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アジア人ヘイトについて

 こんにちは。イリノイ大学の山田かおり (@KaoriYamada01) です。去年からアメリカで増えているアジア人嫌悪についての所感を書きます。おそらく日本にいる人達と感覚が違うなということをTwitterで感じたので、話しておきたいと思ったからです。

アジア人ヘイトの対象

 アメリカにいるアジア人で今回のヘイト問題の対象になっているのはAsian American Pacific Islanders (AAPI) と呼ばれていて、極東アジア人(日本人、中国人、韓国人、台湾人など)も南アジア(インド人、パキスタン人、ネパール人)も含まれていますし、たいていのアメリカ人は、極東アジアと南アジアの出身者の見分けはついても、極東アジア人の見分けはつきません。これは日本人にとってもそうで、インド人っぽいと思っていた人がパキスタン人だったりしますし、イタリア人とフランス人の見分けもつかないですよね。同じことです。アメリカ人にとっては、日本人も中国人も韓国人も同じに見えます。その上で、「私は中国人ではありません。日本人です」といえばヘイトから逃れられるかと言えばノーですし、後述しますがこれは正しい態度ではありません。

在米アジア人の背景

 アメリカにいるアジア人にはいろんな背景の人がいて、それぞれアメリカ人は歴史的に理由のある、思いを持っています。まずは戦前からアメリカにいた日本人は、真珠湾攻撃に際に収容所に収監されたという過去があります。自分の親せきが日本人に殺されたという経験のある人もいます。次にシリコンバレーなどIT産業で活躍するアジア人(中国人やインド人)がいます。中国人やインド人は人口が多く多様性も格差もありますが、シリコンバレーで活躍するような人たちは本当に優秀で高収入で、移民なのに彼らに職を奪われた (けど敵わない) と恨みもつアメリカ人もいます。また移民したアジア人は教育にも大変熱心なので、アメリカのトップ大学で素点で合否を判断するとほぼほぼアジア人になってしまうから、白人枠アジア人枠を分けているところもあるほどです。またアジア人女性は従順で言葉が不自由で言い返したりしないからいいという偏見で支配的な気持ちを持つ人もいますし、落としやすい、もっと言えば売春婦のイメージを重ね合わせる人もいます。加えて去年からのコロナウイルスで、仕事を失った人、大切な人を失った人からの恨みもあります。これらの複雑な気持ちがあり、単純にヘイトと言ってもどの気持ちをぶつけられているのかわからないのです。

誰に対する差別にも反対します

 そのなかで、「私は〇〇ではありませんから、私に〇〇への恨みをぶつけないでください」と言ってしまうと、〇〇への差別やヘイトや偏見はしてもいいということになりますね。それは正しくないんです。日本人のなかには日本以外のアジア人に偏見や差別意識を露骨にぶつける人もいますが、それは正しくないんです。アメリカ人から見たら中国人も韓国人も日本人も見分けがつきません。彼らへの差別はいいけど日本人には差別しないで、という理屈は通りません。また日本人であるがゆえに恨みを買っている部分もあるので、「私は日本人です」と言えば大丈夫ということでもないんです。そして、アジア人の多くはアメリカ国籍を持つ、アメリカ人です。私はただの永住権持ちですが、息子はアメリカ生まれのアメリカ人です。見た目ではビザ持ちなのか永住権なのかアメリカ人なのかわかりませんね。見た目がアジア人だと、差別の対象になります。目を細長くするしぐさで (アジア人は目が細いから) 揶揄されたり、「あの子は中国人だから同じ班になりたくない」と露骨に言われたこともありました。この件については母として学校側に抗議しました。念のために言っておきますが、いじめをしてきた側の子供は、中国も日本も区別がついていませんし、おそらく親御さんの影響でしょう。親御さんがどこかで中国人とトラブったのかそのへんの恨みの根源はわかりません。ただ、こっちが言えることは、いわれのない差別やヘイトを受けたら声を上げて抗議をするということだけです。アジア人というだけじゃなく、どの国出身のどの肌の色のどの宗教のどの性自認の人間であっても、差別を受けたくない、傷つきたくない、だから抗議をします。また自分じゃなくても他の属性のものであっても、差別はいけない、それが唯一の最適解だと思います。その上で自分の中にもあるかもしれない無意識の偏見や差別意識にも向き合い、行動に気をつけます。誰に対しての差別もいけない、なぜなら誰も差別されたくないからです。

アメリカにいて感じること

 男性としてアメリカにいる人と、女性としてアメリカにいる人は感覚は違うかもしれません。なぜなら前述の理由でアジア人女性だからちやほやされるような経験もあるからです。ランチにちょっとオマケをつけてくれたり (その代わりに電話番号を聞かれたり) 給仕がやたら丁寧だったり世間話を仕掛けてきたりですね。親切―やさしいー、と思って好意的にとらえていたのが、アジア人女性はちょろいという下心ゆえだったのかと思うと心が荒みますし、そうではない、親切は親切として受け止めたい気持ちはあります。

 また、コロナウイルスが出回ってからは、買い物をしている時に、私を見かけてあからさまに嫌そうな顔をして、「行きましょ」と品物選びも中断してお子さんを連れて離れた親子もいました。大学病院前の道を渡っている時に、遠くから敢えてスピードを上げて突っ込んできた車もありました。私が小走りに渡り切って避けましたが、もし足が悪く走れなかったらぶつかっていたと思います。仕事をなくしたか、大事な人を亡くしたか、見知らぬアジア人女性を見て殺したいとは思わないまでもぶつかりそうになって怖がらせたいくらいの悪意を持つほどのつらいことがあったんだろうと思います。

 勤務先にはいろんな国から来た人が働いています。私のように永住権やビザを持った移民もいれば、何世代目かの外国系アメリカ人もいます。アジア人やアジア人系アメリカ人を守ると、大学から声明を出してくれているのは心強いですし、ありがたいと思います。また露骨に差別をすることは違法ですし、職を失いかねない大問題だという認識がありますので、勤務先で差別を受けることは、表立ってはありません。

 いろんな国からの、いろんな背景の、いろんな立場のアジア人がいるなかで、それぞれのいろんな人へのいろんな思いをアメリカ人が持っていますし、アメリカ人といっても多様ですので、アジア人ヘイトの問題を一言で語るのは難しいです。あなた達が持つ恨みもわかる、だけど誰に対しても差別はいけない、どうか受け入れて同じ人間なんだから、同じ国に暮らすことを認めてください。そして私達も誰に対しても差別はいけないと心に刻んでいくことが、お互いの共存の為に大事なんだと思います。




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