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連作短歌

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2019年12月の記事一覧

連作短歌「表層心理」

よごされてちょっとむかつく昼下り 落とせる染みと落とせない染み 踏切はあいているのに電車来て轢かれる白昼夢の何度目か 知らないのに知ってるって言う友人とのぞく深夜の新宿御苑 知ってるのに知らないって言う恋人とたぶんもう来ない代々木公園 あかねさす葛西臨海公園に忘れ物したから取ってきて

連作短歌「首に君ったけ」

あたりまえみたいにおもっていたけれどあげたマフラーしてくれている 枯らすのはもう嫌だから絵でいいよ寒いしふたりで家にいようよ 寒がりな君のとなりでささやかな言い間違いをそっとメモした おさらいをしてくれないとほとんどがなかったことになってしまうよ あやうさという名の君が歩いてるもうすこし右もうすこし右

連作短歌「月を持つ」

ちっちゃい点みたいなぼくが広大な北海道をいつか歩くよ 弟のナックルカーブのキレ味がとてもすごくて年棒もすごい ニューヨークジョーが2店目だすときの元入浴場風の内装 まっくろなそらにおっきな月が浮く 案外歩いて帰ってこれた 新月をみていたあなた あれ以来TEXMEXの文字が目につく

連作短歌「フレンチ・パラドックス」

住むようなところじゃないよ晴れの日がいちばん多い国にしようよ この人はなにに駆られているんだろうどうしてこんなこと言うんだろう システムが学校みたいだねという譬えは角が立つからやめる 去年見た蠟梅あなたは憶えてる? いっしょに住むってどういうことか トンネルを抜けるとそこはどこでしょうクイズの好きなあなたでしたね

連作短歌「梨田」

仕事だと思って片目を開いたが仕事じゃなくて両目を閉じる 落書きは消すんじゃなくて上塗りをすればいいってきのう気づいた 結婚をしない代わりに梨を食う紙のストロー最近よく見る かわいいと言われたいけど外見のことを言うのはなしだと思う 銀杏のにおいを何度も嗅いでしまう君に何度も電話してしまう

連作短歌「きもち」

先生に贈るきいろい花束を手渡す役に選ばれていた 産まれそうだったいのちが産まれたりしているあいだに正月が来る 永遠と書いてとわって読んでほしい永遠と書いてとわって読むね いやなきもちいやなきもちになるひとがいやなきもちになるひとがいる ちょっと出てくるだけだからそのままにしておく炬燵とテレビと電気

連作短歌「麦茶をパン」

どこからが朝だったっけ駅前に気まずさだけをすこし残して 壊れてるカメラを買うのが趣味ですか私さむさにはつよいんですよ 霧吹きで麦茶をパンに吹きかけて焼くとおいしくなるんだってさ 五周目に入るまえには着くだろう君とつくったプレイリストが 夕焼けは何度も見たけど朝焼けは見たことないって言う人でした

連作短歌「わたしはたべものではありません」

ねこ飼ってないのに君は毛だらけのパーカー着ているなんでだろうな 「ひさしぶり」なんて送ってこないでねわたしの写真はぜんぶ捨ててね 遠回りになるのがいやで歩道橋を避けて歩いてむしろ疲れる スカートの裾をひらひらするだけのユーチューバーをずっと見て寝る 許可もなくわたしをなににもたとえるなわたしはたべものではありません

連作短歌「おともれ」

捨てなくていいけれどもう見ないでね「ひさしぶり」とか送らないでね さよならがいちばんエモい フラッシュの影がフィクションみたいに暗い 音漏れをしてるかどうか訊いてくる距離とか声とかさりげなさとか アフリカの虹を見にゆく いつまでも宇宙と魔法にあこがれている 引き出しに書けないペンが溜まってく さらっと読める小説が好き

連作短歌「荒川線に乗っかって」

歩きつつ思い出しつつ忘れつつラジオ聴きつつ冬の新宿 サイダーをしゅぽんしゅぽんと二本あけ君の背中を見つけたら勝ち 緑が好きバナナマンが好き散歩が好き明太フランスパンが大好き 声もする感触もあるあとなにが? なにがたりない? 荒川線で スペインの古い絵画の中に立つ鏡も少し汚れてたかも

連作短歌「大船観音」

記憶では大晦日だが日記には三十日と書いてあるがな おもしろいひとかどうかは見た目では全くわからないという罠 大人だから社会の常識ぜんぶわかるツインとダブルの違いもわかる 品川のロイヤルホストでデザートも食べるしあわせそうな友達 ひとといて思い出になるホームから見れば充分大船観音

連作短歌「もういちどしたかったです」

外の空気を吸ってくるって言ったままなにも知らない湖は平面 好きな人ができたと言われ思い出す君の桂馬はいつも適当 なんとなく飛車が嫌いで角が好きそんなとこまで似ていたふたり トランプを切るのもへたで散らばってそのまましちゃう夜もあったね もういちど君と将棋がしたかった大貧民も したかったです

連作短歌「ライト・ヴァースららら」

手をゆびと読み間違えた先輩のイメージを経由する言語観 えっおまえあのときカメラ廻してたんいろんなものを見たいと思う 今泉力哉の予告編みたくながーいながーい永い独り言 渋谷区の立派に育った街路樹を切る仕事だから仕事だからね はじめてを取り戻せないぼくたちは数えることもやめてしまって