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連作短歌

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2021年3月の記事一覧

連作短歌「もしも」

木がでかい ニッタじゃなくてシンデンと読むのだったかここの地名は 港町から港町へやってきて僕らは同じ坂を登った 夏の夜のフローリングの冷たさの君のほっぺた 口笛が聞こえてくる

連作短歌「プラスチック」

透明な花びらのこと 想い出は冷たいままでいいと思うよ たまに会うついでに歩く細い細い細い道 春風邪と春風  あなたへの想いのように絡まったイヤホン今は引き出しの奥

連作短歌「坂の途中」

屋外のスケートリンクで手を握るシーンを想像しながら怒る 先輩と坂の途中で仲良くなるそこから一年くらいは続く なぜみんなここから去ってしまったの あげたい本がこんなにあるよ

連作短歌「マスクメロン」

つぶしがきくつぶしがきくとおまじないみたいにマスクの内側が痒い いつもならいっぱい並んでいるはずの焼きたてメロンパンも売り切れ 満開の桜が今日は五分咲きだ明日はここに君もいるはず

連作短歌「背負う」

猿山に猿はいなくてただの山 埋めようとして抱き締めてみる 留学に行けなくなったことにより産まれた異性の子に名を付ける 背負うって口にするのは簡単でジャンクフードはもう食べないぞ

連作短歌「正夢」

守られているのにあふれてしまうもの いつか拾った紺色の箱 羊水のように優しい正夢をワタシの脳に埋め込んでくれ 複数の昔をつなぐハモニカの唄をピアスにして生きていく

連作短歌「乳液のにおい」

ヒートテックのさわりごこちをたしかめてあなたは先にねむってしまう すこしだけ夜を延ばしてくれるなら殺してあげる夢の彼方で 乳液のにおいとつけっぱなしのテレビがひとつの夜でつながっている

連作短歌「さらわれて遠くへゆきたい夜だけど」

消えたあと点くと信じている人の数だけ点滅信号はある  生きるのがじょうずな人よ アルペジオ 東京の川 東京の川 さらわれて遠くへゆきたい夜だけどファミマに寄って五分で帰る

連作短歌「ブックシェルフ」

図書館で見つけた小さな男の子を私はしばらく追いかけてしまう 踏切で追いつきそうになったので不自然に遠い位置に佇む 女の子と待ち合わせして去っていく後ろ姿がちょっぴり大人

連作短歌「フラッシュ・バックドロップ・ホールド」

プロレスとボウリングしかやってない夜のことなど 君に会う前 iPhoneの時計を何度も見てしまう 循環バスが迷路をつくる 一瞬で古傷になるひとことをあなたはいとも簡単に言う

連作短歌「さらば夏の光」

放課後のコートダジュール満室でシダックスまで歩いて行った 五年ぶり二度目で君に勧められやっと読んだらめっちゃよかった 告白をしたらじぇじぇじぇと返されてそれでフラれたことになってた

連作短歌「細い体で」

正直に言えば言うほどタメ口で子どもっぽいとなじられそうで 腕枕しているうちはここにいて オリオン座くらいしかわからない 私より細い体で持ち上げる観葉植物、夕陽を浴びて

連作短歌「至福」

やめちゃったことのリストを作ってさ君が寝てから眺めてるんだ 生きることはやめていくこと 大好きなこととか夢中になれてたことを 毎週のようにガストに集まってドリンクバーを飲んだ友だち