもようをみせてあげない 鈍感でいいねと言われる回数が増えてく、たぶんバス停で会う

連作短歌「妄想」

床で寝た硬い体をワタクシがさすってあげる八畳の部屋 この人の歳になるまであと二十五年しかないのにまだ無冠 現実のキモさへ急に引き戻す力が彼女にとてもやさしい

連作短歌「つよがる」

初めてじゃないことばかり実験のように過ごした二人の部屋だ 適切な季節にきみを思い出すために忘れる必要がある いつもしてないサングラス似合ってはいるけれど恥ずいから外して

連作短歌「星」

質問をすることだけが恋じゃない 永遠みたく薄いカルピス 細分化されたあなたのひとかけはわたしが握っていてよいですか? 恥ずかしくなる日は絶対こないって部分にだけは自信があるの

連作短歌「過剰性」

生活に背凭れが要る いくつもの背凭れでもう満たされた部屋 湖でかつて覚えた優しさが空回りしてしまった模様 分子より分母で似てる人だから お願い。可能性を教えて

連作短歌「相談」

吊革を摑む知らない男性の時計に今を教えてもらう 抱き合って見えてないとき「しめしめ」という顔をされていますように 草原に誰のものでもない犬が揺れていてまた君と離れる

連作短歌「速さ」

勉強のように読書をしてしまう 寝言が怖いクイーンベッド 抽斗から出てきた紙に書いてある今はもう懐かしいだけの夢 細長いグラスでビールを飲んでいるのか想い出を消しているのか