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連作短歌

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2019年6月の記事一覧

連作短歌「途中参加感」

なぜか逆方向の電車ばかり来る クーポンでおにぎりを五個買う 早足で歩けば街は燃え殻の溜まる速さに泣いてしまって わたしには関係のないお祭りをグーグルアースで真上から見る どの図鑑にも載ってない虫がいて気になってねむれない熱帯夜 言い出しっぺのはずだったのになんだろう途中参加の感覚がある

連作短歌「灰色の濃淡」

ああキミは、アメをくれたね そう、たしかピンクのやつと灰色のヤツ Kindleでも積ん読と言うのだろうか ひとりで小京都へ日帰りを ああああやっぱりこれを見ると帰ってきたって感じがするなああああ あなたについてきてこの村に住むことになっておぼえたことの濃淡 村のどこからでも見える それでこの村には迷子という概念がナイ 見たことはないけどあると信じてる 少しずつ伸びるランドマーク

連作短歌「人生を変えるページを読み飛ばしそのまま生きて死んでいくのだ」

人生を変えるページを読み飛ばしそのまま生きて死んでいくのだ 降りる人より乗る人が多い駅からやってきた 東京にきた 人生を変えるページを読み飛ばしそのまま生きて死んでいくのだ 白線に雨 雨に月 あたらしい駐車場ってなんだかエロい 人生を変えるページを読み飛ばしそのまま生きて死んでいくのだ ふわふわとわたしは言ったフワフワとあなたは言った泣きそうだった 人生を変えるページを読み飛ばしそのまま生きて死んでいくのだ いつまでもどこかの駅が工事中二十三歳最後の夜も 人

連作短歌「夏の染井吉野」

遠い駅へ 夕陽の落ちる稜線は車窓からしか見たことがなく イヤフォンで聴いてるチャットモンチーと同期してくるようにさざなみ 冬のきみが「チャットモンチーを聴くと泣いてしまう」と言って今日が終わった 人がすごく多いみたいだ耳にぐっと押しつけている受話器のむこう 同窓会を知らせるポスター妙によいデザインだけど一昨年の日付 ぼくの家事終わらせて待つ四月尽びんぼーゆすりがずっときこえる 路面電車のくすんだ床のてらてらと新しいことなにもない日日 日没に間に合ってくれ