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連作短歌

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2021年6月の記事一覧

連作短歌「六月の終り」

自由自在に紛れこませてみた希望も任意に削除できる真夜中 あまぷらであにめ まだまだ頑張れば背中のあんたに追いつけるかも? 秋になったらあんかけチャーハンたべるんだ にゃーが「おひさしぶり」に聞こえた

連作短歌「ロード」

山道のことを想像するだけでなんだか気持ち悪くなってきた 寄り道がむしろ主要な目的へ反転してく二人の旅路 何でもないような歌が幸せだった 二度とは戻れないかもしれない道だ

連作短歌「風下」

離れても離れてもまだ残ってる匂いとうっすら煙たい感じ 暇つぶしと言ってしまってから少し黙ってしまう(それは後悔) 歩きにくい砂場にたくさん落ちている小さい影を踏んで忘れる

連作短歌「空間・空間・空間」

岬から最も遠い岬までつまりおそらくここは月面 殺風景と言われて泣いてしまったらそれが私の混沌だった 明け方に私の一部を明け渡すみたいやっと瞼が閉じた

連作短歌「会えたからいいや!」

人ん家の庭からはみ出ている花のにおいを嗅ぎに駆け寄ってくる 水色のシャツが干されている庭を右に曲がれば着く君の部屋 完璧な状態で会う計画がだんだん崩れてこうなりました

連作短歌「全能感と無力感(土曜日の夜)」

たくさんの写真のなかの数枚をすぐに見つける能力のこと レコーダーにふきこんでいる言葉たち 聴き返すこと一度もなかった いつまでもこういうふうには生きれない プラスチックの白い手ざわり

連作短歌「感触と(雨の)断片の提出」

始まったときは恋かと思ってた 書いて憶えた偉人の名前 古本のアサヒカメラとばればれの気持ちと歩く寺町通り ぼくらもうこどもじゃないし摑まれた手首の感じ 森の手前で

連作短歌「坂の上まで とどかせて」

演じてるみたいに生きてリビングに米津玄師を流すファミリー 坂の上にいるあなたに見下ろされ象徴的なポジショニングだ 取られたと言ってしまえば被害者になれるんだけど つり革ゆれる 『フラジャイル』という歌集を読み終わりしゃなりしゃなりとたぶん歩ける 口笛で後ろから呼ばれるのが好き 腰の高さに置かれたカメラ

連作短歌「ラストノート」

透明な傘がこの世に生まれた日 終わってしまったことのいくつか 顕微鏡って今はこんな見た目なのか さみしいと人は変なことを言う 緊張が未来を変えて会うはずじゃなかった二人 止まった時計 いつまでも遊んでたくて自転車のタイヤを浮かせたまま漕いでいた ろうそくの火が消えそうな夕方のチャイムがいつもよりも遠くて

連作短歌「ミドルノート」

シーソーをゆっくり漕いでオレンジから紫になる時間を計る 香水を初めて買った駅前のドン・キホーテがなくなっていた 忘れてるふりをして普通に喋る余計なことは言わないように 三時間経ったら切れるタイマーを三回かけても眠れない夜 水平を求めて人はうずくまる 高層ビルを透明にして

連作短歌「トップノート」

入り口はそれぞれ違うわたしたち、もちろん出口もばらばらなのだ 早起きして宿題をやるそのせいで二時間目にはもう眠たいわ 奇跡とは生まれる前から知っていて現世でハモってしまう恋唄 特典でもらったでかいポスターを壁に貼るのは迷ってやめた 時間による変化に弱いわたしたち、楽しめなかった夜の後悔

連作短歌「関係の地層」

窓を重ねて 身体の中に吹き抜けるフリージャズにも似た夏風を 軽薄な季節のように喋ったり触ったりもうできない氷柱 きみがいない その不確かな感触を忘れないでね ぼくもいないよ

連作短歌「ブルートゥース・ジャック」

君の六畳一間に流れる音楽をジャックしてやる空を明るく 懐かしさを操る魔法がとけたなら液体になるICEBOX 爽やかと呼ばれるグレープフルーツの香の如く話す昔のきもち

連作短歌「無重力とともに」

蒸し暑い夜に何年ぶりかもう判らぬほどの判らぬほどの こんなにも無風で息も重くなる駅前商店街の静けさ 沈黙をもてあそびつつ意味のない単語をときどき道に転がす