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知って考えてほしい鉄道事故

JR福知山線脱線事故はその被害の甚大さや社会に対する激震の大きさ故に発生日前後は大々的に取り上げられることが多い。しかし、形が違えども、この事故に引けを取らないほど、悲惨な事故は数多くあった。それらの教訓は現代の鉄道を安全に運行できている土台となる出来事もあって、決して風化させてはならないことなのだ。数多ある中から、今回鉄道の安全に大きな変化を与えた出来事、個人的に知ってほしい出来事やそこから何が変わったかをピックアップしてご紹介しよう。

桜木町事故

今から約70年前のこと。桜木町駅(神奈川県横浜市)で発生した列車火災事故。架線の作業をしていたときに誤って架線を切断、垂れ下がった状態になった。そこに桜木町止まりの京浜線(今の京浜東北線)の5両編成の電車が進入。架線が電車に接触したことでショートし出火。木造の電車は全焼し、脱出出来なかった多くの乗客が犠牲になってしまった。
この電車には「ドアコック」というスイッチがあり、扉の空気を抜いて、手動にすることで脱出することが出来なかったわけではないが、足元の分かりづらい場所にあって見つけることができなかった。加えて、窓も開きづらいものであったため、被害が拡大してしまったことが原因だとされる。
事故後、ドアコックの標準設置を義務付け、ドアコックが分かりやすいように掲示することも合わせて義務化された。
↓ドアコックの目印一例(JR西日本205系)

三河島事故

1962年5月3日の夜、常磐線三河島駅(東京都荒川区)で発生した列車多重衝突事故。最初に田端(東京都北区)から水戸に向かっていた貨物列車が脱線。そこに上野発取手行きの下り電車が後ろから衝突し、脱線した。電車の乗客はドアコックを操作し扉を開けてすぐさま逃げ出し、線路上を移動していた。ところが、そこに上野に向かっていた上り列車がやって来て、逃げ出した乗客をはねて、脱線した車両に衝突するという二次災害を引き起こしてしまった。一連の事故で160人の尊い命が失われ、296人のけが人を出す惨事となった。
「桜木町事故」の教訓でドアコックを見つけることはできたそう。しかし、信号係員の指示が遅れたことで、上り列車の乗務員に事故が伝わらず、二次災害を引き起こしたのが原因だとされる。
この事故を機に、列車には「防護無線※」が標準装備され、主要路線への「ATS(自動列車停止装置)」の設置も進められた。(福知山線脱線事故後にはさらに義務化されることとなる。)

※事故やトラブルなどの緊急事態を周りの列車に知らせるために発信して、発信された列車から周囲の列車を緊急停止させるもの。駅や列車内の案内では列車を緊急に停める信号と呼ばれる。なお、緊急事態とは全く関係無い別路線の列車が停められてしまうことも多いほか、たまたま架線の切り替え区間に停車し、下手に動かすと架線が切れる事故の恐れから確認で遅れが増大するなどデメリットも少々ある。

北陸トンネル火災事故

1972年11月6日深夜、北陸トンネル※を走行していた大阪発青森行きの夜行急行「きたぐに」(電気機関車+客車15両)の11号車食堂車から出火、食堂の従業員からの通報でトンネル内で非常停止した。すぐさま消火器で消火しようとしたが、火の勢いが弱まらず鎮火は難航を極めた。前より10両と機関車で脱出を試みたものの、火災で架線が溶かされ、停電し不可能に。救援も後手後手になり、通気の悪い場所ということもあって、乗員乗客30人が一酸化炭素中毒で亡くなったほか、駆けつけた消防署員含む700名以上がけがをすることとなってしまった。
この当時国鉄(日本国有鉄道、今のJR)のマニュアルでは(環境の条件なしで)異常を感じたら緊急停止させることを規定としていたが、この事故を受けて、5km以上の長大トンネルの場合はトンネルを走り抜けてから止めるように変更された。さらに、長大トンネルや地下鉄を走る車両に対しては難燃や不燃の基準が厳格になり、より燃えにくい素材を使うようになった。

※北陸本線敦賀〜南今庄間(福井県敦賀市と同南越前町)にある全長約13kmに及ぶ長大トンネル。陸上にあるJR在来線のトンネルとしては日本最長を誇る。

個人的にこれは知ってほしい鉄道事故をピックアップしてご紹介し、その後の変化も合わせて紹介した。福知山線脱線事故ですら、僕より2歳以上年下の世代はリアルタイムで知らず、中には生まれた頃あるいは生まれる前の出来事となっていて、風化が進んでいる一端を感じられる。今回紹介した出来事は全て、僕が生まれる前のことで個人的には実感がない面もあるが、特に「桜木町事故」「三河島事故」は「国鉄戦後五大事故」として語り継がれていて、福知山線脱線事故同様にそこから何が変わったかを知り、考えることはできる。いつも乗っている列車に安全に快適に移動できているのはこういう失敗から学んでいるからこそ。起こったことは悲惨なことではあるが、このきっかけが我々を安全に目的地に辿り着けるようにする土台となっている面が大きくある。同じような大きなトラブルがあっても、迅速に行動できて、多くの命が救われることにも繋がってくる。他にも風化させてはならない事故は数多あって、いずれも繰り返してはならない悲惨なことだ。

そして、どんな乗り物でも安全のためには妥協してはならない。目先の利益を追っても気がつけば取り返しのつかない大惨事になる。安全に代えられることがあるのだろうか。「二兎を追う者一兎も得ず」とはこういうことを言うのだろうか。

ストリートミュージシャンの投げ銭のような感覚でお気軽にどうぞ。